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Resolved Myself

 白い部屋にあなたは生まれた。壁は遠すぎて見えないし、天井も高すぎてあるのかはわからないが。もしここが部屋なのだと誰かから聞いたら、本当に部屋なのだろうかと普通は疑うだろう。でもあなたは部屋だという事にしたようだ。誰に聞いた訳でもなく自分で。

 あなたはまず、服を着た。服を着て生まれてくる人などいないから。人は服を着て、おしゃれをして体を隠すのがこの白い部屋では普通だから。あなたはそんなに寒くもないのに、厚手のコートを羽織って首しか出していない。

 あなたはふらふらと部屋をさまよった。あなたはあまりこの部屋を好んではいないらしく、何処か遠いこことは全く違う場所へと行きたいらしい。だけどそれはできない事をあなたは知っている。あなたは、この部屋に生まれた時点でここからは出られないのだと。だから、あなたにとってここはドアのない部屋なのだ。天井も、壁も、窓も、出口の取り柄となるようなものが何も無い密室。

 だが、あなたは床にはりついている一枚のドアを見つけた。これには驚いたようでドアの前で足を止めて目をぱちくりさせている。ポケットに入れていた手をそっとドアノブにかけて、ドアをあけてみる。中には暗闇が広がっていて、覗きこんでも見渡す事はできない。意を決したのか、歯をくいしばってあなたは暗闇の中へと身を投げた。

 誰もいなくなったはずの白い部屋に、あなたは降ってきた。あなたは頭をおもいっきりうって、しばらくは悶えて立ち上がれずにいた。あなたの横ではまたあのドアが口をあけている。獲物を待つ獣のように。爪を隠す鷹のように。

 あなたは乱暴にドアを閉めて、早々に立ち去った。心を晴らすものを求めてひたすらにあなたは歩く。

 ふと、あなたは何か思いたったように手のひらを叩いた。それから腕を組んでうんうん唸る。すると白い部屋の床が僅かに赤く染まったのだ。

 あなたは跳び跳ねたくなるのを抑えて思考を続けた。出られないのなら、新しく作り替えてしまえばいいのだ。あなたはそう結論づけた。みるみるあなたの周りに色が宿っていく。儚い淡青色に、吸い込まれそうな黒(あなたはあのドアの暗闇を参考にしていたのだろう)暖かみのある茶色に恒星のように輝く白など、世界は色に満たされた。

 あなたの周りには、とうとう人が現れた。豪華な王冠に緋色のマントをつけた王様や、いかにも魔術師ですというような黒ローブを被った者。剣を背中にみすぼらしい鎧で旅を続ける者や、赤いワンピースに身を包んだ女の子など。

 あなたは、満足……だった。

 本当は、白い部屋にはあなた以外誰もいない。あなたは何もないところを見つめている。色なんて本当は無い。白い部屋に、あなたは影響を与えられない。

 それは、私だけが知っていた。もちろん、あなたも。

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