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<19> 勇者修行②

勇者と騎士の集団は絶対に目立つと出発前に思っていた俺だが、バラクマゼは考えていてくれたようで、城の裏口へ行くと、隠し扉がありそこから王都の外へ出ることに成功した。


誰にも見つかることなく、北東へ歩き続けること十数分。

数百メートル規模の小さめの森の中へ入ると、バラクマゼが止まり何かを探し始めた。


「ここだ」


一面落ち葉や木の枝の地面から出ている、鉄のようなもので出来た棒を握り、前に押すバラクマゼ。

すると、どこからかカチッとした音が聞こえてきて、ここ一体が軽い揺れに襲われた。


「ななななんだ!?」


「ダンジョン楽しみだね!春人!」


「まずは事実確認だ。足あるなよーし。手あるなよーし--」


勇者達の方からそんな声が聞こえてくる。


「少し下がれ」


バラクマゼの声によってその場から離れると、俺達の立っていた場所が動き出した。

ガガガと音を立て動き続け、その音が止まると恐らくダンジョンへの入り口だろう階段が現れる。


「うぉぉぉ!ダンジョンっぽいな!」


バラクマゼに続き、騎士、勇者、騎士の順番で入っていく。

俺達も付いて行き、薄暗い階段を下りて行くとダンジョン特有の円形の広間に着いた。この部屋は準備部屋みたいなもので魔物は出てこない。


「うわ~よく見るダンジョンだ~」


円周に等間隔で配備された灯火を眺めながら言う勇者や、壁に頬を擦り付け「ダンジョンだぁ」と呟く勇者を横目に、俺はリーラとメルの方を向いた。


「なんかこういうの新鮮だな」


「そうですね」


つい笑みがこぼれた俺に、メルも笑みを浮かべる。


「あのひとたちおもしろーい」


リーラもどうやら面白かったらしく、口元に手を当てて笑っている。


「勇者達が元いた世界にはダンジョンが無かったらしいのに、ほとんどの勇者が知ってるってのも気になるし。ちょっと面白くなってきたな」


「そうですね。ですがマスター、人に武術を教えたことはあるのですか?」


「ないな」


リーラと出会うまでずっと一人でやってたからな。ま、二人になっても結局ほとんど俺だけでやってたけど。


「でも今回はバラクマゼとか騎士団の連中が指南するだろうし大丈夫だろ」


「らいとはなにするのー?」


「勇者と仲良くなるのが俺の仕事だな」


ダンジョンに来る前は、大して乗り気じゃなかったんだけど、ダンジョンに向かう途中に聞いたことも無い事をバンバンと話す勇者に、いや...勇者の世界に少し興味を持ってしまった。


「むー」


女勇者と俺を交互に見て、頬を膨らませたリーラに口元が緩むのが自分でも分かった。


「リーラが一番だからな」


毎度お馴染みの言葉を掛けると、リーラは喜ぶ。


「マスター、私は...」


シュンと落ち込むメルに、「リーラもお前もどっちも一番だぞ」と言うとメルも頬を赤くする。


その言葉を言った直後、何故かチャラ勇者の面影が。

そして俺は気付いた。


俺、クズじゃん


チャラ勇者に嫌悪感を抱いていたが結局自分も同類じゃないか?

まぁあんな初めて会った瞬間にナンパみたいな事は流石に出来ないけどさ。


「なぁ、俺ってクズじゃね?」


「女の子好きなのは知ってますね」


「りーらもー」


「ですよねー」


メルは多分生みの親の俺に気遣ってるのか言葉をオブラートに包んで言っているが、言いたいことはつまり、女垂らしだろう。


だがそれには言いたい事がある!


「でもさ!?美少女がいたら好かれようとするのが必然だろ!?女垂らしの奴の気持ちが俺には分かるよ!?だって俺も女垂らしだから!可愛い女の子に目が無いのは男なら殆どがそうだろ!俺はな--」


