<18> 勇者修行①
部屋に入ると予想通り、勇者達が一斉に俺達の方を向いてきた。正確にはメルとリーラの方を。
「きみきみぃ〜、可愛いねぇ〜今いくつ〜?」
勇者の中から金髪のチャラそうな奴が出てきたかと思うと、メルの方へ近づく。対するメルは若干引いていた。
そんなメルに気付いてか、チャラ勇者は「無視すんの〜?俺早速嫌われちゃった〜?」と笑い始めた。
(何このチャラ勇者うぜぇ。てか早く始めろよ)
内心そう思った俺は、バラクマゼを肘で小突いた。
その意図を察したバラクマゼは、チャラ勇者を止めると席に座るよう促す。
「マスター、私こういうの苦手です」
横にいる俺に、ギリギリ聞こえる声で話しかけてくるメルに「俺もだ」と返す。
ホントこういうチャラい奴ってどの世界にもいるんだな。
「勇者の諸君。君達をなるべく早く、且つ安全に強くする為に私達騎士団は冒険者達を雇う事にした。この3人がその手伝ってくださる方達なので、くれぐれも無礼の無いように頼むぞ」
勇者達は「はい」と返事をする。
チャラ勇者を見ると、止められた事が気に食わないのか不満そうな顔をしていた。
「ではライト君達、軽く自己紹介を」
俺達の方を向いて言うバラクマゼに、首を振るだけの返事をすると、勇者の方を向いて挨拶をする。
「えー...こんにちはー、えーライト・ブレイカーって言います。よろしくお願いします...」
思った以上に噛んでしまった。
勇者達は特に反応する事もなく、無表情だった。
「次はリーラいくか」
小さな声でリーラに合図すると、ビクッと体が揺れだす。
リーラは明らかに緊張しているようで、勇者達の前に立つと、勇者の男子達が「やばっ、俺ロリコンに目覚めそうだわ」「え、ここってファンタジー!?」「ヤベェ可愛すぎる」等と口々に言うもんだから、怯えてしまった。
「えっと、この子はリーラって言います」
代わりに俺が答えてやると、リーラは俺を見てニコッと笑った後、俺の後ろに隠れた。
最後はメルだけど...
「おいメル。変な事言うなよ。ただ自分の名前とよろしくぐらいでいいからな」
「はい...?マスターは何を心配なさってるんですか?大丈夫ですよ」
...なんか心配なんだよなぁ
メルが勇者達の前に立つ。
リーラに並ぶ美貌で、自分達と同年代位のメルだ。
予想通り男子達が騒ぎ出した。そんな男子達に女子は冷ややかな視線を送る。
そして俺には、なんで女の子は可愛いのに男の方はカッコよくないんだと言いたげな感じの顔をしていた。
「勇者達の皆さん。私はここに仰せられるマスターの僕のメルといいます。突然ですが、今マスターを睨んだ奴はどなたですか?今すぐ出てくれば半殺しで済ましますが、出てこなければ皆殺しですよ?」
「「おいやめろ」」
俺とバラクマゼの声が見事にハモり、メルを止めようとする。しかしメルは殺気を止めようとせず寧ろ強めていく。
(しょうがない)
意地でも止めようと恥ずかしさ覚悟で前から抱きつくと、一瞬でメルの顔が赤く染め上がった。ついでに俺も顔が熱い。
「ひゃ!? ままましゅたー!?」
「い、いいから落ち着け。別に睨まれた事なんて怒ってないから」
「ひゃいっ...」
離れると、メルは名残惜しいのか頬を赤く染めたまま俺をずっと見つめていた。
にしても何で俺はハグなんてしてしまったのだろうか。勇者達の視線がマジで怖いんだけど。特に男子のは視線だけで人を殺せそうな勢いだ。いくら嫉妬の視線を向けられるのが好きな俺でも流石に居心地悪い。
「挨拶も終わって早速なんだが、ダンジョンに修行に行ってもらう」
バラクマゼの言葉に勇者の一部が過剰に反応する。どうやら話を聞くに、勇者達のいた世界にはダンジョンがないらしい。
しかし...この近くのダンジョンといえば、古龍がいたSSS級のダンジョンとS級のダンジョンしか存在しなかったはずだ。S級なんて勝てるのか?
