私をアジアに連れてって
お金の使い方は人それぞれだと思うけど、私の使い道は決まっている。
それは、食事だ。食欲は人が生きる上での三大欲求の一つであって、それを満たすことこそ幸福であり、人が生きる意義ではないか!?
……なーんて、仰々しい理屈はどーでもいい。食べてる時が一番幸せなのだから、有限たるお小遣いをそこに突っ込んで、誰に責められることもないだろう。
というわけで、ツレのきの子に誘われてアジアなお店でアジアな小物を眺めてはいるけど、買うつもりはさらさらない。こういう小さいものは、こうやってお店に所狭しと並んでいるのが可愛い、と思うのだ。一つだけ買っても味気ない。たくさんの小さなものに囲まれている時が、食べている時の次に幸せを感じられる。人生二番目の幸せだ。
きの子はお目当てと思われるブレスの類を熱心に物色しているので、その間私は、バッグなんかを見たりしている。
こういうのを見ていると、いつも思う。昨今話題になっている電子書籍というビッグウェーブが、学校の教科書にも到来して欲しい。そうすれば、何冊も教科書を持って往復する必要もなくなり、荷物もスッキリ。こんな感じの小さなカバンで通学できるようになるのに。
とはいえ……アジアンバッグは色彩が自己主張強いねぇ。これは、バッグに限った話ではないのだけど、パステルカラーとは無縁な褐色ベースに乗った原色の模様の数々がマジアジア~って感じがする。これは、着る服を考えないと浮いちゃうわ。少なくとも、制服とは相性が悪そうだ。
バッグの棚を離れて、一頻り細々とした物々に癒されたところで、きの子のところに返ってきた。きの子は未だにブレスの棚に齧り付いていた。
「きの子ー。まだブレス見てるのー?」
「はぅっ!?」
私が返ってきたことにも気づいていなかったらしい。
改めてブレスの数々を見渡してみると、色は相変わらずなんだけど、様々な素材のものがある。
「これなんていいんじゃない?」
私は、中でも比較的淡い色の布製のブレスをオススメしてみた。
「それじゃダメなんです!」
そう主張するきの子の手に握られているのは……うーん、このコのセンスはよく解らん。
「日頃から着けるなら、制服に合うやつにした方がいいと思うよ。それに、そんな数珠みたいのだと授業中ジャラジャラ鳴りそうだし」
きの子からの反論はない。判っててそれらを所望しているらしい。
おいくらだろうか、と棚の値札を見てみると……値段はともかく、可愛らしい販促ポップに『願い事が叶う』とか『恋愛成就』とかそんなスピリチュアル文句が踊っている。
「そういうのが目的なら、パワーストーンのお店とか行った方がいいんじゃない?」
その辺りのことは明るくないけど、トータルコーディネートを考え無くてはならないブレスより、魔法石をお守り的に持ち歩いていた方が、きの子の目的は達せられるのではないかと。
「でも……そういうお店、って……何か怖いじゃないですか……?」
そう言って、チラっ、チラっ、と私の顔を伺う。あーあー、解った解った。ようするに、一人で行くのは気後れするから、私に付いて来て欲しい、ってことね。
「それじゃ、一緒に行きましょうか。目当てのお店、近いんでしょ?」
弾けるきの子の笑顔。最初からそのつもりでこのお店をチョイスしたな。解りやすいコだ。回りくどいけど。
本日二軒目の小物のお店(スピリチュアルに疎い私には、パワーストーンも小物も似たようなものだ)も、これまたアジアンテイストだった。というか、アジアに触れすぎて、木材ベースの店内を見ただけでアジアを感じてしまう。パワーストーンのお店と聞いて、白くてガラス張りの棚をイメージしていたことによるギャップもあるかもしれない。
こちらは、さっききの子が見ていたコーナーのブレスを一粒単位でバラ売りにして、店舗全体に広げた感じだ。色んな石が並んでいるけど、その『効能』とも呼べる解説が全てに付けられている。紐を通して繋げる用の穴が最初から空いている丸玉や勾玉も多くあり、まさにきの子が欲していたものそのものだ。
私も、『食べても太りません』とか『ご飯が美味しくなります』とか、そういうのがあれば買ってしまおうかとも思ったけど、そんな都合の良い効果の石はなかった。健康運とか金運とか、そういうスタンダードなものが多い。
