友達落とし
僕は昨日の晩夜更かしをしてしまった。
深夜になっても、ずっとインターネットを巡回していた。
いわゆるネットサーフィンというやつだ。
リンクを次々に飛びまわってサイトを見て回るネットサーフィン。
僕は最初ゲームの事について調べていたはずだった。
ところが、しばらくリンクを飛び飛びにクリックしていくと、ホラー系統のサイトに行きついてしまった。
僕はあわててウインドウを閉じようとした。何故なら僕はホラーが苦手だからだ。
だがしかし…少しだけ見てみようと思ってしまったのだ。
それが…全ての始まりだった。
僕はそのホラーサイトを端から端まで見渡した。背景は黒、文字は赤の明朝体。という在り来りな色と活字。
「なぁんだ、怖くないな。」
僕はそう思い、油断した。
そのホラーサイトの名前は「呪海」。これも在り来り。
リンクを次々にクリックしていき、僕は黒魔術実況動画や、怪希動画コーナーに行きついた。
そして、少し戸惑いながらも僕は“興味本位”で、それらをクリックした。
僕が見たのが「友達落とし」という動画だった。
その動画はアニメだった。
そして見ていると内容はいたってシンプルで、ある日インターネットのホラーサイトを閲覧していた主人公が、友達落としと題の付いた動画をクリックして、再生。
そしてその翌日。奇妙なことが起こり、友達が…次々に血の海と化し、消えて行くというものだった。
そして、前半部分が今の僕の行動にそっくりだったため、最後まで見ないで僕は…パソコンを終了し、その日は寝た。
そして翌日、僕は学校に行き昨夜見たサイトの事も動画の事も勉強に押しのけられてすっかり忘れてしまっていた。
そして、数日たったある日。
僕は同じように学校に行くと、女子達が聞き覚えのあるサイトの噂をしているのを耳にした。
「ねぇねぇー、呪海っていうサイト知ってる~?」
「知ってる知ってる~! あの超~怖いサイトでしょ?」
「そうそうっ、でね…あそこの噂なんだけど…」
僕はゾクッとした。
そこでやっとこの前のサイトの事を思い出した。気になるので、こっそりその女子の話に耳を傾けると…
「あのサイトに、“友達落とし”って動画があるんだけどさぁー」
…どくん…どくん…
鼓動が騒ぐ。心臓が暴れ出す。
この前見た動画…
「その動画…ちょっとやばいっぽいんだよねー。」
「やばいって~?」
「それを見た人の周りの人がね…次々と血の海になって消えて行くんだってさ」
「うわぁっ こっわぁ~いっ」
「でもでもー、最後まで見れば大丈夫なんだってさぁー。途中で切ったら…の話だよ」
…今度こそ心臓が破裂するかと思った。
途中で切ると、友達落としが起きる?
はは…冗談。どうせ噂、質の悪いデマだろう。
僕は極力そう考えることにした。
どうせ起きやしない。起きやしない。
そんなこと起こっていたら、ニュースになっているはずだ。
なにせ、インターネットは全国に張り巡らされていて、設備があれば誰にでも閲覧可能なのだから。
僕はもうそれ以上、女子達の話を聞かないことにした。
ただ…後からそれを後悔することになろうとは今は思ってもいなかった…
数日後…やっぱり数日たっても、何も起きない。
やはりデマだ。質が悪い。どうせデマ流すんだったら、もうちょっとましなのにしろよ。と思うようにもなっていた。
そんなある日…
僕は放課後部活途中。パソコンルーム横のテニスコートで、信じられないようなものを見てしまった…
その時、僕は普通にパソコンルームで部活動の真っ最中だった。部活は、科学技術部だ。
パソコンを使っていろいろなことをする。
そんな部活、信じられないほど明るい部活。
そして、その日は珍しく静かだった。
その静寂を破るようにして、突如隣のテニスコートの方から悲鳴が聞こえてきた。
「キャァーっ!!」
「なっ! 何があったんだろう、ちょっと見てくる!」
「いってらっしゃーい。」
僕はあわててパソコンルームから飛び出し、隣のテニスコートに向かった。
「どうした!?」
「ねぇ…海川…あれ…」
テニス部員が指差した先に僕は信じられないものを見てしまった。
なんと、赤い液体の海が出来ているではないか。
…恐る恐る触ってみる。
すると、べたべたしていて、鉄のにおいがする。これは…血だ。人血だ。
「…血…」
