<23>勇者修行⑥
食事を終えた俺達は、バラクマゼ御一行と別れ城下町に来ていた。
皆一旦改修工事を止めて、余り損傷の無い家にお邪魔したりと住人同士助け合っている。
そんな光景を見ながらリーラの宿屋へ向かうと、損傷した宿屋の前に茶髪の若い女の子が立っているのが見えた。その女の子は何かに気付いたようにこちらを見ると、一目散に俺の目前まで駆け寄ってくる。
「ライトさん皆さんお帰りなさい!」
「おうミリカ、ただいま。結構直ってるじゃないか」
昼間は半分ごっそり無くなっていたが、今は消された一階の部屋はもう出来ているし、二階の部屋もまだ外から中が見えるとはいえ、そこら辺を直したら普通の宿屋に見えなくもない。
「お父さんが頑張ってくれたんですよー」
流石B級冒険者のおっちゃんだ。力持ちがいれば木材を運ぶにも時間がかからないしおっちゃん様様だな。
「ところで、あの後ライトさん達はどこへ行ってたんですか?」
「天下の勇者様の修業のお手伝い」
「勇者!?あんな有名人となんでまたライトさんが?」
「マスターの力をこの王都の騎士団長という厄介な奴に見られまして、マスターは嫌で嫌でしょうがないのに脅されて付き合うことになったんです。ああ、何だか腹が立ってきました....バラクマゼの奴今度会ったら消し炭にしてやります」
「それはやめようか」
メルさん怖い。
「...そ、そんなことがあったんですねー」
ほらちょっとミリカも引いてるじゃないか。
暫く苦笑していたミリカだが「あ!そういえば!」と何かを思い出したように手を叩く。
「ライトさん達が昼間に何処かへ行った後に冒険者達が押しかけてきたんですよ。メルさんが泊まってる宿屋はここか、って」
その言葉にメルがバツが悪そうな顔をする。
「メルさん...何かあったんですか?」
何も知らないミリカに昼前にあった事を伝えると、ミリカは「成程...」と納得したように呟いた。
「まあでもメルさんがいないと皆やられてたわけですし良かったじゃないですか!」
「そりゃまあ皆が助かる分には良いんだけどさ、やっぱほら目立つって嫌じゃん」
記憶を無くせる魔法とかあれば是非とも使いたいけど、そんな魔法今まで見たことないし、仮にあったとしてもどうやって発動させるのか分からないからなぁ。
「ライトさん神様なんだし何とか出来ないんですか?」
「それが出来ないから困ってんだよぉ。魔法は何でも使えるとか言ってた癖に使い方が分からないんじゃどうしようもねぇ...」
今度神界にお邪魔させて頂いて、俺の知らない魔法諸々教えてもらおうか。
いやでも、ラグリ殴ったまま戻ってきたし絶対ラグリ怒ってるよなぁ。
あれから半日以上は経ってるけど、何もしてこないのが逆に怖い。
一体何を考えているのやら...。
「おーい、ライトさーん?」
気付けばミリカが俺の前で手を振っていた。
「あぁ、悪い悪い。何だ?」
「いや、取り敢えず家でご飯を食べないかと思ったんですけど、疲れてる様子ですし休んだ方が...」
心配な面持ちでこちらを見つめるミリカ。
別に疲れてはいないが、考え事をしてる時の反応を見てそう思ったのだろう。
「いんや、腹減ったし食べるわ」
「体は大丈夫何ですか?」
「平気平気ーあんなので疲れてたらこの世界で生き残れないからな」
「あんなので....って朝から魔王軍と戦って昼間から勇者の修行ってかなりハードだと思いますけど...」
確かに字面だけ見れば割とキツそうだけど、バラクマゼ率いる騎士達人間でさえ出来ているんだ。
「神の俺に不可能はない!」
まぁ実際結構あると思うんだけどね?ていうかさっき出来ない事があったばっかだし。
しかしその言葉に、ミリカは頷き、リーラも肩越しで俺の名前を呼びながら喜んでるし、メルに関しては...
「あぁ...流石はマスター!私は貴方から生まれて光栄に思います!」
崇め立てるかのように膝を付いていた。
もう何が流石なのか分からないし、まず余り絵面が宜しくないからやめて!
