表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(魔王様の)妹様  作者: 雅樹
9/11

 私はあまりシスカのことをよく知らない。

 いつの間にか兄のそばにいて、従者となった男。

 一般人だということは知っている。というよりも、貴族の中でシスカのことを知る人はいなかった。




 そして。





 私は覚えている。

 浅黒い肌に、漆黒の髪、そして見間違えるはずもない立派な角。私を殺そうとした暗殺者の中に、シスカに似た特徴を持つ人物がいたことを。






 あれはまだ、私が20代だった頃。前魔王を弑そうと兄が暗躍していた時のことだ。

 私は幾度となく命を狙われていた。物心ついたころから家族と呼べる人は兄しかおらず。唯一の家族である私が弱点と思ったのだろう。そんな兄の弱点を抑えようとした前魔王側からの刺客。


 当時の私はそう思っていた。


 そんな気の抜けない日々に、いつの間にか友人や親族は離れていき。いつの間にか私には、本当に兄しかいなくなっていた。



 当時の兄は、唯一の家族である私のことなど顧みず、自らの正義のために闘っていた。兄のもとには同志と呼べる人がたくさん集まっていたけれど。

 やはり、親族や友人は離れて行っていた。



 私を除いて。



 それから約10年。全てを終わらせた兄が魔王に即位したとき、私は久しぶりに兄に呼ばれた。まだ水晶宮ではない、魔王城で兄と出会った時の衝撃を私は忘れない。




 兄のそばには、すでにシスカがいたのだ。執拗に私を殺そうとした男に似た、シスカが。





 その瞬間、刺客は兄からも送られていたと理解した。きっと、弱点になり得る私が邪魔だったんだろう。全てが収まったから私と再会したが。



 きっと本心では私のことを疎ましく思っていたのか。あるいは、弱い私を足枷に思っていたのか。兄の本心は今となっては確かめるすべがないけれど。私が唯一の家族を、家族と思えなくなったことだけは事実である。







 だから言われなくてもわかっている。私はシスカを信用などしていない。

 いや、シスカだけではない。きっと私はだれも信用などしていないのだ。




 ヒノメの名前を捨てさせられたときに、私には誰もいなくなったのだから……。
















 アルヴィ様と別れた後、私は一人会場を後にし、回廊を歩いていた。今は一人になりたかったのだ。

 過去を思い出すと、私の心はまだ痛む。それはきっとどこかで、兄を、家族を求めているからだろう。



 私には信用できる人はいない。いつも一緒にいるマールでさえ、私は信用していない。彼女の笑顔が作られたものだと知っているから。

 そんな私の心の中に、ズカズカと土足でアルヴィ様は入ってくる。そして居座るのだ。



 今は呼ばれることのない名前を、誰からもむけられることはない笑顔を、仕草を見せるアルヴィ様。




 きっと彼は私のことを本心から心配してくれている。そこに偽りがないことぐらい、私にでもわかる。



 でも。



 私は信用することができないのだ。一度生まれた疑心を捨てることができないように。兄と違う人だとわかっているのに、私はどこかでアルヴィ様を疑っている。



 本当は、信用したいのに。






「だからダメなのよ、ヒノメ」





 そう自嘲気味につぶやいた言葉は、誰にも聞かれることなく。闇へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