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第二夜 記憶

 目覚まし時計の甲高い音が部屋中に響きわたる。恨めしそうにうっすらと目を開けると、その男は布団から手だけを出して手探りで時計を探し、音を止めた。目を擦りながらふああ、と一つ欠伸をすると、重い体を持ち上げてベッドの側のカーテンを勢い良く開ける。正確には、勢い良く開けようとカーテンに手をかけた。


 ……あれ、この光景どこかで見たことある気がする。気の所為……?


 眉間にしわを寄せて自問自答をする。まぁいいや、と軽く流してカーテンを開けた。太陽のキラキラとした光が部屋に差し込む。つい一、二ヶ月前まで裸だった木に知らぬ間についた鮮やかな若葉。それに光が反射して一層鮮やかな色になる。綺麗だな、と思いながら少し微笑んで見つめる。


(れん)、起きてるー?」


 一階からの母の声ではっと我に返る。かれこれ五分ほどぼーっとしていたようだ。慌てて学校の鞄を持ち上げながら「今行くー!」と返事をした。


「おはよう、蓮。遅かったじゃないか。二度寝か?」

「おはよう父さん。いや、ちょっとぼーっとしててさ」


 新聞を広げながら低い声で聞いてきた父。気をつけろよ、と口角を少し上げながら返すと、父はいかにも苦そうなブラックコーヒーをゴクリと飲んだ。


「もーう、ぼーっとしてないで早く降りてきなさいよー?ご飯が冷めちゃうじゃない」

「ごめんごめん」


 苦笑いをしながら席につくと、母が目の前にいい香りのする朝ご飯たちを並べた。自然と鼻が動く。


「さっさと食べちゃいなさいよー?」

「はーい。いただきまーす」


 香ばしい匂いと共にホカホカと湯気を上げる味噌汁に箸をつける。口には出さないが母の作る料理が一番美味しいし一番の好物だ。今日も相変わらずの美味しさが口の中に広がる。


「何ニヤけてんのよ、気持ち悪いよ?」


 パンをちぎりながら蔑むような目でこちらを見る女の子……妹の(あん)だ。自分で言うのもなんだが、こいつはだいぶ可愛い顔をしている。もし同じクラスの女の子、という立場だったならついつい目で追いかけてしまう存在だっただろう。まぁ実際はただの口の悪い妹に過ぎない。


「別にニヤけてない、杏だって髪ボサボサじゃないか」

「し、仕方ないでしょ!? まだ準備してないし! そんなの兄ちゃんだってボサボサだし!!」

「だってまだ準備してないんだもーん。それにこれは寝癖じゃない、元からだ」

「くそ兄貴……」


 勝ち誇った顔をしながら味噌汁をすする。美味い。ちらりと杏の方を見ると真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。女の子がそんな顔してはいけません、と心の中で言うと、また一口味噌汁をすすった。

 杏の口を悪くさせてしまっているのは自分のせいだと薄々気付いているが気付いていないという事にしておこう。


「おはよーう」


 そう言いながらリビングに入ってきたのは真っ白い化け物のような顔をした姉の(らん)。その白いものの正体はフェイスパック。夜にするよりも朝にした方が肌が喜ぶらしいとかなんとかで母とはしゃいだ次の日からこの有り様だ。こっちからするとそこら辺の覆面レスラーか戦隊モノに出てくる敵キャラ(しかも雑魚)にしか見えない。

 この姉もだいぶ顔が整っている。可愛い、というより美人系で、背もそこそこ高くてスタイルがいい。

 友達の間では『成宮(なるみや)の妹きゅんかお姉様のどちらかを彼女にできるならどっちがいいか』という謎の議論が勃発する事が多々ある。ちなみに俺は顔だけ見るとすれば妹の杏の方がタイプだ。全くもって変な意味ではない。基本的に可愛らしい顔立ちの女の子が好き。もちろん美人にちやほやされるのも悪くない。むしろ良い。これも断じて変な意味ではない。


 ぱっと朝食を食べ終えると、いつものように身支度をし始める。そして、いつもの時間に家を出る。爽やかな風を全身で感じながら、いつもの通学路を自転車で走り抜ける。

 いつもなら何も気にせずまっすぐ進む道。だが、今日だけはやけに左に進むこの道が気になった。確かここは……昔よく遊んでいた公園へ続く道だ。なんで急にこんな事を思い出したんだろう。理由は分からない。でも、こっちに進まないといけない。そんな気がした。


「あ、(れん)! おっはよー」

「悪い、また今度な」

「は……? ちょ、蓮?」


 声をかけてきた友人を振り払い、公園の方へ少しずつ近付きながらじっと見つめていた。友人はこちらをぽかんと見ながら突っ立っている。そんなことは気にもせず、ただ前だけを見て、『何か』がある公園だけを見つめて、おもいっきり自転車のペダルを踏んだ。強い向かい風が憎い。必死に抗って必死にこいだ。懐かしい公園が見えてきた。公園の前に自転車を止め、荒れた呼吸を整えるように一息吐くと、ゴクリと唾を飲んで中に入った。


「な、んだ、これ……」


 蓮の目の前に広がる景色は、あの頃走り回った公園のそれとは随分と違っていた。地面には雑草が生え、すべり台やブランコは錆び付き、タイヤの遊具はタイヤとして形を成していなかった。

 そんなはずはない。だって昨日来たときは全てがあの時のままで懐かしんでいたはずなのに。


 ……昨日……?


 大きくて重い、閉じられた扉が開かれるように、ゆっくりと記憶の端くれから光が漏れてくる。そっと目を閉じて、その記憶を引っ張り出そうと手探りで光を辿る。


 自分はつい最近ここへ来た。ここへ来て……そうだ、女に会った。そこで何をした? ……だめだ、思い出せない。


 キリ、と痛んだ頭を押さえて、ふらつきだした体が倒れないように、ヨロヨロしながらもその場にしゃがもうとしたその時。ポキッという軽やかな音が蓮の耳に入った。どうやら足で木の枝を踏んでしまったようだ。真っ二つに折れた木の枝を意味もなくぼーっと見つめていると、ふと何かが頭をよぎった。


「そうだ……夢だ……」


 蓮は全てを思い出した。夢の中でこの場所へ来たこと、その夢が何やら特殊な夢だということ、不思議な女から色々な事を聞いたこと。

 普通ならそれも「そういえばこんな夢も見たな」などと捉えるだろう。でもなぜか信じてみたくなった。

『また明日』

 しっかりとは覚えていないが、あの女にそう言われていたような。そんな気がした。



第二夜、お読み頂きありがとうございました!!

特殊な夢とはいえ、夢であることには変わりないのであまり覚えていなかったのです。

それにしてもやっと思い出した蓮くん。やっと話が進みます。w

次回は学校へ行きます。登場人物も増えていきますよー!

それでは次回でまたお会いしましょう!!

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