<16> 勇者と団長
この数日、とても忙しく執筆する時間が余り無かったので投稿するのが遅れてしまいました。申し訳ありません
〜 城のとある一室 〜
「あー、暇」
ザワつく一室で、ソファーに腰掛けながら少年は呟いた。
その声を聞いてか知らずか、隣に座る小柄な少年は不服そうな顔をした。
「僕達も戦わせてくれればよかったのに...」
この部屋にいる人数は約20人。彼ら彼女等は、騎士団団長バラクマゼに魔王群襲撃の事態を知らさせると、騎士達によって、強引にこの部屋に連れてこられた。
ドアを開けようとするも、外から施錠がかかっているらしく開くことは不可能。ドアをぶち破ろうかと躊躇ったが、人様の家の物を壊すなよ、と当たり前の常識を親に植え付けられた彼らは、結局誰か来るのを待つ事に決めた。
「俺達が勇者....ねぇ」
そう、彼らは勇者である。
女神によって、この世界へ連れてこられた元高校生だ。
「信じられないよなー。まさかファンタジー物のラノベでよくある異世界転移が俺らに起こるとは」
椅子の背もたれを掴みながら、ソファーに座る2人の少年に話しかける黒髪短髪の少し痩せ気味の少年ー霧崎大輝に、少年2人は、うんうんと頷いた。
「ここ女神様が言ってた通り、マジでゲームみたいな世界だよなー。ステータスとか魔物倒したら消えたりとかさ」
「だねー。でもゲームみたいに上手くはいかないね。死んだら生き返ることが出来ない。まるで某VRMMOの世界みたいだよ」
「それは俺も思ってたわ」
ソファーに座る中肉中背の茶髪少年ー美川 春人の言葉に、ソファーに座るもう1人の小柄な少年ー緑川祐樹と大輝が「僕(俺)も僕(俺)も」と笑う。
「でも笑い事じゃないよな....いつでも危険と隣合わせなわけだろ?」
「そうだけど、何かこういう状況って初めてで新しくて結構楽しいんだよね、僕」
少し不安な気持ちの春人とは裏腹に、祐樹はワクワクといった感じだ。
「俺は王都に篭る。篭りプレイは俺の専売特許だからな!」
「お前が言うとマジで篭りそうだからやめろ」
元引き篭もりの大輝に、ツッコミを入れる春人。
大輝が引き篭もる様になった理由は、特にない。ただ時々ズル休みをとっている内に、行くのが嫌になったという訳だ。親不孝もいいところである。
「えぇ、だって怖いし」
「流石に異世界に来て引き篭もりはないだろ...」
春人の言葉に、大輝は「うーん」と目を瞑りながら腕を組む仕草をすると、数秒後「閃いた!」と目をグワッと開けた。
「俺は弓とか魔法使って芋るわ」
その発言に、祐樹が「じゃあ援護よろしくね。僕と春人は突撃兵をするから!」と笑顔で言うと、勝手に突撃兵にされた春人はビクッと震えた。
(えぇ、俺も大輝と同じ考えだったんだけど)
そう考えていた春人だったが、祐樹と大輝でどんどん盛り上がっていき、今更断れる雰囲気では無くなっていたので、「はぁぁぁ」と深いため息を吐く。
すると、それを見てか大輝が、
「あ、まさかお前も芋りプレイがしたかったのか〜?」
春人の顔を下から覗くように見ると、春人は勢いよく首を横に振った。
(し、しまったあ!意味の分からない意地を張って絶好の機会を逃しちゃったよ!!)
内心そう思った春人は、後悔の念に駆られ、床を転がった。
「大丈夫か?お前」
「病院...あ、ここにはないかな?どこかで頭見てもらったほうがいいんじゃない?」
春人の心情を知らない2人からすれば、春人がオーバーに首を振ったかと思うと、いきなり床を転がりだし、頭が狂ったんじゃないか、と思っているのである。
遂には、騒がしかった部屋が静まり返り、床を転がり回る春人をみんなは何があったか、聞く事も無くただ黙って見ていた。
(あ、これ止まったらあかんやつや)
止まったらこの静寂の中みんなに真顔で見られる...
(そんなのいやだぁぁぁあ)
止まる事は許されない!
