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<17>脅し

3000文字以上頑張ってます。

「バラクマゼの奴許さねえ...」


城内の、ある部屋の扉の前で俺は呟いた。


何故俺が城内にいるかというと、それは一時間と少し前の出来事である。


勇者防衛戦で勇者を守りきることに成功した人類は、この戦いで命を落とした騎士や冒険者を弔った後、魔族によって破壊された家々を直そうとみんなで改修工事をする事になった。

俺も住む所が無くなったので手伝っていると、突然、全身金色の鎧を身に纏った男に声をかけられた。


「すまん。少しいいか」


「え、はい。いいですよ。行くぞ」


「うん」


「何だその子は」


リーラを指す男。


「俺の連れです。何もしないので連れて行ってもいいですよね?」


「う、うむ。別にかまわんぞ」


その男に人気ひとけの無い所に連れて行かれると、突然俺を殴ろうとしてきたので、横に避けると「見事だ。やはりあれは君だったか」と言い、少し時間を置いた後


「勇者の修行に付き合ってくれないか?」


と、真剣な目つきで言われた。

対する俺は突然殴りかかってきたかと思うと、いきなり勇者の修行に付き合って何て言ってくるもんだから困惑していた。


「勇者っていうと...あの?」


「そうだ」


「でもなんで俺?」


「南門と東門で複数の魔族を君が倒すところを見た」


あちゃー。見られちゃってたかー。

手で頭を押さえた俺を見て確信したのか、男は頭を下げてくる。


「頼む。この通りだ」


「...んなこと言われてもさ、俺あんま目立つの好きじゃないんだよなー」


「大丈夫だ。そこは何とかする」


「いや無理だろ」


勇者が一人だけってなら、変装でも何でもさせて連れまわせるけどさ、約20人だよ?20人。

そんな数の奴らを連れまわしたら変装させても絶対見られるだろ。


「リーラも目立つの嫌だよな?」


「うん。やー」


「リーラも言ってるんで、これで失礼します」


男の横を通り抜け、背を向ける。


「もし手伝ってくれないというならば、こちらも相応の手段を打たせてもらうことにする」


「は?」


その言葉に振り返った俺に男は続ける。


「君達が魔族達を倒したという事実を、王様に報告させてもらう。ついでにあの大きな穴を開けたのが君達だという事も」


「なっ!?」


こ、こいつ!なんてやつだ!!

傍から見たら、別に嫌なことなんて無い。むしろその逆である。

しかし、俺からすれば迷惑もいいところだ。通りすがった人には挨拶をしなければならないし、外では常に見られて監視されてる感じだし、自由に動けないったらありゃしない。


「どうだ?手伝う気になったか?」


「ま、まずお前の言うことを王様が聞いてくれるかどうか分からないじゃねーか」


そうだよ。王様がそう簡単に信じるわけが無い。


「その願望を砕くようで悪いが、一応私はこの王都の平和と秩序を守る騎士団の団長をやっていてな。王の信頼は得ているつもりだ」


そう言うと共に、兜を脱ぐと整った顔が露わになる。


「騎士団...団長...だと」


「どうかな?人気者になるか勇者の修行を手伝ってくれるか。どちらを選ぶ?」


勇者修行なんて面倒くさいしやりたくねぇ...けど人気者になるよりかはマシだし...やむを得まい。


「......分かったよ。手伝うよ!手伝えばいいんだろ!」


嫌々言うと、その男は手を差し出してきて


「バラクマゼだ」


と名を名乗ったので、俺も「ライト・ブレイカーだ」とだけ言う。

俺が手を握ってこない事に、一切嫌な顔せず手を引っ込めると、バラクマゼは俺達が来た方向とは反対の方向に歩き始め「昼中に城に来なければ、王に報告するからな」と言い残していった。


残された俺は、近くにあったタルを蹴飛ばそうとしたが足がタルにめり込み、そのまま転けた。


「らいとー、だいじょーぶ?」


「....ああ、大丈夫......大丈夫だから」


その心配そうな顔は今一番傷つくからやめてくれ...


タルから足を引っこ抜いた俺は、リーラの手を握りながら泣きそうな思いで工事現場へ戻った。


「マスター、どうしましたか?そんな落ち込んだ顔して」


「いや...その.....」


俺が言うのを躊躇っているとリーラが答える。


「らいとねーたるをおもいっきりけろうとしたらねーこけたんだよー」


それはもう、さっき心配してたのかって思うほど笑顔で。


「マスター!大丈夫ですか!?お怪我はしていませんか!?あぁ!私は何故マスターのお側にいなかったのでしょうか!すみません!本当に私はダメな(しもべ)です!どうか裁きをお与えください!!」


そしてこいつはいつから、こんなに過保護になったのだろうか。いや、過保護という枠に入れてはいけないかも知れない。

俺の事を常に考えてくれる辺り、超可愛いんだけどさ、最初の方はもっと可愛かったなーって時々思う。


「大丈夫だぞ。それよりメル。少し...いやだいぶ面倒くさいことになった」


「マスター...そ、その.....実は私もマスターにお話ししなければならない事がありまして...」


両人差し指をちょんちょんと合わせながら、上目使いでこちらを見るメル。いつもはここでメル可愛いーとなるのだが、今日は何だか嫌な予感がした。


「...なんだ?」


「あの...先程の、東門で私はマスターに言われた通り、他の冒険者と同じくらいのペースで魔物を倒していたのですが...急に2人の魔族が現れましてですね...初めに一番近い位置にいた私に攻撃を仕掛けてきたので、いつも通り冒険者達のペースで倒したら、どうやらその魔族達は上級魔族らしくてですね。私、有名人になったっぽいです」


