悪役令嬢に生まれて
悪役令嬢は孤独な人生を送っていた。
気がついたら、異世界に転生していた。どうやら私は悪役令嬢らしい。愛人の子で、家族からの愛情はもらえないまま育った。過剰に厳しい教育としつけだけの生活の中、孤独だった私は成長と共に孤独を自ら選ぶようになっていた。
前世も、友人だと思っていた人に陥れられて、みんな離れていってしまって孤独だった。他人を信じたり、期待することに疲れ果てていた。生まれ変わっても、孤独のままだとは皮肉だ。
悪役令嬢らしく、第三王子が婚約者候補だった。あくまで『候補』だから、交流もないし、興味もなかった。権力争いの牽制としてちょうどよかったから利用されただけだ。
学園に入ると、ヒロインがいた。数多くプレイした乙女ゲームのどれかなのはもう忘れてしまっていた。でも、ピンクブロンドだから、ヒロインだろう。第三王子とも順調に交流を重ねているようだった。
私についてもうまみがないせいか、取り巻きもすり寄ってくるものもいなかった。寮生活が基本の学園で、本だけが私の余暇の友だった。
ある日、学園内で子犬と出会った。足にけがをしていた。抱き上げて魔法で癒そうとして、違和感を覚えた。
(何かが引っかかる)
乙女ゲームの中には時折、胸を痛めさせるために悲しいイベントがあった。その中に、子犬に関するものがあったような気がする。魔法で子犬の体を探ると、どうやら呪いがかけられているようだ。
私は子犬の呪いを解除した。厳しい教育で唯一いい点は、身につくことだ。つまらない人生でも、学んだことが役に立つこともあるらしい。
次の日から「あの人が呪いをかけて回っている」と噂されるようになった。けれど、どうでもよかった。私は噂を放置した。
しばらくすると、第三王子とヒロインに呼び止められて、
「呪いをかけるのをやめるんだ」
「どうしてそんな事をするのです」
と言われた。
「そんな事をした覚えはありません」
と言うしかない。それでも2人は「やめろ」と言うだけ言って去っていった。ゲームのイベントだったのかもしれない。
ある日、地味な感じの男子学生に声をかけられた。
「あの子犬は元気ですよ」
「そう」
あの子犬を拾って育てているらしい。
「見に来ませんか?」
「行かないわ」
それきりだった。
卒業式で、呪いをかけたと断罪された。証拠として私の手によるものだという魔法陣や、怪しげな店で品物を買ったのを見たという証言者が出てきた。知りませんと言ったが、いつもひとりの私の行動を知っている人はいなかった。私は公爵令嬢としての身分を剥奪されて、国境に放り出された。
私は国境を越えて、すぐ近くにあった木の根元に座り込んだ。もともと、あまり生きていることに意味を見いだせていなかった。山賊が来るのが先か、モンスターが先か。それだけの話だ。ハイヒールで歩いて、足を痛めるのもばからしい。
「本、欲しいな」
暇だった。ぼんやりしていると、何かの気配がした。
「モンスターか。痛くないといいな」
呟いた私に襲い掛かってきたのは、犬だった。顔を舐められる。私は不快で犬を引き離した。
「よかった、間に合った」
見上げると、あの地味な学生だった。
「どうしてここに?」
「この犬を助けてくれたお礼です」
「別によかったのに」
「馬車があります。俺、平民になるんですけど。よかったら一緒に来ませんか?」
「ひとりが好きなの」
男子学生は笑って、「俺もです」と言ってから、
「家を借りて、一緒に住むけど干渉しないというのはどうです?」
「シェアハウス?」
「何ですか、それ」
「それならいいかもしれないわ」
私はひっそりといまだに生きている。
読んでくださり、ありがとうございます。