そう悟った春人は、床を転がり続けるのをやめなかった。
髪の毛や服が埃まみれになっても気にしない。
誰かが俺と無関係の話を始めるまで回り続ける。どうせすぐに飽きるだろう。こんなクラス内カースト真ん中辺りの俺が転がり回る図なんてすぐに面白く無くなるさ。
そんな浅はかな考えをしていた春人は、結局十数分間も回り続け、目を回していた。
「お疲れ。春人」
目を回して床に倒れる春人に、大輝は肩をポンと叩いた。
「異世界って凄いや」
普段の春人では見た事のない無様を、どうやら祐樹は異世界の空気感のせいだと思ったらしい。
その事を知ってか知らずか、それとも唯の酔いか、春人は「うごぉぉ」と唸った。
* * * * *
同時刻頃、南門では騎士や冒険者達が魔物の王都への侵入を許そうとしていた。
「い..かせるわけには...いかない」
王都に妻や子供がいる者達は、圧倒的数の暴力に果敢に挑んだ。
しかし、魔物だけでも手を負ってる中、魔族の手もあり、冒険者達は次々と負傷していく。
この南門、今この王都にいる冒険者の中で最高ランクを誇るA級冒険者が3人しか滞在していなくて、その冒険者たちは他各門に行ってしまったため、この門にはA級冒険者がいないのだ。代わりに、B級冒険者を他の門より多めに南門へ行かせたのだが、この有様を見るにA級冒険者の存在はとてつもなく大きいだろう。
遂に立っている者の数が数人になり、その数人も立っているだけでやっとの状態だ。
「やっぱり人間は弱いねぇ」
「下等種族の分際で我ら魔族に抗うなど無謀もいいところだな」
皮膚が赤黒い女魔族の一人が冒険者の頭を踏みながら言うと、隣の青黒い男魔族が冷ややかな笑みを浮かべる。
「おっと、こんなところで道草食ってる場合じゃなかったね。ブルーデック!さっさと勇者を殺しに行くよ。逃げられたなんて事になったらあたし達が魔王様に殺されるんだからね!」
「あぁ、行こう」
女魔族ーレドアとブルーデックは下級魔族と魔物を引きつれ王都内へ浸入しようと足を進めた。
が、しかし門をくぐろうとしたところで
「ここから先へは行かせん」
眩く黄金の鎧を身に着けた騎士によって行く手を阻まれた。
「誰だいあんた?そこら辺の奴らとは明らかに違うようだけど・・・」
レドアが警戒しながら問うと、「魔族に教える事など何もない」と兜の中から冷静にバラクマゼは答える。
「ま、ここで死ぬ奴に聞いても意味ないわね」
特に気にすることもなくぶっきらぼうに言うと、レドアの体を渦巻くように風が吹き始めた。
「風使いか」
「少し違うわ、私は風の悪霊を使役し戦うの」
レドアを中心に風が吹き荒れる。その風は黒々とした瘴気を纏っていて、いかにも悪霊のそれだった。
「さて、話はここまで。死んでもらえるかしら?」
話し終わると同時、今までレドアを渦巻いていた風が螺旋状に、常人には視認出来ないほどの速さでバラクマゼの体を切り裂こうと向かっていった。
バラクマゼはその場から身動きひとつ取れず、風の激流を受けることを許してしまい、鎧に直撃すると、「ぐっ...」と少し苦しげな声を漏らし、一歩後退する。
「もろに当たったけど大丈夫?」
クスクスと笑いながら、バラクマゼの様子を伺うレドア。その表情は余裕と言いたげで、自分が負ける事など無いと先の攻撃が当たった後、確信的な物に変わったが、次の瞬間その表情に歪みが生じる。
「これで終わりか?」
何とバラクマゼが涼しい顔でこちらを見ているのだ。
「ふ、ふんっ。さっきのを耐えたくらいでいい気になっているのも今の内よ」
自分の全力の半分の攻撃が余り聞いていない事に、少々苛立ちと共に焦りを覚えるレドア。
一方、レドアの助太刀もせず2人の戦闘を無言でジッと見つめるブルーデック。
「全力でいくわ」
レドアは両手を前に突き出し、回りの風を手の中に集めていく。すると風は、レドアの手の中で凝縮していき、バスケットボール位の大きさの球体となった。
「これで終わりよ!風の漆黒!!」
撃ち出された球体は、地面を風の力だけで抉りながら、真っ直ぐバラクマゼへと飛んで行った。この技、先程のバラクマゼが避けれなかった技とは違い、パワーに重点を置いている反面スピードが大幅に落ちている為、誰でも躱せそうだった。