「あー!は、早くミリカのご飯が食べたいなー!」
通りかかる人達にジロジロと見られるので、メルを無理矢理立たせて宿の中へ入っていく。
ミリカも続き、宿のドアが閉まると同時に俺は溜め息を吐くのだった。
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勇者の修行が始まって一週間が経過した。
この一週間冒険者に絡まれたりなどあったが、特に問題らしい問題は起きていなくて、静野も着々とレベルを付けていった。
今ではもうSSS級の魔物単体なら、難なく倒すことが可能である。
集合時間の午前10時に城の庭に向かった俺達。
そこには、この一週間見てきたヘラヘラ笑っているような顔は少なく、決意を決めたように顔を引き締める勇者達が多かった。
理由は、今日向かうダンジョンにある。
今までは騎士専用のダンジョンや、少し遠くの森で修行をしていた勇者達だが、これから向かうダンジョンは熟練の冒険者だろうと命を落とす危険のあるS級ダンジョンだ。
勇者達のステータス的には、今回のダンジョンの参考となるS級冒険者がいなかったので大体だが、A級冒険者よりかは数値がどれも高かったのでまぁ何とかなるだろう
因みにバラクマゼのステータスは、A級冒険者より圧倒的に高かった。
ま、今の静野よりは低いが。
バラクマゼが話を終えた所で、勇者を騎士が取り囲むように進む隊形になる。
S級ダンジョンは王都の南にあるので、城門を通らなければいけなく、俺達は後ろから付いて行く事になった。
「うわぁ、やっぱあそこにいなくてよかったわ」
城門を通るには街の中を歩く必要があり、そして現在勇者達は騎士達に囲まれ街道を歩いているのだが...
「キャー!勇者様よ!」
「こっち向いてー!勇者様ー!」
「勇者だ!かっけぇぇ!」
ご覧の通り、人だかりが出来ている状態である。騎士達がどうにか抑えてはいるが、数が数なので全く先へ進めていない。
だから嫌なんだよな。有名になるのは。
「すみません皆さん!これから勇者は修行に行くのでここをお開けください!」
バラクマゼが叫ぶも、衆人はまったく聞いておらず勇者に手を伸ばすばかりだ。
その勇者達もまんざらでもないようだから困る。
遂にバラクマゼは騎士の一部を前方へ移動させ、全力で押し進むという強行突破へ出た。
声が上がるが、バラクマゼは知らんとばかりに突き進んでいく。次第に前方には人がいなくなったので、バラクマゼはこれ見よがしに勇者達を引き連れ、門外へと走っていった。
「人気者は怖いですね...」
頬を掻きながら苦笑するメル。
って言ってもお前もその人気者だからな?
「他人事じゃないんだから、お前も気を付けろよ」
「はい。もし近寄ってくる奴らがいればその前に消し炭にします!」
「それはやめろ」
メルにチョップを入れつつ、肩で眠るリーラに目をやる。
「それにしてもぐっすり眠ってますね」
「まぁ、この一週間ずっと静野の修行に付き合わせてたからな。もう少し寝かせてやろう」
「そうですね」
ステータス的には、リーラの体はそこらの冒険者よりも丈夫な筈だが、何せまだ八歳だ。精神面で疲労が溜まってたんだろう。
申し訳ない気持ちでリーラの頭を撫でながら、次からはリーラの体調を優先しようと決めた。
それから俺達は、バラクマぜ達を追おうと南門を通った。
転移魔法で行けば楽なのだが、それを使うと転移先に誰かいたら面倒な事になると思ったからだ。
S級のダンジョンまでは徒歩一時間程なので、走っているバラクマゼ達はそろそろ着いている頃だろう。
案の定、S級ダンジョンの象徴的な巨大な入口の前で準備体操をして俺達を待っていた。周りに殆ど何も無いせいで無駄に迫力感があるんだよなこの入口。
「来たな」
俺達が来たのを確認したバラクマゼは、勇者達を自分の元へ集め口を開く。
「勇者の諸君。これから行くダンジョンは今まで戦った魔物とは比べ物にならない強さを持った魔物がそこら中にいる。今までのように戦いの中で談笑などしていたら魔物の餌食になるだろう--」
バラクマゼの話を勇者達は真剣に聞いていた。あのチャラ男でさえだ。まぁ無理もない。もしかしたら死ぬ、なんて事もありえるからな。
「--話は終わりだ。では、そろそろ行こうか」
バラクマゼを初めとして、勇者達がダンジョンの中へと入っていく。
っと、そろそろリーラを起こさないとな。
「リーラー、そろそろダンジョン入るから起きろー」
「.....んぅ...?.......りゃいとぉ?」
「おう、そうだぞー。おはよう」
「うみゅぅ......はよー.....」
「寝起きのリーラ可愛すぎます!可愛すぎます!」
「....ぅぅ...めるうるさい...」
まだ眠いのか、目を擦りながらメルの顔をぺたぺたと触るリーラ。
メルはそれを嬉しそうに受け止めている。っておい。
「立てるか?」
俺が問うと、リーラは首を横に振った。
「そかそか。んじゃあ俺達も行きましょうかね」
そう言って、俺達もダンジョンの中へ入った。




