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火の王と終末の世界



「どうした?その面」

クウガとソウガの勝負の日。

いつの間にか庭に造られていた拳闘用の囲いの傍で柔軟をしているクウガを見ているとワッセが傍らに立った。その頬には大きく布が当てられている。

「その・・・ソウガの奴に・・・」

「ソウガに?」

「実戦訓練をして欲しいというので相手したんですが、打っても打ってもまったくへこたれなくて。効いてはいたようですがとにかく真っ直ぐ突っ込んでくるんです。それで良い一撃を貰ってしまって」

「負けたのか?」

「まさか。かなり効きましたが脇腹に拳を埋めて倒してやりましたよ」

ワッセほどの実力者に伯仲するとはかなりの実力だと見て良いだろう。

対するクウガはワッセに手も足も出ずに負けたと聞いている。

「ソウガが圧倒的に有利だな」

「体格面でもクウガでは勝ち目がありませんな。クウガもかなり良い身体になってるんですが」

確かにシャツの上からでもクウガの身体が一回り大きくなっているのは見て取れる。

特に肩幅はかなり増しているだろう。

「まあ、ソウガの気持ちを晴らすための勝負だ。丁度良かろう」

そんな話をしているとソウガが現れた。

すでに上半身は裸でかなりの気迫を放っている。

分厚い筋肉をまとい、無数の傷跡や火傷で覆われた身体は否応なく見る者を威圧する。

それを見たクウガははっきりと動揺を見せた。

クウガも全身傷跡だらけだが、ソウガのものとは比べ物にならない。

それほどまでにソウガの全身は酷い有様なのだ。

まだ自己が固まらないうちに苛酷な環境に放り出されたソウガの人生がそこには刻まれている。

その傷だらけの肉体には青痣が数箇所に浮き上がっている。

「ソウガ、大丈夫なのか?」

「ああ」

ソウガの毅い瞳。

「よし、それでは始めようか」

クラムの言葉でクウガはシャツを脱ぎ捨てズボンも脱ぐ。

ソウガもズボンを脱ぐと囲いに入っていった。

「素手は止めろよ」

クラムの突っ込みにワッセたちが二人の拳に布を巻いていく。

「よし、始めるとするか。いいな?二人とも」

頷いた二人を見て

「始め!!!」

と声を挙げた。


「うおおおおおおっっっ!!」

即座に突っ込んでいったのはソウガだ。

その極太の腕を振りぬくが、クウガはギリギリでそれを躱すとソウガの脇腹を打つ。

「くうっ!」

僅かに下がったソウガだが、すぐさま次を打ち出す。

だがクウガは再び躱すと同じように脇腹を打った。

「ぐっっ!!」

凄まじい風切音を立てて振りぬかれるソウガの拳―――だがクウガはそのすべてをギリギリで躱し、同じところを狙い拳を打ち込んでいく。

ソウガの身体に噴出す汗―――最も筋肉が薄い場所を打たれ続け相当苦しいはずだ。

だがソウガは止まらない。

「くっっ!!!」

躱したはずのクウガのこめかみを拳が掠めふらついた。

続いて放たれた拳を、クウガは腕で防御する。

「ぐうっっっ!!!」

吹っ飛ばされたクウガの身体がロープの反動で前に出た―――

「ごぶうぇっっっ!!!!!!!」

クウガの腹筋を深々と抉るソウガの拳。

だらんっと腕が落ちると同時にクウガの口から大量の唾液が滴り落ちる。

「ぶぎっっ!!!」

クウガの左頬を捉えた拳にクウガの身体は錐揉みながら吹っ飛ぶと顔面から地面に落ちた。

ヒクヒクと痙攣しているクウガの頭を鷲掴みにしたソウガはそのまま片手で引き起こす。

大きく頬を腫らしたクウガは白目を剥き意識は無い。

ソウガはクウガをロープに凭れさせるとクウガの顔面に拳を打ち込んだ。

通った鼻筋が潰れ、血が溢れだす。

そのまま左右に振られていくクウガの顔―――血と汗と唾液が飛び散っていく。

「ごぶばっっ!!!!」

膝が折れそうになったクウガの腹に拳がめり込みクウガの身体を浮かせる。

落ちてくるクウガの身体を地に着かせまいとするかのように次々と拳を打ち込んでいくソウガ。

クウガの口から胃液があふれ出しても止まらない。

「止めろ、ソウガ」

クラムの言葉に手を止めたソウガ。

どちゃっと音を立て地面に崩れたクウガは微動だにしない。

ソウガは拳に巻かれた布を外すとクウガの頭を鷲掴みにし引き起こした。

「あんたが逃げたのは正解だったかもな。こんなに弱えぇんじゃ俺に殺されてただろ」