が、全てが判りやすいわけじゃない。この『オーラが浄化されます』とかは一体何なんだろうね?透き通っていて石的には綺麗なのだけど、効果的には漠然としすぎていてよく分からない。魔除けってこと?魔除けだったら赤がいいんじゃないかな?なんて思うのは、このお店にアジアな空気を感じているからかもしれない。
そこで、改めて思う。そういや、中国もアジアなんだよねぇ。でも、赤がドーンと来てしまうと、アジアってより、特定アジアになってしまう。中国を中国たらしめているのは、やはり赤色だ。そして、中国から赤を抜くと、広い意味でのアジアな色彩になるのだろう。
改めて店内を見回してみるが、石が持つ不思議な効果のことがなければ、基本的にはさっきの小物店と同じ雰囲気だ。木目調の素材を生かしつつ、その棚には細々とした物々が波々と満たされたガラスの器がいくつも並んでいる。うん、これはこれで癒される。ただ、癒しとは程遠い、やたらと目立つものが店の奥に飾ってある。
ショーケースの中には石、というか、もはや鉱石の塊。紫色の透き通った刺のような結晶が苔状に生えている岩石が仰々しく鎮座していた。お値段七万円。きっと、インテリアの域を超えたパワーを感じられる人は感じられるのだろう。しかし……これ一つ置いただけで、部屋の雰囲気が一気にスピリチュアルになってしまいそうだ。元々そういう家ならいいんだろうけど。
……はっ!逆に、洞窟ハウスのようなところならむしろいいかも!無骨な壁面の中に、綺麗なアメジストが素敵なアクセントになるだろう。そもそも、洞窟ハウスになんて住みたくないけど。
そんなことを考えているうちに、きの子の商談は終わったらしい。お店の人に選んでもらって作ったと思われる石飾りを革紐で首から下げている。願い事、叶うといいね。
それじゃ、今度は私の願い事を叶えてもらおうか!
なんて、大それたことではない。ここからが私にとってのメインイベント、お食事タイムなのである!
これは私の持論だが、食事というのはコミュニケーションの場であって、何を食べるか、よりも、誰と食べるか、の方が大事なのではないかと。例え料理が不味くとも、気の合う二人で笑い飛ばせれば、それはそれで楽しい思い出になる。
休日、私がきの子と過ごすことが多いのは、きの子の家の両親が仕事で不在なことが多いからだ。きの子は元々自炊するタイプでもないようで、食事は概ね外食かコンビニ。だったら一緒に夕飯食べようよ!と最も誘いやすい相手なのだ。通学のためにこの地に一人で越してきた孤独な食卓に色を添えてくれる大切な友人なのである。
夕飯にはちょっと早い時間帯。駅前のデパートのレストラン街を二人並んで歩く。今ならどのお店も待たずに入れるから、純粋に食の好みだけでお店を選べる。
でも、私の気分は決まっていた。今日はアジアだ。アジアなご飯を食べよう。それも、中華ではなく、もう少し西に寄ったタイとかそういう国の……。
と、そんな中で見つけたのが、ベトナム料理だった。お店の外装もベトナムだった。窓ガラスの代わりに掛けられた竹のすだれなんて、まさにベトナムではないか!入り口には、ベトナムの民族衣装であるアオザイの上着が掛けてあって、これ見よがしにベトナムであることを主張している。これしかない!
ということで、『どこでもいいですよー』という雰囲気を醸し出していたきの子に形ばかりの了承を取り、続いて、お店の受付のお姉さんに二人ですー、とこれまた形ばかりの確認を取る。カウンターでも良いですか?と聞かれたので、反射的にOKしたりしてみる。きの子がカウンターを嫌がった記憶もないし。
店内の照明は控えめで、燻竹などの濃い目の木材で彩られた内装とも相まって薄暗い。そんな中でカウンターの向こうに広がる厨房は清潔感のあるステンレスが明るく照らされている。そのコントラストが、演劇の舞台のように思わされた。が、残念ながら料理人たちは普通のコック服だった。本場のベトナムではどんな服装で料理しているんだろうか、と夢を膨らませてみるも、多分、こういう格好なんだろうな。調理器具も、別段珍しいものもなかったし。普通の食卓にありそうな日本製の炊飯器もあるし。店舗用にしては小さいけど、このお店、ご飯あんま出ないのかな?
