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千駄ヶ谷にて

作者: 真崎麻佐

沖田総司

新撰組一番隊組長

慶応4(1868)年27歳で死す



近藤さん。

土方さん。


私は一番隊組長らしく死ねるでしょうか?


私はそれが心配で仕方ないんです。



「総司、体調はどうだ?」

最近、頻繁に近藤さんが来る。近藤さんは優しいから、私を不安にさせまいとお見舞いに来てくれるんだろう。でも、私には死の宣告にしか思えない。


ごめんなさい、近藤さん。


「今日はな、美味い茶菓子を見付けたから、お前に持って来たんだ」

近藤さんが風呂敷に包まれた小さな箱を取り出した。白い生地の上の、紅い模様が可愛らしい。


いつもはただ憎らしいだけなのに。


近藤さんは新撰組の話をよくしてくれる。永倉さんと左之助さんがどうした、だとか。尊皇攘夷の動きだとか。やっぱり良く分からないけれど。近藤さんは私がいつ帰って来ても、元通り馴染めるようによく話してくれる。


あぁ、早く皆の元へ戻りたい。


近藤さんが帰った後、時々あの人は顔を出す。冷たい振りをして、本当は温かい土方さん。

「ほら、綺麗だろ?」

土方さんが私に渡したのは一枚の紅葉。土方さんは見た目では分からないけど、風流人で。この人なりの優しさが詰まっているんだなぁ。


いつもみたいに意地悪のままがいいのに。


「一番隊の奴らが弛んでやがる」

土方さんは私の所へ愚痴を言いに来る。主に私が関係している愚痴。私は笑うしかできないけど、それでいいだろうか?


ごめんなさい、土方さん。


土方さんが帰ると、私は独りだと改めて思い知る。


あの煩い道場に帰りたい。

菊一文字を思うままに操りたい。

皆と笑っていたい。



願うことは簡単なのに、

叶えることはとても難しい。



ねぇ、私は


一番隊組長として、立派に


死ねますか?



近藤さんや土方さんに先立たれるのは嫌だ、とあんなに思っていたのに。


私が先に逝くのも嫌だなんて。


私はなんて我儘なんだろう。



声を上げて泣けたらいいのに。


そうしたら、もっと楽になるかもしれない。


でも、

私にはそんな勇気はないんです。


近藤さん。

土方さん。



だってそれは、己の死を自覚してるって、ことでしょう?



私はまだ死ねない。


まだ死にたくない。



散々人を斬って来た沖田総司が、いい笑い者だ。



醜くても、それでも生きたい。


私の死に場所は此処じゃない。


私の死に場所は



戦場だから。



私の死に場所は



近藤さんや土方さんの隣だから。



こんなに強く願っているのに、


叶わないなんて。


やっぱり今までの行いが悪かったのかな、と


己を嘲笑う。



近藤さん。

土方さん。



私を一番隊組長として、死なせて下さい。





動かねば

闇にへだつや

花と水


沖田総司、辞世の句。



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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーがいいと思います。 私は沖田がすきなのでもっとかいてほしいです
[一言] とても感動しました。 もともと私は土方派なのですが、沖田派になっちゃいそうでしたv
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