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王妃様の誕生日パーティー2

「ありがとうございます。では少し御確認させて頂きたいのですが、サーセン伯爵夫人。先程ご親戚に医師がおられると仰いましたね」

「いるわよ。王宮御用達の優秀な医師よ」

まるで自分の事のように得意げだ。

「ありがとうございます。では、私の診察して下さった医師はその方に劣る、という事ですね」

「当然でしょう。どこの馬ともしれない愚鈍な医師に診てもらうなど吐き気がしますわ。先日叔父が内密な患者を診察したと得意げに教えて下さいました。とても高貴な方からのお願いだったので、内容は流布出来ないが、と。本当に残念だわ、言ってくださればおくちぞえして差しあげたのに。あら、そうしたら白き体では無いと分かってしまうわね」

扇子で顔を隠しながらも、傲慢な感情は素直に出る。

ありがとうございます。ではあのお方は約束通り、黙ってくれているのだ。

ふと目線が合う。

4人の背後で、とても目を細め、全てを知り尽くすような立ち居振る舞い。

寒気が襲う。

落ち着かないとね。私が飲み込まれそうだわ。

ふう、と一息つく。

「おくちぞえは他の方にして頂きましたので結構です。高貴なお方である、この方に」

その全てを知る方に、手を差し出した。

「当たり前ではありませんか。大切な我が弟の為なら、そしてそ弟が守りたいと望んだ女性の為なら何の事もありませよ」

4人の背後から悠々と声が聞こえ、とても意地悪そうで、楽しそうな顔が見えた。

「な、何故!?」

「カイン様!?」

「サジタリー様!?」

「いつから!?」

振り向いた4人の驚愕の顔に、高揚感を感じた。

「どうされました?初めからお2人はおられましたよ。そう、初めからね。あら、お気づきになりませんでしたか?申し訳ありません。お伝えするべきでしたね。ですがね、何故、私が1人になったとお思いですか?あれだけサジタリー様が側に付き、誰をも遠のけ、守って下さっていたのに離れた。ありがとうございます。まんまと罠に嵌って頂きまして、うれしく思っております」

私の一言葉に一気に顔色が悪くなった。

絶対に逃がさない。

あなた達も、ホーン様も。

自然に口元が弧を描くように動いてきた。

「カイン様、お聞きのようにサーセン伯爵夫人は私を診てくださったタブ様を愚鈍だと、貶めておいでです。カイン様がわざわざこの国随一と勧めてくださったあのお方をです」

「それは、残念ですね。タブ様は陛下も認める優秀な医師でありますのに、そのように愚者扱いするなど、どのようなおつもりですか。これは処罰を考えさせて頂きます。ああ、申し訳ありません、レン様。先をどうぞ」

にっこりと微笑む。

カイン様、促し方が上手いですね。

少しずつカイン様の目に、言葉に引き込まれていく自分が、わかる。

少しずつ、染まっていく。

腹黒。

それは言い換えれば、やられたらやり返す。

「そうそうサーセン伯爵夫人、タブ様に体に害をなす野菜を聞きましたね。タブ様は何の疑問も呈さず答えた。そして体調を崩したシュルク家にカイン様の申し出で診察に行き、気が付かれた。聞かれた野菜が原因である、と。疑念に満ちた思いで、つい、ついでございますよ、その愚鈍な医師はカイン様に、サーセン伯爵夫人に同じ野菜の事を聞かれました、と相談されたのです」

「・・・なっ・・・!!」

ぶるぶると体を震わせ、

「どうされました、お顔色が優れませんよ?サーセン伯爵夫人のその愚鈍なる医師の行為です。ああ!私がその野菜を食べて体調が大丈夫だったのですか?と心配して下さっているのです。大丈夫です。愚鈍と言われた医師にですが診ていただき、運良く、このように生きながらえております」

もうお気づきですよね、サーセン伯爵夫人。あなたの言う叔父がタブ様だと言うことです。

サーセン伯爵夫人はふらりと体が傾いたところを、隣にいたハリカ伯爵夫人が支えた。

「レン令嬢、次はハリカ伯爵夫人が宜しいと思います」

カイン様の威嚇、それ以外の何もので無い声と、そして微笑み。

やはり、噂通りの性悪だわ。

そしてサジタリーは慣れている様子で、驚くことも無く微笑んでいる。いつもの事なのね。

「ありがとうございます。では、ハリカ伯爵夫人」

「わ、私ですか!?」

「先程薄汚れた色のドレス、と仰いましたね」

「そ、それが・・・何か・・・」

私ではなくチラチラと不安そうにカイン様をみる。

「このドレスは王妃様が私の為にわざわざご用意して下さった品物でございます。それを、薄汚れた色のドレスとは王妃様を否定されるのです。そうでした、ハリカ伯爵夫人は流通を得意とされていますものね。色々な物を見聞きしているので、王妃様の好みなど大した事ない、とお思いになっているのですね」