気絶したクウガに吐き捨てると手を離す。

またも音を立てて突っ伏したクウガをその場に放置し、ソウガは囲いを出て行った。


「これで気は晴れたか?」

詰め所に戻ったソウガに訊いてみるとソウガは首を振った。

「なんかすっきりしねぇ」

「クウガの奴、しばらくは動けんだろうな。あのザマじゃあな」

「弱すぎんだよ、あいつ」

「お前が強いんだよ。ワッセの奴に渡り合ったそうじゃないか。リムル殿いわくワッセはルーニエ国内でもかなりの実力者だということだから、お前もそういうことになるだろ?」

「そうか?一撃入れただけで後は一方的に殴られてただけだぜ?」

「それでも殴られても殴られても倒れなかったんだろ?お前は十分強いよ」

と言うとソウガは照れくさそうに笑う。

「とにかく、すっきりはしてないのかも知れんがお前には俺の仕事を手伝ってもらう。それ以外は好きにして良い。お前はどうしたい?」

「俺は・・・・」

ソウガはわずかに目を伏せながら

「ずっとここに居たい。ダメかな?」

「お前がそうしたいと言うなら構わんよ。俺としてはお前もクウガも、もっと色んなもんを見るべきだとは思うが」

「そういう事じゃないんだ!俺はあんたの傍に居たいんだ!!」

縋るような目で見てくるソウガ。その奥には思い詰めた光がある。

「俺の?」

「なんでもする。だからあんたの傍に置いて欲しい」

特に拒む理由もないので頷いてみせるとソウガの表情が一気に明るくなった。

「じゃ、屋敷に移るか。クウガと喧嘩するなよ」

頷いたソウガは急いで立ち上がると自分の荷物をまとめに行った。


「で?大丈夫か?」

パンツ一丁で青痣塗れのクウガはベッドに横たわったまま腕で目を隠している。

クラムが傍らに座ると

「ダセェよな・・・・」

と小さくつぶやいた。

「体格的にもソウガが圧倒的に有利だと分かっててやらせたんだから別に恥じることは何もあるまい。お前はお前でソウガじゃない。同じようにソウガはソウガでそれぞれ別の人間なんだから比較する意味など無いと思うが。お前はお前の強さを追求して行きゃあいいんだ」

「ホントに?」

腫れあがっていない右目を潤ませ訊いて来たクウガにクラムは頷いてみせる。

「今はゆっくり休め。ソウガの奴もここに住ませるから再挑戦したけりゃ機会はいくらでもある」

「俺・・・なんでこんなに弱えぇんだろ・・・・」

また腕で目を覆い隠すと嗚咽を漏らし始めるクウガ。

「お前は弱くなんかねぇよ。ここまでその腕っ節で生き抜いてきたんだろうが」

クラムはクウガの額に手を乗せると

「上ばかりを見て自分を小さく思うのは止めろ。それはお前の可能性を摘み取る行為だ。いいな」

コクッと小さく頷いたクウガはしばらくすると寝息を立て始めた。



あれから一月。

クウガとソウガは仲睦まじくとはいかない、兄弟としてではなく同僚としての関係を続けている。

また勝負をするつもりらしくお互いかなりの鍛錬を積んでいるようだが、そのやり方が二人ともよく似ていて血のつながりを感じさせた。

シンラは元老院をめぐる一連の準備が想像よりかなり早く済んだために政務への復帰を請われファルニエへと戻った。

身分制度の改革を目指しているようだが早急に片付くようなものではないので足下を固めつつじっくり進めて行くのだという。

リムルは失恋したとかでシンラに同行してファルニエに戻ってしまったが、具体的に何があったのかクラムは知らない。


それぞれがそれぞれに日常へと戻っていく。

心落ち着く平凡で幸せな日々―――

そんな“日常”がいったいいつまで続いてくれるだろう。


終末へと向かう世界の片隅で火の王は空を見上げ祈る。


居もしない神に向かって。


どうか、彼らの道行きに希望の光があらんことを――――



以上でこの物語は終わりです。

元々はアメブロに投稿している話のサイドストーリーだったはずなんですが、こちらの方がはるかに筆が進んだためにこうなりました。

本筋に盛り込めなかった小さなエピソードもあるのですが、それらはPixivのほうに投稿していく予定です。

ちなみにPixivに投稿したものと一部違っています。

アメブロに投稿している本編の方が出来上がったらまたこちらに投稿したいと思います。

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