「マスター、少し落ち着いてください」


メルに制止され、ハッとなり辺りを見渡すと、全員が俺の方を向いていた。

女勇者は勿論の事、騎士団の連中まで冷ややかな視線を送ってきた。


「らいと...りーらのこと....すきじゃないの....?」


ふと声がする方を見てみれば、今にも泣きそうな震え声で俺を見つめるリーラがいた。目には涙が溜まっていて、俺の発言次第では泣いてしまうだろう。


「リーラ....俺はお前に好きっていう感情以外を抱いた事は一度も無い。家族を嫌いになるわけ無いだろ?」


これはまごう事なき俺の本心だ。誰に何と言われようとこの気持ちは絶対に変わらない。


この気持ちが真剣だという事を伝えるため、リーラと見つめ合う。

何秒経ったか...リーラが口を開いた。


「......ほんろ...?」


「ああ。本当だ」


「.....りーらも.....すき」


リーラの瞳から涙が溢れる。

しかし、悲しくて泣いたのではないと思う。

リーラは泣きながら...笑ってるから。


「ライト君....その、すまないがそろそろ」


「悪いな。時間取らせちまって。行こうか」


リーラの手を握ると、ギュッと握り返してきた。


「マスター...私を忘れないでください...」


「メル、お前も俺達の家族だからな」


「マスター...」


「ごほん!ごほん!」


「たった数秒だろうが」


わざとらしく咳払いをするバラクマゼに、愚痴をこぼす。


「....では、これより先は実践訓練の為、無駄話を慎むように。今回倒す魔物は、君達が倒したスライムみたいな魔物とは違う。動きが早い魔物もいれば、透明化する魔物もいる。そういった魔物を倒す為のコツや武術について私達が全力で教える。だから君達も付いて来てくれ」


そう言うと、一拍置き


「いくぞ!!」


「「「はい!!」」」


バラクマゼの掛け声に勇者達が大声で返し、そんな勇者を見てフッと笑うと扉を開けた。


「うわぁ...何も見えない」


勇者の一人がボソッと呟いたのが俺にも聞こえたのは、一直線に伸びる通路のせいだろう。声が反響するので少しの音も響いて聞こえてくるのだ。


通路の奥は闇へと閉ざされていて、ここから数メートルくらいしか先が見えない。それもこの広間の灯火のおかげで、扉を閉めるといよいよ何も見えなくなるだろう。


「『光明ピカロン』」


先頭のバラクマゼが明かり代わりとなる魔法『光明ピカロン』を唱えると、バラクマゼの前斜上ら辺に両手で抱えるくらいの大きさの光玉が現れる。それを確認した騎士団も同じ魔法を唱えると、通路の奥は見えないにしろ、この集団の周りは明るくなった。


横に10メートルはありそうな通路に、5列で並び進む。

勇者達は緊張しているのか、一言も話そうとしない。これじゃ俺も話せないじゃないか。


暫く歩いていると、靴を履いて鳴る音とは違った足音が聞こえてきた。


「グギャギャギャ」


足音と共に濁った声が響き渡ると、先頭が足を止める。


「君達、こいつはゴブリンという魔物だ。手に持っている棍棒で殴りかかってくるが大した速さではないから避けてみろ」


ゴブリンー緑色の体表で人よりやや小さめな魔物で、正直言って雑魚だ。


5人の勇者が1匹のゴブリンと対峙する。ゴブリンさんご愁傷様です。

見れば勇者達はゴブリンを見ながら嫌な顔を浮かべていて、怖いのかなと思っていると、嫌な顔を浮かべながら俺の気になる単語を話していた。


「うっへぇ、リアルゴブリンってやっぱグロイぃ」


「ゲームの中のゴブリンは可愛いのに」


「いや可愛くねぇから」


ゲーム?それはなんだろうか。

また勇者達が異世界の話をし始めたことに、俺は聞き耳を立てる。が、しかし


「君達、無駄口を叩くなとさっき言ったばかりだろう。まあゴブリンを知っているようで少々感情が抑えられないのは分かるが、これは立派な戦いだ。真面目にやって貰おう」


バラクマゼが少し強気な声で注意し、勇者達は「すみません」と素直に謝り、剣を構える。

もうちょっと聞きたかった...。ま、まあ仲良くなれば聞けるよね?仲良くなれる気がしないけど...。


しかし...ゴブリンが可哀想になってきた。ゴブリンが死ぬことに対して言ってるんじゃない。そんなの俺は何百体も殺したからな。

可哀想といっているのは、ゴブリンが現れた瞬間からずっと威嚇をしているのに、誰も怯えないからだ。

威嚇は相手を震え上がらせたりする効果があると聞くが...やはり力の差ってのには抗えないんだな。


威嚇が聞かないと今更分かったゴブリンは、勇者の一人に向かって棍棒を振り、殴りかかろうと飛び出した。


「え!?俺かよ!」


間一髪横に飛んで避けると、ゴブリンは別の勇者へと同じように殴りかかろうとする。


「意外とはや...っ!?」


前の勇者の真似をして、横に飛びゴブリンの攻撃を避けた勇者だったが、ゴブリンは避けるのを分かっていたかのように棍棒を横に振り、勇者の腹に見事当て軽く飛ばすことに成功した。

傍観していた勇者達は驚いた顔をすると、尻餅を着いている勇者の下へ行き「大丈夫!?」と声を掛ける。


「そんな痛くは無いけど...衝撃が結構くるな」


腹を押さえながら立ち上がる勇者に、周りから「ちょっと怖くなってきたかも...」など弱音を吐く声が聞こえてきた。


「君達、心配してる場合じゃない。魔物は君達がそうしているのを待ってくれないぞ」


ゴブリンの腕を掴み、抑えながらバラクマゼが言うと、怖くなったのか後ずさり男勇者の後ろに隠れる女勇者達。男勇者の数人も少々ビビってるように見える。


「はいはい!次僕がいっていいですか!」


そんな状況の中、手を上げながら大きい声で言うやや小柄な勇者に、バラクマゼは感心したような声で「よし、祐樹やってみろ!」と言うと、ゴブリンから手を離しその場から素早く離れた。


