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離縁当日3

「な、何をする気だ!!」

ホーン様の上ずる声とともに、ガチャガチャと扉が開かれた。

「待たせたな」

サジタリーは怒りのこもった声で、片手に書類を持ち、部屋に入ってきた。

「いいえ、充分よ」

ありがとう、早く来てくれて。

「サジタリー、今回は口を挟まないで」

近づきながら、微笑むと、私の様子を見て安堵し微笑んだ。

「わかった」

余計な事を言われたら困るもの。

側に寄ると、私をとても愛おしいに見つめると、腰に腕を回した。

さすがだわ。よく空気を読んでいるわ。

応えるように私もサジタリーの腰に手を回し、ホーン様に顔を向けた。

「ホーン様、先程あなたは社交界で揶揄され、蔑まれるのは私だ、と仰った。本当にそうでしょうか?」

「そうだろうが!!私は妻を寝取られたのだ!!」

ホーン様は顔色がどんどん悪くなり、挙動不審のように落ち着きが無くなってきた。

気配でわかるのだろうか?自分の立場が思うように動いていないのが。

「そうですね。離縁を突きつけられ、屋敷に籠っている筈の妻が、男を引き入れ寝盗られた」

「そうだ!!それも、相手はサジタリー様だ。お前が誑かした悪女となるのは誰が見ても明らかだ!そうだ。その通りだ!そうでしょう、サジタリー様。冷静さを取り戻して頂ければ御理解頂ける筈です」

「俺が?冷静ではなかったと?」

「はい。確かに、レンを想っていた気持ちがおありかも知れませんが、それは 人妻、と言う踏み入れてならない禁忌を甘美に感じ、流されるのは人として仕方の無いことです。レンが私の事を酷く言ったのでしょう。それが嘘とも知らずに。サジタリー様はお優しい方ですから、レンの言葉を全て鵜呑みし、御自分が護ってやらねば、という義務感を愛と勘違いしてしまった。そして、レンの誘いに乗ってしまった。ですが、今まさに後悔と言う念に捕われ、いつそれを口に出そうか思案している事を私は気付きました!私こそが、サジタリー様の良き理解者になれる者なのです!!」

呆れたと言うよりも、ここでそこまで自分のいいように脳内変換させ、饒舌に語れるホーン様に感心した。

先ほどまでの青白い顔から一転、頬を赤く染め高揚しているのがわかった。

嫌な空気を変え、自分の流れに変えれたと思っているのだろう。

すっと、サジタリーが私の手に書類を渡し、微笑み静かに頷いた。

ありがとう。私が口を挟まないで、と言うのを守ってくれているのね。

本当なら、聞きたいこと、言いたい事が沢山ある筈だ。だって、今のこの内容で疑問が無いわけがない。それを私の為に我慢してくれている。

そして、こんな茶番に付き合ってくれてありがとう。

本当にこの方は救いようのない、愚かな男だわ。

「ホーン様。説明不足でしたね。この離縁の書類は全てがサジタリーが準備してくれたのです。私ではありません。だから、ホーン様の誕生日に私を迎えに来たのです」

「・・・馬鹿な・・・!?」

いいえ。馬鹿なのはあなたです。ご自分の物差しだけで考え、私だけを悪者にしようとする。違う目線、つまり、他人の気持ちになり考えなければ、当主としての資質が問われるのです。

「先程、仰いましたね。サジタリーが悪魔の誘いに乗ったと。でも残念ながら、乗ったのは私です。さあ」

そこで会えて言葉を切り、見上げるようにホーン様を見つめ、封筒を見せつけた。

「もう一度お聞きしましょう。どちらが、社交界で不憫だと思われるのかを。妻を寝盗られた、ホーン様か。けれど、正妻よりも愛人を愛し、側にいることを誰もが知っている。それとも、サジタリーがひた隠しにしていた想いが、白き結婚だと知った時、滾る想いを蘇らせた。それならば、自分の気持ちに逆らうことなく表に出し、白き結婚の離縁を勧め、己が貰うと言う純愛を貫いた姿」

ぶるぶると震える姿はなんと滑稽か。

「ねえ、ホーン様。どちらが社交界で噂になり、不憫だと思われるでしょうね。あなた?それとも私?」

この方は、分かっているようで分かっていない。

この離縁は、普通の離縁ではない。

「お分かりですか!?白き結婚の離縁の提出は揺るがない!!ここに離縁が成立した事をしるした書類が存在する!!白き結婚はなかったと、撤回はもう出来ないのです!!」

「馬鹿な!書類は午後からだと聞いている!そんなでまかせ言うな!!」

吐き捨てる言葉がもはや、私に、ではなく必死に己に言い聞かせていた。

清き身体。

それが白き結婚の明かしであり、離縁の証明。

だが、ここに、既に離縁が成立した書類が存在する。

ある意味、この書類が存在した後に、清い身体でなくなったとしても、既に遅いのだ。

この書類が存在した時点で、既に離縁は成立している。

最悪ホーン様にこの身体を穢されたとしても、書類が朝早くに出来上がっていれば離縁は成立だ。

ある意味お互い賭け、だった。

本来なら午後から届く書類を、

ホーン様に奪われる前にはやく手に入れれば、私の勝ち。

書類が届く午後の前に、私の身体を奪ってしまえば、ホーン様の勝ち。

だから、あの時私の話しを鵜呑みにせず襲われていたとしても、

私の勝ちだ。

「サジタリーが持ってきたものを疑うのですか!?さあ、撤回してください!!あなたと私に離縁は有り得ない、では無い!!あなたと私には離縁しかなかったのです!!それを作ったのはあなたです!!そうして、認められたのです!!妻を蔑ろしにした結果と、あなたがこれまで行った卑劣な手は全て証拠は持っています!!さあ、素直に帰るか、それともみすぼらしく牢に入りますか!?」

どちらの答えもホーン様にとっては受け入れ難い。

どちらも、ザカリ家の失墜を意味する。

白い結婚の離縁の成立は、恥、でしかないのだ。

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