離縁当日4 その手を取って欲しかった
「・・・馬鹿な・・・」
切れ切れの言葉と、苦しい顔でよろよろと倒れるかと思っていたが、ぐっとそこは耐えた。
「残念でしたね。都合のいい女だと思っておられたでしょう。でも、私を大切にしてくださる方が迎えが来ましたので、これでお別れです。さよなら、ホーン様。お帰りはあちらです。振り返らずお帰りください」
同じ言葉を、代は違うがザカリ家当主の方々に言うとは皮肉なものね。
「・・・カテリナ、帰るぞ!」
その言葉にハッとした。
見ると、カテリナが下を向き歩き虚ろな表情で私の前に来た。
すかさず、カテリナの服を握ってしまった。
ビクリとカテリナの体が震え、ゆっくりと顔を上げ私を見た。
「ここに、いなさい。カテリナ。ここであなたとあなたの子供の面倒を私が見てあげるわ。帰って、どうするの!?私がいないなら、あなたの居場所は無いわ!!」
自分がおかしなことを言い、おかしな気持ちになっているのは前々から充分承知だ。
恨んでいた。
羨んでいた。
鬱陶しかった。
邪魔だった。
でも、ホーン様にとっては、私達は、同じ存在だった。
そう・・・都合のいい女だった。
まるで走馬灯のように、カテリナと過ごした1年が脳裏に走った。
カテリナが妻であり。
私は侯爵夫人。
2人で1人だった。
どちらが表で裏とかではなく、どちらも裏だった。
カテリナの言う、私が愛以外を全部持っている、と言うのはカテリナの素直な不安だったのだ。捨てられる不安を、愛、と言う不確かなそれでいて不変な想いを、あえて私に突き付けることで、己を安心させていた。
形ある物を全て私が持っていた。
それなら口に出せば、愛は形あるものに変わる。
それだけ、カテリナはホーン様を愛しているのだ。
それだけ、カテリナの心は脆かった。
「ねえ、カテリナ。お互い嫌いなのは知っている。でも・・・でも・・、お願いだから・・・ホーン様の側にいないで・・・!」
どうしてこんなに胸が辛くなるのだろう。
どうして、こんなに気になるのだろう。
でも、知ってしまった。
感じてしまった。
私も、あなたもホーン様にとっては都合のいい女でしかない。
だって、あなたの前で他の女を抱くなんて、愛するなら絶対に有り得ない!!
私とあなたは2人でホーン様を支えていた。1人では、支えられない。
「お願いだから・・・、私と一緒に、離れて欲しいのよ」
「カテリナ、行くぞ。私を1人にしないでくれ」
卑怯だわ。そんな縋るような目で手を差し出すなんて・・・。私でさえも・・・その手をとりたくなる、寂しい顔を見せるなんて。
「駄目、よ、カテリナ!お願い・・・お願いだから・・・!!」
涙に濡れていく私に、カテリナは、ゆっくりと首を振り、お腹を摩った。
そうして、見た事もない優しい慈愛に満ちた・・・それは・・・母としての顔だった。
「・・・ありがとう・・・ね」
それだけ言うとカテリナは、私の手を優しく触りながら服から離し、ホーン様と共に部屋を出ていった。
カテリナのその微笑みは後にも先にも2度と見ることも無く・・・カテリナの姿を見るのもこれが最後になるとは思ってもいなかった。
私は、後々後悔した。
何故もっとカテリナを引き止めなかったのか、と。
私は、今の私を酷く後悔した。




