<14> メル
「確かに、数だけは多いようですね」
魔族が魔物を率いて王都へと進行するのを、創造神の僕は見下ろしていた。
「しかし、マスターのお手をお借りになる事はありません」
メルは魔物の群れに右手を向けると、手の平から半径数メートルにも及ぶ巨大な魔法陣を展開した。
その魔法陣に気付いたのか、群れの先頭を黒馬に乗って走る数人の魔族が止まると、魔族に率いられた魔物達も止まった。
「ザバン、あの娘を殺れ」
魔族の一人、水色の髪をしたまだ若い青年ーブラクが、隣の魔族に命を下す。
「分かりましたぜ。フヘヘ。あいついい体してんなあ」
ザバンと呼ばれる二本の角を頭部に生やした大柄の中年の魔族は、メルを見ると笑いながら舌舐めずりをした。
しかし、笑みを浮かべていたのはザバンだけではなかった。
「的が止まってくれるなんて、何と好都合な事でしょう」
メルは魔法陣を更に大きくすると、魔物の群れの中心に狙いを定めた。この場合、普通の人ならば先頭で魔物を率いている者を狙うだろう。群れの中で一番強い統率者を倒す事が出来れば、統率者を失った魔物達は分散し、倒しやすくなるからである。
しかしメルは違った。メルにとって、魔族も魔物も自分と強さが天と地の差がある事が分かっているので、どこを狙おうと当たった敵は一撃で死ぬ。ならば先頭より中心を狙った方がいいと考えたのだ。
「あの大きさ...かなりマズイかもしれん」
「あぁ。あれはマジでヤバイですぜ」
どんどん大きくなっていく魔法陣を見て、魔族達の額から汗が流れ始めた。
「これくらいでいいでしょうか」
遂に数十メートル規模の大きさとなった魔法陣を群れの中心辺りに狙いを定めると、魔法陣の中心に紫の光の線が集束していき、チャージが完了したのを知らせるように魔法陣が勢いよく光りだすと、
「消えなさい」
その言葉と共に放った極大な光線は、言葉通り魔物達を消滅させようと一直線に向かっていった。
「皆避けろ!!」
ブラクが魔族達に向かって大声で呼び掛ける。
しかし、ブラクの声も虚しく光線は魔物達へ。
直後、地を揺るがすような激しい爆発音が辺り一帯に響き、目を開けていられないほどの光がこの場を覆った。
メルを見ていたライトは片手で目を覆いながら、「大丈夫だからなー」と言いながら、もう片方の手でリーラの顔をを自分の胸に優しく押さえた。
爆発によって舞った粉塵によって魔物達の姿が見えないが、目標の全滅を確信していたメルは、徐々に視認できるようになった光線の着弾地点を見て不満そうな顔をした。
「まだゴミが生き残っていましたか」
漫画やライトノベルだと完全に悪役のポジションについているメルは悪役らしい台詞を言った後、地上へ降りた。
「魔物...は全員........やられてしまったか...」
そこに魔物の姿は一切見られなかった。が代わりに数百メートル規模の大穴が開いていた。
体中傷だらけで今にも意識を失いそうなブラク。
その姿を見たザバンは、悔しげな顔になる。
「くそ...俺が...いながら......魔王様の息子を....守りきれなかった....」
ザバンは魔王直属護衛軍の一環を担っていて【四幻魔】という四天王の位置にいる中の一柱だ。なので魔王からの信頼も他の魔族より高く、初陣のブラクを警護するよう言われていた。
【四幻魔】の自分がいれば警護くらい余裕。そう思っていたザバンはより一層下唇をかみしめた。
「さて、残ったゴミの掃除をしませんと」
そこへ悪魔が。
一々台詞が悪役なメルに、流石のザバンも「姉ちゃん...魔王様よりこえぇよ」と呟いた。
「頼...む...俺は殺しても構わない...だが....俺の...仲間.....は生かして...くれ」
息絶えそうな中、ブラクが必死に絞り出した言葉に、他の魔族は涙を飲んだ。
しかし、
「何を言ってるんですか?ほっておいても死にそうな勢いじゃないですか。そんなのに価値はありませんよ。まず貴方達を生かそうとは思っていません」
今この場で完全に悪役に見えるメルは首をぶっきらぼうに振りながら答える。
その言葉に、魔族全員は青ざめた顔をした。
「貴様...なぜ.....人側にいる....貴様は...魔族側...だろう」
「普段の私はここまで酷くないですよ」
メルは「ただ」と続ける。
「マスターの居場所を奪った罰です」
メルにとってライトは命よりも大事だ。
そのライトの居場所を奪った。
その事実だけで魔族を全て滅ぼそうかと考えていたメルは今回自分を少し見失ってまで魔族や魔物を殲滅させようとしていたのだ。
「どうします?そのまま死ぬか。足掻いて死ぬか。選ばせてあげます」
あの光線を見た後では、魔族とて戦う気は失せていた。
動く気配がない魔族達を確認すると、メルは魔族達へ右手を伸ばし、あの魔方陣を展開する。
抵抗を見せず、目を伏せるだけの魔族達に、冷めきった声でメルは言った。
「さようなら」
光線を放とうとすると、突如聞き覚えのある声がメルの耳に響いた。
「おーいメルー」
「マスター!?」
振り向くメル。
その瞬間を魔族達は逃さなかった。
最後の力を振り絞り、残った魔族数人でメルに襲い掛かる。
「しまっ!?」
メルは一瞬で殺気を感じ反応したが振り向くと魔族はもう目前に迫っていた。流石にほぼゼロ距離では防御する事も叶わない。目を瞑りダメージを覚悟する。
しかし、いくら時間が経ってもメルに攻撃が当たる事はなかった。
「え?」とメルが目を開けると、魔族達は数メートル先で倒れていた。
「大丈夫か、メル」
「あ...あのマスター今のは」
「ふっ...」
「マスター!!」
ライトが顎に手を当て、ドヤ顔をしているのを見てメルはライトが助けてくれたと確信する。
「さ、ここら辺は終わったようだし別のとこ行くか」
「はい!!」
先程まで冷たい怒りを感じていたメルだったが、今は幸福感でいっぱいだった。ライトの事になると怒り、少しでもライトに褒められたり助けられたりするとすぐに顔がニヤけてしまう。それがメルだ。
ライトの横を歩く彼女の顔はとても幸せそうな顔をしていた。
「まさか、魔族共をああも容易く殺るとはな...」
南門から東門に少し行った所で一人の男が呟いた。
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