僕は頭の隅に例の“友達落とし”が浮かんだ。
そして、急に怖くなり動けなくなった。
もしこれが友達落としなのだとしたら、自分のせいだ。これからも、どんどんと消えていくに違いない…
そして、その“可能性”を“確定”に変えることを僕は発見してしまった。
血だまりがあるのに、人の姿が見えない…
これじゃぁ、血の海になって消えると言う人間落としとまるっきり同じだ。
「なぁ…部員全員集めてくれないか? 誰がこうなったのかが、知りたい」
「わ…わかった、ちょっと待ってて…」
まだ中学生の僕に、とてつもなく重たい責任感と、底の無い恐怖が襲った。
周りの人間が消える…それは、自らも消えると言うことなのだろうか。
そして、恋人や家族友人みんなみんな血の海と化し、街全体が血の海になってしまうのだろうか。
きっとそうだ。いいや、そうだ。
だから、僕はどうにかしたい。
でもどうにかできない。なら、誰が消えたかくらいは…皆に把握してもらいたいし、何が起こっているのかも、把握してもらいたい。
「連れてきたよ」
「…よし…この中で誰かいない奴はいるか?」
部員は騒ぎ始めた。目の前には血の海。そして、居ない奴はいるかという問いかけ。
最近校内で噂の友達落としを、テニス部員にも連想させた。
「友永さんがいません…」
「そうか…僕にはどうしようもできないけど…せめて、黙祷くらいは…してやろう」
「…」
皆一斉に、友永さんに祈りをささげた。
そして、僕は周りに居る人全員に今の事態を伝えた。そして、これを学校中に伝えるようにと言い残し、僕はパソコンルームにもどって調べることにした。
再び呪海に行き、友達落としについて調べる。あそこは、怪奇の情報やらなにやらがいっぱい詰まっているから、何か出てくるだろう。
しばらく調べると、気になるワードが見つかった。
――友達落としをするのは…真っ黒な影。真っ黒な影が、真っ赤に目を光らせて、次々に人日ろを、消して行きます――
「真っ黒な影…まぁ、突然消えるよりは対処しやすいな。よし、早速これも全校放送で流そう。」
僕は走ってテニス部に追いついて、全校放送で流す内容を伝えた。
そして、全校放送でさっきの生滅事件のことや黒い影の事を全校生徒及び職員に伝えた。
「よし、これでひとまず対処できる。」
僕は放送室を出て、再びパソコンルームへと向かった。
昔から、情報を制するものは戦を制すと言うので僕はそれに従い、情報収集。
素早く対処方法を見つけ、逐一実証してみなければならない。
もう辺りは薄暗く、雰囲気も少し出てきている頃だ。
部員も手伝うと言ってくれた。
ので、科学技術部全員で友達落としの対処法を調べ、実証を繰り返すことにした。
「さぁ、みんなガチでやるぞ!」
――オーッ!――
次々とクリックしていく音。キーボードをたたく音。それらしかしなくなった。
外からも悲鳴の一つ聞こえやしない。
みんな無事なのだろう。
僕らは、ある程度安心して情報収集に挑む事が出来た。
そして、僕らが情報収集をある程度まで進めた頃。校舎では…
「きゃぁぁぁあぁぁ!! 黒い影っ!!」
「まだ! 生きたい!死にたくない! なんで! …これも、全部海川のせいよ!」
「そうよ! 海川を…海川を恨むわっ!」
「きゃぁっ! 来ないで! 来ないで! うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁ!」
どこもかしこも
悲鳴。悲鳴。悲鳴。
黒い影。悲鳴。怒声。血。消滅。何処へ。生? 死? 恨。憎。呪。
呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪
「…な! 悲鳴が!」
「そこらじゅうで起こってますね」
僕はものすごく恐ろしくなった。
今どこかで僕は呪われているのではないか。そう言う思考がよぎった。
これは推測ではなくむしろ予感というもので、僕の中では100%当たりだ。
僕は急いで探すことにした。
より正確で、質の高い情報を。
そして、校内では次々と人が消えていく。
ただ断末魔を残し、深く真っ赤な海となって消えていく。
こつ。こつ。こつ。と黒い影が廊下を歩く音が聞こえる。
こつ。こつ。こつ。
人々は静まりかえる。
死の予感。助かりたい。自分だけでも。
だったら邪魔なものは?