北にまだ難易度の低いダンジョンがあったはずだが馬車を使って3日はかかるし。
「おいバラクマゼ。ダンジョンってどこに行くつもりなんだ?」
勇者達がダンジョンに行く準備をしている中、特に準備することも無い俺は、質問ついでにバラクマゼに話し掛けた。
「この王都の近くに、冒険者達は知らない秘密のダンジョンがあってな。今日はそこへ行こうかと思っている」
「へぇ。そんなところあるのか」
「騎士団専用のダンジョンだからな。他言無用だぞ?」
「わーってるって。で、そのダンジョンの魔物は強いのか?」
「騎士になったばかりの者が修行の場として使うダンジョンだ。あまり強くは無い」
「勇者じゃ手が余るんじゃないか?」
下級魔族を倒せる程のステータスを持つ勇者なら余裕過ぎるだろうと俺は素朴な疑問を感じた。
「まずは戦闘経験が一切無かった勇者達を魔物に慣らせようと思ってな」
そういう事か。確かによく考えてみれば下級魔族にステータスは上回っているが、戦闘経験が一切無いならば魔族が有利といえるだろう。こいつ、団長というだけあって意外と考えてるんだな。
「でもさ、そこに俺達必要か?SSS級のダンジョンならまだしも、今から行くダンジョンならお前ら騎士団の連中だけでも十分だろう」
「ん?ちょっと待て。お前SSS級のダンジョンに入ったことあるのか?」
「...んなわけないだろ。SS級のダンジョンも踏破出来ない俺がその一つ上のダンジョンに挑戦なんてするかよ」
「そうか...しかし、あの大きさの大穴を開けられるのはSS級かSSS級ぐらいなんだがな」
「それは......それは俺達3人の合体魔法だ」
「何?お前ら合体魔法も使えるのか...?いやしかし、ライト君とメル君は使えるにしても...」
リーラの方を見て首を傾げるバラクマゼに、俺は首を横に振って答える。
「俺の仲間だから同じくらい強いに決まってんだろ」
「それもそうか...すまない。疑ってしまって」
「いいよいいよ。疑うのもしょうがないし」
何とか誤魔化せたようだ。にしても我ながら見事だな。あんな咄嗟に嘘が出てくるとは。詐欺師の才能でもあるのかもしれない。
「さっきの話に戻すけどさ、俺達今回必要か?」
「来週にはS級のダンジョンに行こうと思っているのだが、それまでに多少の交流はしておいたほうがいいだろう。仲間との団結力が深いほど攻略しやすいからな」
「今の内に仲良くなっとけって事か...別に必要ないんだけど」
俺がボソッと呟くと、バラクマゼは苦笑した。
そこで勇者達の準備が終わったのか一人の男子がバラクマゼへ報告に来ると、外へ出るよう促した。
「そういや、メル。さっき見なかったけどどこ行ってたんだ?」
赤絨毯が敷かれた廊下を歩いている途中、ふと気になった俺はメルに質問した。
「同じ部屋にいましたよ...ただ、男共に囲まれていたのでマスターからは見えなかったとは思いますが」
「あぁ、あの男子が密集してる所にお前いたのかよ」
「はい......私もリーラみたいにマスターに抱きついておけばよかったです」
珍しく疲れてるのか、力無く話すメルに、この状態で話すのは空気が読めないんじゃないかと思った俺だが、メルが言った「抱きつく」という言葉にいくつか言いたい事があったので言う事にした。
「お前抱きつかれたら恥ずかしさで顔真っ赤になるのに自分から抱きつくなんて無理だろ」
「うぅ...これから慣れていきますよぅ」
メルがそう言った所で、扉を開ける。
城の庭といったところか、そこにはバラクマゼ及びバラクマゼ率いる騎士団が列を作り、勇者達を挟んでいた。
俺達は最後だったようで最後尾に並ぶと、それを確認したバラクマゼが口を開く。
「よし、これで最後だな。では、これよりダンジョンへと向かう」
バラクマゼに続き、俺達はダンジョンへと足を進めた。
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