「そ、そんな滅相も・・・あ、ありません!!」

「侮辱もいい所ですね。あなたは常日頃から母上の衣装をそう思っていたのですか」

また、いい所で入ってくる。本当にカイン様の物言いは、怖いわ。

「それと、先日野菜を届けてくださってありがとうございます。お礼が遅くなり申し訳ありません。ハリカ伯爵家はとても流通に長けておいでで、下請けの下請けのもっと先でしたので、すぐに辿りつけませんでした。ですがサジタリー様が見つけて下さり、こうしてお礼を申し上げる事が出来ました。サーセン伯爵夫人にその特別な野菜を教えて頂いたのでしょう?ちゃんと私の口に入りましたので、御安心下さい」

「ひっ・・・!」

真っ直ぐに見つめ微笑んで差し上げると、サーセン伯爵夫人と一緒に震え出した。

「皆様、ご存知とは思いますが、この場は王妃様の誕生日パーティー。そして、目の前には2人の王子がおられます。よもや、座り込むなど、と言う失礼極まりない事はされませんよね?」

4人の顔が引き攣り、倒れそうになった、サーセン伯爵夫人とハリカ伯爵夫人は、かろうじて我慢した。

私の目線からも逃がさない。

たかが離縁の為にどれだけの人を苦しめたのか、絶対に許さない。





「ルールン侯爵夫人」

「な、なによ!?」

声が上ずりながらも返事をしてくれた。

実際この方達は、この状態でも毅然と振舞おうとしている姿は、さすがだと感心した。

それが貴族としての矜恃なのか、それとも己の立場を崩さないための足掻きか、どちらかはわからないが、背筋を伸ばし振る舞う姿は上級貴族には変わりはないとおもった。

この方達の言うように、シュルク伯爵家は下の下の貴族。

それは否定しないし、私は別段なんとも思わないが、家督を継いだ当主はそうもいかないのだろう。

だって、私とホーン様との婚約、婚姻と進むにつれ、お父様はとても嬉しそうだった。これまでに接点の無かった上級貴族との知り合いが増え、シュルク家は安泰だ、と喜んでいたもの。

それだけ上級貴族の立場は大きい。

だからこそこの人達は、揺るがない地盤の為に、あんな事をしたんだ。

それなら私も、私達の為にやるだけだ。

あと2人だ。

必死に睨んでくるルールン侯爵夫人が見えた。

「ルールン侯爵夫人の言うように、私の家は伯爵家の中でも下の下でございます。その為、ザカリ侯爵家と婚姻結びましたが、残念ながら離縁となりました。心配して下さったのですよね?シュルク伯爵家の後ろ盾が無くなるので、どうなるのでしょうか、と」

「え!?え、ええ、その通りですわ。ザカリ侯爵家は素晴らしい家柄ですのでね、離縁されたら、中々難しいですもものね」

確かに素晴らしい家柄だ。

今は、ね。

「仰る通りでございます。ですが、ご心配いりません。私の後ろ盾にはあるお方がつく事になっております。それよりも、ルールン侯爵家の方がご心配ですわ」

「な、何がですの!?」

「前日、ザカリ侯爵家で新しく執事をしていた者が相談に来ました」

「相談?」

ずいと近づくと、動けない体を必死に動かすような動作を見せた。

逃がさないわ。

あの1年がどれ程逃げたかったか知れない。

この方達はいつだってホーン様の側にいて、ホーン様と共にあった。

だから、最後まで一緒に側にいさせてあげる。

「はい。私の離縁の申請中、母が私に間違われ襲われたのです。その雇い主はホーン様と分かっています。何故なら、盗賊を紹介して欲しいとある方に手紙を送り、紹介して頂いているのです。その後盗賊を雇い襲わせた。一部始終が書いてある手紙を見てしまった執事は、私を心配し相談に来たのです。そして、その中の一通を執事は手に入れております。その手紙に、盗賊を紹介して下さった方の名が書いてありました」

「そ、それは・・・」

「察しの通りです。ルールン侯爵夫人の名が書いてありました。私はすぐに私の後ろ盾となる方にお渡ししました」

「私です」

鋭い声で、それでいて優しい光を讃え、サジタリーが声を出した。

「サ、サジタリー様!?」

「はい。この離縁も私が望んだ事です。後々は妻にと考えている女性の為なら動くのは当然でしょう」

ざわざわとまさか、と小さい声が幾つも聞こえ、ばたりと、サーセン伯爵夫人とハリカ伯爵夫人が倒れるように座り込んだ。

「私がレンを想い、離縁を勧めた事をホーン殿から聞いておられるでしょう。それならば驚く事もないでしょう?」

気づかなかったが、サジタリーのこの意地悪な言い方。2人揃うと、そっくりだわ。

今回の色々な証拠集めも何だか楽しそうだったし、意外とカイン様に似ているのかもしれない。

覚えておこう。

「ルールン侯爵夫人、ご心配いりませんよね。きっと間違いでございます。同じ名前の方か、もしくは偽名として使用されたのでしょう。今カイン様とサジタリー様が詳しく調べておりますので、そんなに震えられなくても、大丈夫ですよ」