友達。クラスメイト。教師。みんな邪魔。
自分だけでも助かりたい。蹴落とそう。
蹴落とそう。そうだ蹴落とせばいいんだ。
人々に鬼のような心が生まれた。
誰もが友を蹴落とし、自分だけ助かろうと走る。何処へ?
この現象の発生源は?
海川。
海川の周囲の人間が友達落としに遭う。
なら、どうすれば止まる?
殺す。殺る。自分の手は染めたくない。
ならどうする?
黒…黒魔術?
黒魔術。呪い。呪う。
決定。
一部の人が闇雲に走ることをやめた。
また一部の人は人を蹴落とし、どこかに走る。一人だけ助かろうと、どこかへ走る。
冷静さを失う人々。
その中でも冷静な人は手近な教室に行こうとする。
ただ、海川を呪うために。
こつ。こつ。こつ。
「きゃぁっ! 来ないでっ いやぁぁぁぁ」
「ひゃっ! あっち行けっ! おい、お前ら邪魔だっ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁxっぁ!!!」
「うひうっ…ひゃぁぁっ…どけ!…邪魔…」
悲鳴、怒声、わめき。
「このっ! 来るなっ!ひっ…来るな、来るなぁぁっ ういあわうあむ!」
意味不明不可解な言葉を発する人々。
きっとこんな人々を黒い影。
友達落としはおもしろがって見ているだろう。
無論、心があればの話だが。
…僕はやっとのことで、一番有効と思われる情報を得た。
そして、それを実行しにかかる。
――友達落としを解く方法――
1.まず、数人で手をつないで輪を作ります。そして、その輪の真ん中に動画を見た人を置きます。
2.そして、カゴメカゴメをします。
3.真ん中の人は目を開けないでください。真ん中の人は、暗い闇で独りぼっちな自分を想像してください。
4.カゴメカゴメが終わるころには、友達落としは消えています。
なお、かごめかごめは三回行ってください。
決して偶数回はだめです。
三回です。
なお、友達落としで消えた人は友達落としと一体化し、戻ってきません。
本当に殺すことになります。解除する前にお考えください。
そして、僕らは輪を作って僕が真ん中に入った。
そのころ、教室では海川を呪う黒魔術が進められていた。
僕らは、方法に従い僕は目をつぶり真っ暗な闇の中で独りぼっちの自分を想像。
かごめかごめが始まった。
――かごめかごめ。籠の中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に鶴と亀が滑った後ろの正面だぁれ―ー
――かごめかごめ。籠の中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に鶴と亀が滑った後ろの正面だぁれ――
――かごめかごめ。籠の中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に鶴と亀が滑った後ろの正面だぁれ――
…僕は目を開けた、すると目の前には信じられない光景が広がっていた。
消えるはずの友達落としが、今。そう、今。
このパソコンルームに居て、みんなを消している。僕のところに来たというところは、他の皆はどうなったんだろう。
そしてなにより、この解除方法。
間違っていたのか…?
もう一回画面を見る。
すると、小さい字でこう書いていた。
――友達同士でやらないでください――
…そういうことか。
――こつ。こつ。こつ。――
やめてくれ。来ないでくれ
――こつ。こつ。こつ。――
来るな、生きたい。死にたくない。
――ノロウゥ…イッショウノロウ。ライセノサキマデズット…ノロイタオシテヤル…
…え…この声は…怨念?誰の?
あぁ、みんなのか。
でも…
僕は手近にある刃物を手に取り、黒い影を刺した。
すると、真っ赤な血が辺りに散らばり僕の意識は、ぱったりと…途絶えた。
僕一人断末魔を残すこともなく。
さぁ、友達落とし。
みんな楽しく遊びましょ。醜い人間。醜い心。決別せねば意味はない?
さぁさみんなで遊びましょ。
遊びましょ。純白無垢な心の持ち主。
皆で楽しく遊びましょ。
暗黒邪気な心の持ち主。
みんなみんな真っ赤に染まり
叫びを残して消えてゆく。
さぁさ友達落とし。
今宵の話は邪気の念。
今宵の話はこれにて終わり
真っ白な学校真っ赤に染まり
今宵の話はこれにて終わり
今宵の話もまた呪海の実話談に載ることでしょう。
無人のサイトに。