「はぅー。やっぱり、大きな中華鍋で豪快に炒めるのは迫力ありますねぇ」
「中華鍋って言うな!アレはベトナム鍋なんだよ!きっと!」
折角中華を避けてベトナム料理店に来たのに、中華鍋なんて言われたら、中華な気がしてしまうじゃないか!かといって、ベトナム独特の調理器具なんて、あまり思いつかないけど。
調理師ばかり眺めていないで、そろそろ料理を注文するべきか。
メニューを眺めてみると、ベトナム風カレー、というのが幅を利かせている。レッドカレーやグリーンカレーなど、様々なカレーが展示されているページが、きの子も気になっているようだ。
「ベトナム風カレー、ですかー……どんなでしょうねー?」
私も詳しくは知らない。だが、
「カレーなんだから、美味しいに決まってるよ!もっとベトナムならでは、ってのはないかなー?」
と、別のメニューを促す。わざわざベトナム料理というレア度が高めのお店に来ているのだから、もうチャレンジブルな料理を食べてみた方が楽しいのではなかろうか!? 世界各国カレーはあるけど、不味いカレーなんて聞いたことがない。
「じゃあ、これにします。ベトナム風お好み焼き、バインセオ!」
そういえば、それは前にテレビで見たことがあるかもしれない。その時は現地の屋台で売っていて、ベトナム風『クレープ』と呼ばれていたよーな。それの具を豪華にして、夕飯向けにしたものかな。
きの子が粉物なら、私はご飯物にしておこう。
「じゃあ、私は……この、牛煮込みかけご飯、というのにしてみるよ」
牛肉の角煮がゴロンゴロンと乗っかったご飯をチョイスしてみた!
「それはベトナム……ですか?」
よく分からないけど、ベトナム料理屋のメニューなんだから、ベトナムに違いない。何より、
「角煮は大抵美味しいから、初めて入る店では角煮頼んどけ、ってお婆ちゃんから聞いた」
「……カレーは美味しいに決まってるから、もっとベトナムらしいものにしておけ、と成美から聞きました」
「ち……違ッ……!これは、ベトナム角煮! ベトナム角煮なんだよ! ベトナムらしいんだよ!!」
こ……この言い訳は苦しい……か……!? お婆ちゃんの知恵袋に釣られてつい無難なものを頼んでしまったかもしれない……! でも、ベトナム料理店なんだし、ベトナムらしさを感じさせてくれるに違いない!私はそう信じている!
さて、煮込んだものをご飯に掛けるだけだから、私の方が先に出てくるかと思ったけど、調理の順番的なところか、きの子のバインセオのが先に出てきた。
やっぱりお好み焼きというよりクレープだった。丸くて薄いクレープ生地ではみ出さんばかりの野菜炒めを半分に包み込んだ感じ。生地はどう見てもクレープっぽいのだけど、具を考えれば確かにお好み焼きといえるのかもしれない。
これをナイフとフォークで適度な大きさに切って、一緒に付いて来たサニーレタスで包んで、それを更に一緒に付いて来た薄い橙色のタレを付けて食べるらしい。
きの子は半月形のクレープ生地に一生懸命ナイフを突き立てるが、どうも上手くいっていない。ようやく一部を切り取り、断面を見た時、苦労の原因がはっきりした。
中身はキャベツやもやし、豚肉にエビなんかがゴロゴロしてるんだけど、それをつなぎ合わせるものがない。とっても不安定なのだ。ビニール袋に河原の石を詰めたようなもんだ。切るための台座も不安定だし、切った先から具が外にこぼれ出ていく。
だから、これをサニーレタスで包もうにも、切った時点で崩壊していて、生地は具の一種と化している。それらを無理くり一枚の葉っぱで纏めて、タレの器にちょんちょん、と付け、口に運ぶ。
「あ、美味しいです!」
味は良いらしい。ということで、私も少し分けてもらうことにした。
きの子の様子から、食べ方は何となく察していた。食べられそうなくらいの生地を切り取って、そこからこぼれた具材を、生地もろともフォークで拾って葉っぱに乗せて、包み込む。それでも、具はボロボロで、ちょっと油断するとレタスの隙間からこぼれてしまう。うーん、こんなの屋台で買って、外で食べられるはずがない! 私が見たのは違う料理だったのだろうか……。
とはいえ、きの子が言うように、本当に美味しかった!