「・・・そ・・・う・・・ですね・・・」

絞り出すように声を出すと、俯いた。

「最後は私、ですか?」

頬をヒクヒクとさせながら、ナッジャ伯爵様が精一杯いきがって声を出した。

「残念ながら、今の話が本当なら私はどれも加担しておりませんよ」

それは知っています。でも、あなたはそこ、では無い。

「ナッジャ伯爵様、ホーン様とウォン様ととても仲が宜しかったですね。お互い毎月夜会を開き、必ず招待し合っていた」

ナッジャ伯爵様はウォン様のお父様だ。

「それがどうされました?歳が近いのだから当然でしょう。それとも、ウォンが何かしたと、と言われるのですか!?」

「そうとも、言いますね。私が知らないと思っておいででしたか?ホーン様とウォン様は夜会の度に、召使いを寝室に呼び睦言を楽しまれた事を」

これはカイン様が教えてくれた。本当に感心するわ。どんな調べかたをしているか聞きたい。いや、あの恐ろしい顔で聞かれたら、すぐに、あれやこれや答えるかもしれないわね。

「それがどうしました。若気の至りで、そんな事誰もがしている事です」

誰もがしている?つい、サジタリーを見てしまった。

これは後で確認しようかな。

「ありがとうございます。その言葉を聞きたかったのです。貴方様は先程ホーン様はカテリナを心底愛していた、と仰った。それなのにその遊びご存知だった。それも身篭った召使いもいる、と調べはついております。別に遊びを責めるつもりは毛頭ございません。仰る通り若い殿方なら常なのでしょう。ですがね、何処にホーン様の純愛が存在しますか!?ナッジャ伯爵様はそれをご存知でよくもぬけぬけと、カテリナを愛し、妻にと望んでいた、と嘘を言われた。それも、その嘘を、この王妃様の誕生日パーティーで広めようとされている。貴族が多数集まる、王妃様の誕生日パーティーなら、話はすぐに広まると承知の上とは、何と卑劣な行為でしょうか!?伏せっている!?そんな事誰が信じます!!私も、カテリナも捨てたあの方に、そんな気持ちはあるはずございまん!!」

ナッジャ伯爵は、いや、4人の方々は言葉もなく項垂れるだけだった。

はあ、と深呼吸を何度もした。

「偽証の愛をぬけぬけと、正当化しようとしているとはおかしな話ですね。それも夜会も淫乱極まりない。貴族としてあるまじき所業ですね。被害者が居るのであれば尚更由々しき問題だ」

また、いい所でカイン様は入ってくるな。

「仰る通りですね。そこはカイン様にお任せ致します。さて皆様、私にお付き合い頂きありがとうございます。私の話は終わりでございます。まだまだ王妃様のパーティーは続きますので楽しみましょうか?あ、申し訳ありません」

自然に微笑みが漏れた。

「体調が優れないようですね。では、お帰りはあちらです」

すい、と腕を上げ入口に向けた。

「それと、これは私の助言でございます。ホーン様と離縁した私の事が皆様気になっておいでです。その私とホーン様と仲の良い皆様がご一緒にいたら、声を掛けられ談笑となりましょう。ですが、もしお話をされたら、きっと、今の話と、そしてカイン様とサジタリー様との話の辻褄が合わなくなりますよね?そんな愚かな事になってしまっては、大変です。帰られることをお勧め致します」

いつかと同じ台詞を、また言う事になるなんて。

いや、この方達は似ているから、同じ言葉しか浮かんで来ないのかもしれない。

4人は生気のない顔でゆるりと動きながらも、私を睨む瞳は強いものだった。

「私のような者に、お言葉は入りません。出来ましたら、もう私の顔を見ることなくお去り下さい。ごきげんよう」

ゆっくりと、1人に1人に微笑み、深深と頭を下げた。

ザカリ侯爵夫人として学んだ礼儀の中の1つ、ザカリ侯爵家の会釈だ。

もう2度する事ない、でも、好きだった挨拶だ。

「・・・では、カイン様、サジタリー様失礼致します」

「・・・私も、失礼致します」

「・・・私も・・・」

「・・・失礼致します」

頭を下げた中、4人の去る様子が見え、気配がなくなった。

「お嬢様!いやあ、見事でしたね!!最後までありがとうございます!!そして期待を裏切らないあの言葉!」

背後からサーシャの興奮気味の声が聞こえ、とても肩が楽になった。

褒められても嬉しくないけどね。

私の知らない間にサジタリーと話し合い、何故か召使いの1人として参加していた。

あえて、詳しく聞くのはやめておいた。

「辻褄が合わない。その台詞はいつ聞いても、いや、レンのその顔で言われると恐ろしいな」

「普通言わないわよ」

「辻褄が合わない、と釘を先に指す。いい言葉ですね。私も使わせて頂きましょう。明らかにこちらの有利に動く言葉ですね」

にこやかに微笑んでいるつもりなんでしょうが、何だか黒く見えますよ。

「・・・カイン様、それ以上に厳しくなってどうされますか?」

ますます腹黒になるじゃないですか。

「大丈夫です。レン殿はこちら側ですからね」

そうはっきりと言われると安心するが、何だか素直に喜べないのが不思議だ。

「終わったな。さて、ゆっくりパーティーを楽しもうか。踊ろう、レン」

サジタリーの言葉にそうね、と頷いた。





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