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Before resolved

 私は現実に生まれた。現実に、空間という概念を持たせるのはおかしいけれど、私にとって現実とは牢獄だ。出口がない密室でもいいかも知れない、いやそちらのほうがより正しいだろう。

 私はあたりまえのように服を着る。服を着ない人なんていない。それは心も同じだ。だから、本当に心を許した人の前では服を脱ぐ事ができるんだろう(本当かどうかは知らないが)。自分をさらけだす事を恐れて、私はいつも必要以上に心にも服を着せている。夏だったとしても、私の心は厚手のコートを着込んでいるはずだ。

 私は現実というものがあまり好きじゃない。どこか遠い世界へ本当は逃げてしまいたい。けれど、それはできない。現実は空間とは違うから出られないし離れられない。だから、密室なんだ。空間じゃないものを空間として捉えたいから、現実とは密室。そうであって欲しいから。それならまだ、壁を壊せるかもしれないから。どこかに壁があるかもしれないから。

 だから私は壁を探す。宛のない旅に出るような真似をする。

 けれど本質的にそれは無い。現実から穴でも掘って逃げようとするなら、確実に後で痛い目に合う。私はそれを経験しているから、無理矢理逃げようとはしなくなった。むしろ傷ついてしまうけれど、そうしないと今度こそ死んでしまうだろう。それも楽かも知れないが。

 そんな私はしかし、旅の中である方法を見つけた。この色のない、いや、色のついていないような世界の一部を私の色に染めてしまう方法を。

 それは、ひたすらに考えて創る事だった。

 何でもいい。絵、風景、小説、音楽でも。それらを自分の手で創る。私は特に、小説を気に入った。物語と、素敵な風景と、暖かな人やりとりをいっぺんに、しかも文字で描けるからだ。絵のセンスも、作曲のやり方も知らない私には入り込み易かったのかも知れない。結果、絵でも作曲でも、難易度で言えば(本当はそんなものは無いかもしれないが)小説と同じだったけれど。

 しかし創るセンスや人生経験すらない私は、物語を考える時点で苦戦していた。そこで考えたのが『様々な事象や私の考えを、それを象徴する物に置き換えて、その物を使った物語を作り抽象的に考えを出す』という事だった。

 それで私は、現実を物語へと作り変えていったんだ。私の感じるままに、私の思うままに、全て言葉にして書き連ねた。言葉は文字という次元を通り越して、私の頭に直接響くようになった。私の世界で住民は生きて、死んで、働いて眠る。いつか私もその世界の中へ。そんな事を思いながら私は過ごす。

 けれど、現実は何も変わらないんだ。いくら私の心に翼が生えても、いくら私が言葉を作り変えても。

 そんな事は知っていた。だから私は半分諦めて過ごしているんだ。現実は変わらなくても誰かが、誰かの心の隅の色が少しでも変われば、それでいいかも知れない。

 私は現実から脱出できない。それは『生まれれば死ぬ』以外の、私が唯一知っているこの世の普遍的事実だ。

 だから、私が一番それを良く知っている。もちろん、私の心も。

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