・・・だからか。現在進行形でメルをチラチラ見る冒険者達がいるのは。


「申し訳ありません。マスター」


メルが頭を下げると、周りの冒険者達の視線が俺に集まったような気がした。

なにしろ上級魔族を倒すほどの実力と、この美貌を兼ね備えた美少女が見た目平凡な奴に頭を下げてるんだからな。


「お前は言いつけを守った。だから別に怒らねーよ」


運が悪かったなとしか言えない、まぁ言わないけど。


「それよりだ。さっき騎士団団長のバラクマゼとかいう奴に声をかけられてな。付いて行ったら俺が魔族を倒すところを見てたって言われてさ、そこから色々合って、今日の昼から勇者達の修行を手伝わないといけなくなった」


「それは面倒くさいことになりましたね。行かなければいいのではありませんか?」


「俺も行きたくねーよ。でも来なかったら王様にこの事伝えるとか言い出しやがってさ」


「ならもう王都を破壊するしかないですね!」


キリッとした顔でとんでもないことを言い放つメルに、通りすがる冒険者達は青ざめた顔をする。


「一応思い出とかあるんだからやめろよ?」


俺がそう言うとメルはハッとした顔になり、再び頭を下げた。


「申し訳ありません!」


「いや、本気じゃないってのは分かってたしいいよ」


メルがその後、「え?」と言ったのは聞き間違いだろう。ていうか聞き間違いであってほしい。





そんなこんなで冒頭の俺である。


「呼び出しておいて不在とは腹が立ちますね」


メルも俺と同様ご立腹である。


俺達は城の前まで行くと、バラクマゼに事情を説明されていた(俺達を勇者のいる部屋に案内しろという事だけだ)案内人に案内されるまま勇者の部屋の前に着き、扉の前で立ち止まっていた。


「この扉の先に勇者がいるのか。メル、お前先行け」


「えぇ、流石に恥ずかしいですよ。リーラが行けばいいのでは?」


「リーラは恥ずかしがり屋だから無理だ。因みに俺も」


「私もですよー」


立ち止まっている理由がこれだ。

扉を開けたら会話してた勇者達が一斉にこちらを向くだろ?あの沈黙が嫌なんだよなぁ。


「らいと..っらいとぉ」


ふとリーラから声が掛かり、彼女の方を向くと 、苦痛そうな顔をしていて今にも泣き出しそうだった。


「ど、どうした!?さっきの戦闘で怪我してたのか!?それとも急に何かの病気が発症したのか!?」


軽いパニックに陥った俺に、か細い声でリーラは言う。


「お...おしっこ.....」


その言葉を聞いた途端、全身から力が抜けるのが分かった。


「何だぁ...おしっこかよ..」


それでもリーラが苦しいことに変わりない。

案内人を呼び、トイレへ案内してもらいついでに自分も用を足しリーラが出てくるのを待っていると、他の扉より大きめの両開き扉からバラクマゼが現れた。


「おい!バラクマゼ!」


「ライト君か。約束どおり来たようだな」


「約束どおりに来たのに、お前が出迎えないとはいい度胸じゃねぇか?あぁん?」


チンピラ口調で喧嘩腰に話す俺にバラクマゼは頬をかくと、「すまない」と素直に謝ってきた。


「謝って済むと思ってんのか?こっちはどうやって部屋に入ればいいか分からなくて、ずっと困ってんだぞこら」


「部屋くらい普通に入ればいいだろう。何が分からないんだ?」


「入ったら何を話せばいいか分かんねーんだよこら」


俺がそう言うと、バラクマゼは笑い出した。


「それは悪かったな!私も今から一緒に行こう」


バラクマゼが勇者のいる部屋に歩き出したので、俺も歩き出す。


にしてもリーラの奴遅いな。何してんだ?

女トイレの前で立ち止まり「リーラー」と呼ぶと、ドアがドンドンと叩かれる音がした。


「どしたー?」


「あかないよぉ....らいどたずげでぇ!」


どうやらドアが開かなくて泣いてるらしい。


「鍵掛かってるんじゃないか?」


「わかんな..っいよぉ」


「よし、ちょっと待ってろ」


他に人は...いないな。


「せーーっの」


俺はドアのノブを勢いよく横に引くと、鍵はガッと音を立てて外れた。


「らいとぉ...!」


ドアが開いた瞬間、飛び込んで来たリーラを受け止める。


「よしよし。怖かったなー」


「ごわかったよ...ぉっ」


泣きじゃくるリーラの頭を撫でながら俺は思う。


(お風呂ならまだしも、流石にトイレまで一緒にいるわけにはいかないよな...)


そのまま、勇者の部屋の前まで行くと、メルとバラクマゼが何やら話をしていた。


「お待たせ。って何話してるんだ?」


「あ!マスター! いえ、ただ感謝をされました」


「何で?」


「よく戦ってくれた..と」


「あー、はいはい。あれね」


「ところで、何故リーラは泣いているんですか?」


「トイレの鍵が引っかかって外に出られなかったらしい」


「可愛いですね!」


「だろ?リーラは俺達の天使だからな」


「ですです!!」


リーラを下ろし2人で夢中になって撫でていると、隣からおっさんの声がした。


「邪魔をするようで悪いが、そろそろいくぞ」


「あぁ、バラクマゼか。忘れてたわ」


「すみません。私もリーラの可愛さに夢中で忘れていました」


「だれ?このおじさん」


リーラに関しては存在を完全に忘れてたぽかった。


「......バラクマゼという」


リーラのが結構堪えたのか、テンションがさっきより明らかに低いバラクマゼ。


「.....いくぞ」


バラクマゼに続き、俺達は勇者の待つ部屋へと入った。

少しでも面白いと感じて頂ければでいいので評価やブクマよろしくお願いします。

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