ゴブリンは近くにいる奴を手当たり次第に襲うので、祐樹と呼ばれる勇者がゴブリンに近づくと、グギャァと鳴きながらゴブリンが襲い掛かる。


「お、確かに速いかも! ...よっと!」


口ではそう言いつつも、軽く避けた祐樹に、勇者達は「凄い」と感嘆の息を漏らす。


「団長さん!これって...おっとっ....僕が倒してもいいんですか!」


「ダメだ。ゴブリンが1匹のうちに、全員1回はゴブリンと向かい合ってもらう」


「「「そんなー!」」」


祐樹と女勇者と少数の男勇者の声が見事にハモる。


「祐樹そろそろ交代だ」


そう言ってゴブリンを掴み上げると、祐樹が「ちぇっ」と舌打ちをして、ある勇者の方を向き笑顔で言う。


「じゃあ突撃兵志望の春人!次頑張って!」


その言葉に、バラクマゼや騎士団の人達は「ほほぅ」と感心したといった感じだった。

対する春人という勇者は、大分顔が引きつっている。


「ほら、春人行けって」


「おい、ちょまっ!」


仲間の勇者に押され、前に出た春人にバラクマゼが合図をし、ゴブリンを離した。


「ギャギャギャ」


やはり、春人に飛び掛かるゴブリン。

ゴブリンもゴブリンでさっさと逃げればいいのに...まあ捕まるでしょうけど。


「ちょ、無理無理無理! ......えっ...?」


今起こった事ををありのまま話すぜ。

迫り来るゴブリンに驚いて、目を瞑りながら握り拳を前に出したり下げたりしていると、その一発がどうやらゴブリンに当たって吹っ飛んでったぜ。


「「「えぇぇぇぇぇぇえ!?」」」


勇者の殆どが驚愕の声を上げた。


「こんなあっさりと倒せるの!?」


「私達ってそんなに強いの!?」


など聞こえてくる。まあ勇者だからな。


ふと、祐樹の方を向くと唸っていた。

多分、「僕が倒したかった」といったところか。


「....春人が倒してしまったから先へ進もう。この通路を抜けたら、ゴブリンよりもっと強い魔物が結構出てくるから覚悟しておけ」


「そんなぁ...帰りたいよぉ」


そう呟く女勇者が幾人かいる。

勇者達からすれば、突然この世界に連れてこられたかと思うと、魔王を倒してくれと言われていい迷惑だろう。それでも修行をしようとここにいる勇者達は俺なんかよりよっぽど優しく心が強い。

俺がもし勇者だったら城に引きこもってたな。絶対。


「その件は本当にすまない...だが君達勇者は私達の希望なんだ。どうか力を貸して欲しい」


申し訳なさそうに詫びるバラクマゼに、勇者達の一部がバツが悪い顔をする。


しかし、それで許せたら人間出来すぎているだろう。


「そんな事言ったって、怖いものは怖いんだからしょうがないじゃない!それに家族だって今頃心配してるわ!」


「本当にすまない」


遂に土下座までして謝るバラクマゼ。騎士団の人達もバラクマゼに続き土下座をして謝る。


「ま、まぁこの世界にも楽しい事があるかもしれないし、帰りたい気持ちは俺も分かるけどもう少し後でもいいんじゃないか?」


土下座する騎士団達を見て辛くなったのか、イケメンの勇者が女勇者の目を据えて言うと、女勇者の頬が赤く染まり、


美希斗(みきと)君が言うなら...もう少し頑張ってみる」


と、一先ず抑えてくれた。他の帰りたいと言っていた女勇者も全員が頑張ると言い、バラクマゼ達は美希斗と女勇者達に改めて礼を言った。


「顔を上げてください。俺は苦しんでる人を見るのが本当に嫌なんです。それも王女様や騎士団の皆さんは本当に苦しんだでしょう。そんな人達を放っておくなんて俺は絶対に嫌だ。貴方達が俺らを希望と言うのなら、俺は最後まで戦います」


何このイケメン...マジイケメン。

女勇者は勿論、男勇者の殆どが美希斗に熱い視線を送っていた。


「よし!みんな頑張ろうぜ!」


「「「オーッ!!」」」


1人の掛け声が火種となったのか、勇者達が一斉に声を上げた。

少しでも面白いと感じて頂ければでいいので、評価やブクマよろしくお願いします。


改稿: この世界を救おう→がんばろう

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