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ありがとう

その日の夕方、離縁承諾書にホーン様のサインが書かれた書類が届いた。

白き結婚の離縁が成立した時点で、離縁承諾書にサインはある意味必要ないが、書類上提出しなければならない。

晴れて、私は自由の身になったのだ。

離縁が決まり、本当なら明日祝いの晩餐、となるはずだったのだが、それが今日になっても問題はないのだけれどもそうもいかなかった。

食材が怪しいとわかった時点で、全て破棄ではなく、証拠を残す為に残していたが、サジタリーが屋敷に来た時点ですぐに報告したとの事だった。食材は全て違うものに変え準備万端としたが、家族だけでなく、召使い達も体調不良。

さすがに今日明日は医師から無理です、と釘を刺され延期し、暫くは様子を見ながらということで、胃に優しい食事に変え済ませた。

これまた本当なら、離縁の喜びを分かち合う家族団欒、という光景の筈だったけれど、お父様もお母様もお兄様も、後はサジタリー様とのゆっくりと話しをしなさい、と顔色悪いながらも穏やかに退散され、残るのは、サジタリーの嬉しそうな顔だった。

それも、お前の部屋で話せばいい、とお父様に言われたのだから、ますます機嫌が良かった。

これまで、学生の時期から幾度が遊びに来たことがあったが1度も私の部屋へ入れた事がない。

それは、サジタリーと私、異性と言うよりも、サジタリーの立場を考慮し、という当然の対応だった。

だからいつも自室ではなく、他の部屋で会っていた。

が。

私の想いの為華々しく動いたサジタリー。

また、お互い好意を持っていると知れば家族とすれば、反対する理由もなく、貴族としては王家と繋がり以上に強固な地盤はない。

それも、王族と婚儀となれば、白き結婚は、清き身体、も必須条件だった為、それも問題ない。

全てにおいて反対する理由もなく、それはサジタリーにしても、私にしても全く困ることは無いのだけれど・・・。

部屋に入れる、と言うだけで、緊張だった。

と言うよりも、サーシャの色んな情報が走馬燈のように巡り、サジタリーを意識してしまう自分がどうしていいのか分からなかった。

自分の部屋にサジタリーを入れたものの、

何時ものようにソファに隣りどうしに座ったものの、

サーシャからも、

今日はさすがに疲れましたし、お2人きりでもう問題ないので失礼します、あ、ご主人様から邪魔するなと言われました。では、失礼します。いや、おやすみなさいですか?まあ、ともかくサジタリー様、頑張って下さい。お嬢様は、素直?純粋?天然?まあ、ともかくはっきり押した方が楽しめますのでお楽しみください。

と、去っていくし!

ちらりとみると、見たことも無い真剣な顔で座っていたが、急に私の方を向いた。

「レン」

「何?」

「俺と結婚してくれるか?」

緊張しているのだろう、少し声が震えている。

けじめをつけたいのだろう。

これまでずっと、俺のものだ、とあれだけ言っていたくせにね。

ぎゅうううう、と胸が痛くなり、目頭が熱くなってきた。

昔から、大好きなサジタリーがここにいる。

変わらない、鋭い瞳と怖そうな顔なのに、私に向けるその優しい眼差しはいつだって安心できた。

この言葉を貰う日が来るのを昔は夢見ていた。でも、ホーン様と婚約が決まってからは、諦め、私の思い出として閉まって置こうと決めた。

「ええ・・・ええ・・・勿論よ。こんな私で良ければ・・・」

絶対に叶わないと諦めていた夢が叶い、涙が出てきた。

「良かった」

そう言うと優しく抱きしめてくれた。

自然に自分の腕もサジタリーの背中にまわった。

心地よい穏やかな気持ちが心にも体にも浸透していく。

優しく背中さをさするサジタリーの手が、辛かった日々を全て流してくれるようだった。

絶望さえも感じることの出来ない程麻痺したあの生活から解放してくれただけでなく、私の叶うはずもないと切り捨てた想いを、取り戻してくれた。

それも、大好きだった人が、自分を好きだと言ってくれた。

ありがとう、本当にありがとう。

そう声に出したいのに、涙があとからあとから出てきて、言葉に出来なかった。


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