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第四夜 恋心

 夜。午後十一時も過ぎ、眠りに着く為の準備にかかる。と言っても、もう自室にも来ているし後は寝るだけという状況。

 (れん)はベッドへ乱暴に腰掛け、降り出した雨を少し開いたカーテンの隙間から眺めた。窓から見える、青葉が生い茂った庭の木の葉。それに雫が落ちる度に嬉しそうに葉を上下に揺らす。

 その時、ふとあの子の──長瀬(ながせ) 悠依(ゆい)の顔が脳裏に浮かんだ。誰かに見られるわけでもないのに、思い出しただけで赤くなった顔を手で覆い、そのまま後ろに倒れてベッドに体を預けた。柔らかい掛け布団が蓮の体を快く受け入れ、包み込む。

 ため息にも似た何かを吐き出して自らを落ち着かせると、そのまま目を閉じた。そのまぶたの裏に映像が流れるように、帰り道の風景が映し出されて徐々に様々な音や声が頭の中で再生されていった。



 ──学校からの帰り道。部活動に入っていない蓮はSHR(ショートホームルーム)が終わるとそそくさと教室を出てきた。

 自転車置き場から自分の自転車を持って来る。門を出た所で(またが)ろうとした時、どこかで自分の名を呼ぶ声が聞こえた。後ろを振り向くと、自分の居場所を示すように手を振りながらこちらに駆けてくる裕也(ゆうや)の姿があった。


「一緒に帰ろうぜー」

「裕也部活は? 今日休み?」

「そ! なんか急に休みになってさー」


 少しつまらなさそうに口を尖らせて隣を歩く裕也。そんな裕也はバスケ部に入っている。放課後の部活中、体育館の前を通った時にチラッと見た事があるが、離れていても分かるくらい汗びっしょりになりながらも走ったり何度もシュートを打ったりしていた。

 高くも低くもない裕也の身長。この梔子(くちなし)高校バスケ部は県でも戦えるくらいの強さらしく、過去には何度かインターハイにも出場した事もあるそうだ。強豪校と呼ばれてもおかしくない梔子高校のバスケ部員の身長は殆どが180cmを超えているらしい。そんな中、唯一170cm前半である裕也は周りに負けず劣らず努力をしていた。いや──周りよりもずっと努力しているのを、俺は知っている。



「そういえばさぁ……」


 裕也の言葉でふと我に返る。何もなかったように、いつもと同じように返事をする。


「なんでそんなに長瀬ちゃんの事好きなわけ?」

「はぁっ!? な、なんでって……」


 突然の質問に動揺を隠せず、思わず大きな声が出てしまう。『長瀬』という言葉だけで毎回ピクリと体を反応させる蓮。そんなピュアな反応見たさに、裕也は面白半分で彼女の話を振る。思っていた通りの反応だ。


「だってさぁ、長瀬ちゃん全然目立たないし、話してて好きになったとかじゃないだろ?」

「ま、まぁ……」

「で? なんで好きになったの?」


 いい機会だし全部聞き出してやろう。そんな事を隣でニヤニヤしている裕也が思っているとも知らずに、恋する男子は頬を赤く染め、少し周りをチラチラと気にして見る。知り合いが居ない事を確認したのか、俯き加減のまま控えめな声で えっと……と続けた。


「分からないんだよ、なんか、好きになってた」

「……え?」


 照れ隠しの苦笑いを見せながらも、何かを決心したかのように一つ咳払いをして言葉を繋げた。


「一年の時……図書委員で一緒になって、凄く姿勢がいいんだな とか、小さいけど透き通ってて綺麗な声してるな とか、最初はそんな事しか思ってなかったんだけど、委員会で話し合いがあったときに長瀬さんの向かい側に座ってさ。話し合いは面白くないし意味分からないし、かと言って隣のやつと話すわけにもいかないし、ぼーっとしてたらいつの間にか長瀬さんの事じっと見てて、よく見たら長瀬さんって凄い……か、可愛いな、って思って……」


 “可愛い”という言い慣れない言葉に一瞬躊躇(ためら)いを覚え、赤かった頬を更に赤くさせた。


「それからは廊下ですれ違うだけでドキドキしたり、つい目で追っちゃったり、ふとした時に長瀬さんの事考えてたりして……あー、恋したんだなー。って思って」

「……そっかぁ」

「うん、」


 後ろから来た大型トラックが二人の横を大きな音を出しながら颯爽と走り去る。そのせいか、数秒の沈黙が余計に静かに感じた。それを遮るように、裕也が「てかさ、」と言葉を発する。


「俺の思ってた以上に長瀬ちゃんの事好きなんだな」


 それまでは少し頬を赤らめて真面目に話していた蓮。だがその言葉によって、ボッという音が聞こえそうなくらい一瞬にして顔を真っ赤にさせた。


「べ、別にいいだろ!? 裕也が話せって言うから言っただけであって!」

「はいはい、長瀬ちゃん大好きなの分かったから」

「っ〜〜!! バカ!アホ!チャラ男になりきれてないチャラ男!」


 照れ隠しの為に回らない頭でふと思い付くだけの悪口的な何かを吐き出し、プイとそっぽを向く。その隣で裕也は笑いを堪えながらも まぁまぁ、と(なだ)めた。


「俺こっちだから!! じゃーな!!」

「おーう、ちゃんと前見て走れよー」


 ほぼやけくそになりながらも住宅街へ入る、一回り細くなった道を乱暴に指で指してから手で押していた自転車のペダルへ足をかけ、走り出した。

 五月の爽やかな風を火照った体全身で感じ取る。もうすぐ六月。それを過ぎるとすぐに夏が来る。高二の夏は一番楽しいと誰かから聞いた事がある。

 そんな時に君が隣に居れば、もっと楽しいだろうな……なんて、無理に決まってるけど。

 そんな事を思いながら、眩しい太陽に向かって苦笑いを零した。

 第四夜お読み頂きありがとうございました!

 恋する蓮くんと、それを楽しむ裕也くんでした!w 恋っていいですね、私もドキドキしちゃいます(*´∀`)

 次回はようやくあそこへ行きます……!登場人物がどんどん増えて行きますよ〜!

 それでは!また次回お会いしましょう(^^)

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