炒めた野菜やお肉には特に塩コショウなんかはされていなくて、さっぱりしている。いわゆる、食材そのものの味を引き出した、というやつだ。それを包んでいたクレープ生地はほんのり甘く、玉子の風味がとてもまろやか。それらを引き締めるのが、甘酸っぱいタレ。ぼんやりした感じのバインセオ本体ととても良く合っている。あとは……もう少し食べやすければなぁ……。
そうこうしているうちに、私の角煮もやってきた! 平皿の上に盛られたご飯に、牛の角煮と、小松菜っぽい緑の野菜が乗っている。とても美味しそうだ!
スプーンで一口掬って食べてみると……うん、お婆ちゃんの格言に偽りなし!しっかり煮詰めたスジ肉はとってもプルプルだ。お酢と醤油がベースの甘酸っぱいソースは片栗粉でとろみが付けられている。それに合うように、ご飯も固めに炊かれていてとても美味しい。
確かに美味しい……美味しいのだけど……何か嫌な予感がして、きの子にも一口食べてもらった。
「これ、中華ですね」
うわーーー!!やっぱり!私もどっかで食べたことがあるような気がしててさ!具体的には中華料理屋で! 何か、同じようなお婆ちゃん的理由で選んだ気もしてきたよ!
美味しくて食は進むのだけど、全然ベトナムじゃないよ! 隣でバインセオ食べてるきの子がとても羨ましくなってきたよ! こんなのベトナム料理屋で食べるモンじゃないよ! いや、美味しいんだけど! 美味しいんだけど!!
食べにくいながらもベトナム的に美味しいバインセオをモソモソやっているきの子の隣で私はとっとと美味しい中華を食べ終え、避けて立てかけておいたメニューを再度開く! このままじゃ引き下がれない!
「食後のサービスのお茶でございます」
とお茶のポットを持ってきてくれたウェイトレスさんに、
「追加注文お願いします!!」
と挑みかかる私。それを見て、
「まだ食べるんですか!?」
と驚くきの子。
「甘いモノは別腹、ってお婆ちゃんから聞いた」
「別腹に入れたつもりが、このお腹、ってCMで聞きました」
ぐ……痛いところを突く……!
「半分は、私のお腹じゃなくて、きの子のお腹に入るから大丈夫」
「え? ああ……うん、ありがとうございます……?」
一方的に、半分押し付けることが決定した。
私が追加注文した揚げバナナは、その名の通り揚げたバナナで、写真を見る限り、それを半分に切ってあった。だから、半分はきの子にあげてしまえば、別腹に入れるまでも……ない?