しかし、突如球体から無数の黒の手が伸びたかと思うと、その手はバラクマゼの手足に掴みかかった。
「これであんたは避けられないわよ!」
風の漆黒
レドアの全力にして必殺の魔法。
この魔法は造形された球体より悪霊の手が無数に伸び、相手を拘束する事で確実に直撃させる命中率100パーセントの魔法で、鋼さえも切り裂く風の切れ味に加えて直撃した瞬間に爆裂する。
そんな威力の魔法がバラクマゼに迫る。
「確かにこれでは躱せないな」
バラクマゼはぶっきらぼうに言うと、体中を掴んでいる手を振りほどこうとする動作を全くせず、身に迫る危機に「ふっ」と鼻で笑った。
直後、球体がバラクマゼに直撃したかと思うと、弾けて風が周囲に激しく吹き荒れた。その風によって盛大に砂埃が舞うと、レドアからバラクマゼの姿が視認不可になる。
「当たっちゃった〜! ま!外れた事なんてないんだけど」
風の漆黒を耐えた者はいないので、勝利を確信し、大声で笑っていたレドアに、終始戦闘を見ていたブルーデックが眉をひそめながら冷たい声音で話した。
「レドア、まだ奴は生きている。それに少しマズイかもしれん。あの鎧は....」
ブルーデックが何かを言いかける前に、舞っていた土埃が勢いよく払われた。
「この鎧を知っているとはな」
バラクマゼが土埃を払うと共にブルーデックに問うと、先程まで大声で笑っていたレドアは酷く驚いた。
「な!なななななんでこれを食らってもピンピンしてんのよ!?」
動揺を隠せないレドアに、ブルーデックが額に汗をかきながらも冷静に話した。
「おそらく...あれは天帝の鎧だ。あの鎧の前ではどの魔法も無力化される。伝説の勇者が身に付けていたと聞くが...」
そう言うと共にハッとなったが、その様子を見ていたバラクマゼに「私は勇者ではない」と正されると、微かな安心と共に疑問を感じずにはいられなかったのは、魔族二人だ。
「その鎧を勇者でもないあんたが何で着けてるのよ!」
「なに、使わずに保管しておくというのは勿体無いだろ?」
「そんなの反則じゃない!」
試合等と違い、ルールが無いこの戦場に文句をつけるレドア。
そんな彼女にいつも冷静なブルーデックも溜め息を吐かざるをえない。
「レドア、こいつは俺達には分が悪すぎる。仲間と合流するぞ」
「そうするしか無さそうだね....くっ、あんな鎧無かったら...!!」
レドアとブルーデックは魔法を使う事に長けており、反対に近接戦闘では下の階級の中級魔族にも大きく劣る為、相手が魔法が効かないとなると、身を引くしか手は無いのだ。
「貴様らを逃すわけにはいかん」
勿論、絶好の好機を逃すわけはないとバラクマゼは剣を手にして斬りかかろうとする。
しかし、ブルーデックの肩にレドアが手を置いたかと思うと一瞬で2人の姿が消えた。
「なにっ!?」
使える者が世界に数十人しか存在しないとまで言われる転移魔法を披露したブルーデックに驚きの声を上げるバラクマゼ。
急いで転移した魔族を追おうとするが、下級魔族や魔物に阻まれる。
「チッ...私は急いでいるというのに」
舌打ちを打ちながら、握ったままの剣を構える。
魔族や魔物はバラクマゼ目掛けて勢いよく飛び出した。
結果、レドアとブルーデックを筆頭に組まれた魔法を主力に結成された群勢では筆頭2人同様、無力なる者が多く、王都騎士団団長に傷一つ付ける事も叶わず命を散らしていった。
呆気なく終わった戦闘に何も感じる事なく、唯レドアとブルーデックを追わなくては、と足を進めると、
直後、地を揺るがすような激しい爆発音が辺り一帯に響き、続いて後を追うように目を開けていられない程眩しい光がバラクマゼを襲った。
「なんだ!?この揺れと光は!!」
暫く目を開けていられなかったが、揺れと光が収まると南門付近を歩き回ることにしたバラクマゼは、東へ少し行った場所で、1人の少女が魔族数人に襲われる所を目にも止まらぬ早さで助けた、子供を抱きかかえた青年を見ると
「まさか、魔族共をああも容易く殺るとはな...」
と呟いた。
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