「バナナの練乳掛け、ですか。……なんか厭らしいですねー……?」
不自然なまでにニヤニヤするきの子が何を考えているか、最初は判らなかった。バナナと練乳ってド鉄板な組み合わせで、それがまた無難すぎる、と言っているのかと思ったけど……もしかして、きの子が言いたいのは……。
「オヤジかッ!?」
それが女子高生のギャグか!?こんな下らないことで食欲落ちるほど私は軟じゃないけどさー……。このコが女で良かったわ。男だったら九割方セクハラで訴えられる中年オヤジへと成長を遂げることだろう。
戴いたお茶はハーブティーっぽいけど、ジャスミン茶ほど癖がなくて飲みやすかった。というか、これもジャスミン茶だったら本当にチャイナだったよ……。何のお茶かは気になったけど、もしジャスミン茶の一種だったりしたらショックなので、これはベトナム茶だ、と自己暗示を掛けて、素直にお茶の清涼感を楽しんだ。
爽やかなお茶のお陰できの子の下ネタもスッキリ忘れた頃、揚げバナナがやってきた。
揚げスイーツと聞いて、私はドーナツみたいなものを想像していた。写真も、こんがりきつね色に揚がったバナナに、たっぷりの練乳がかかってたし。
しかし、実物は、そんなに焦げ色もついていない、白い生地に包まれたバナナだった。メニューのは、写真映えするように強めに揚げたのかもしれない。
食べてみると……全体の食感はもちっとしていた! 揚げた生地も、パリッ、ではなく、モチッ、だった! もっちゃもっちゃしていた! その意外性にちょっと驚いたけど、味は美味しかった!
元々甘いバナナだけど、その上に人工的に甘さを突き詰めた練乳、更に粉砂糖まで降り掛かっているのだから、それはもう極上の甘さだ。この甘さの前では、バナナといえど、所詮は自然の甘さ。熱を加えて甘さが増しているとはいえ、それでも、練乳と粉砂糖のタッグの前では、甘味より酸味の担当と言わざるを得ない。つまり、驚いたことに、練乳の甘さをまとめるためのアクセントがバナナになっているのだ。バナナの甘みは完全に打ち消され、僅かな酸味によって、デザート全体を引き立てる役目を担っているとは恐れいった。
お茶を貰えて、本当に良かった。ただの水では、口の中に広がる甘さは流しきれない。むしろ、お茶の方も、バナナによって清涼感が際立っているようにも感じられる。この組み合わせは、半分を物理的な別腹に譲っておいて本当に良かった。余裕で一本丸ごと食べられてしまいそうなハーモニーだ。しかし、それは明らかにオーバーカロリー。やっぱり、さっきの石屋で、食べても太らない石を買っておくべきだったか。無かったけど。
ただ……この甘さとモチモチ感は……
「この感じ、どこかで食べたことがあるような……?」
何かをリフレインさせる気がする……。何だっけ……。
「揚げ団子に似てる気もしますね」
「またしても横浜中華街か!?」
確かに味とかは全然違うんだけど、この甘くてもちもちした揚げおやつ、ってのが、揚げ団子と似てる!?
「ようやくベトナム料理にありつけたと思ったのに、またしても中華……?」
昼間に訪れた小物店たち……中国からきっちり距離を取って、アジアらしさを保っていた店々と違って、私はアジアと中国の境界をいとも簡単に踏み越えてしまった! アジアなつもりが特定アジアに送り込まれていた……のか……!?
ベトナムチャレンジは成功したのか、失敗したのか。複雑な心境の私を慰めるためのきの子の一言。
「大丈夫ですよ。揚げバナナは中国ではなく、タイが有名ですから」
結局ベトナムじゃないじゃん!!
ベトナム料理なんて珍しいお店に来るなら、ベトナム料理の何たるかを下調べしてから来るべきだったかなー、とちょっと反省。美味しい料理、以上の何かを食べ損ねた私はお店を後にしたところで、再戦を誓って振り向いた。そこには、来た時と同じようにベトナムの象徴であるアオザイが飾られていた。
しかし……改めて見ると……?
「コレ、チャイナドレスじゃない!?」
襟の立ちっぷりや、身頃の合わせ方が、どう見てもチャイナ服だ!
「言われてみると……ズボンが無いとクリソツですねー」
アオザイとチャイナドレスの最大の違いはズボンの有無だ。お店に入る前は、ベトナム料理屋ということもあってアオザイだと断定したけれど、こうズボン無しで上だけ掲げられると、本当にアオザイなのか、と疑わしくなってくる。
中国から陸続きのベトナムは日本よりも中国の影響を強く受けていて、文化の境界も曖昧なのかもしれない。
ベトナムを始め、東南アジアの国々には、中国ではないところを大事にしていって欲しいな、なんて、よく知らない人たちにエールを送るのであった。