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離縁当日2

「お前のせいだ!!こんな辱めを!!」

「辱め?よく言いますわ。その手紙は私のお父様が昔ホーン様に宛てた手紙ではございませんか!!その封筒だけを上手く使って、作り話をでっち上げて、無理やり門を通ってこられたのでしょう!!ザカリ家の品位も落ちたものですわね!!」

「誰のせいでこの様な姑息な手を使っていると思っている!?お前が離縁などくだらない事を申請するからだ!私の妻と言う立場に何が不服がある!?」

「妻?」

その言葉は、私の何かの琴線に触れたような気がした。

びりびりと体中に稲妻が走り、湧き上がる怒りに、息が苦しくなる。

「私がいつ、あなたの妻でしたか?私の立場は、いつだって侯爵夫人。それ以外何もありません」

「同じだろうが」

ふっ、と笑いが出た。

あまりにも思っていた答えを言ってくれた。

「なにが可笑しい!?」

「何が、ですって?だって、ホーン様があまりにも可笑しな答えを言われるから笑いが出たのです。妻と侯爵夫人は同じではありません」

同じなどにさせない。

「妻とは夫を支え、跡取りを産み、一心に嫁いだ屋敷の行く末を案じ、如何なる場合でも慈愛の心を持つのが、妻と呼べるのです!」

ひとつもなかった!!

いいえ、ひとつもさせて貰えなかった!!

「侯爵夫人とは、当主となる夫を如何なる時も後ろから支え、品位と厳格なる立場で振る舞い、おもてなしをする。それが侯爵夫人!!私は、妻ではなく、侯爵夫人だっただけです!!」

「はっ!何だその、意味の分からない思考は。そんな区別意味などない!!だから離縁などという、愚かな思考しか行き着かないのだ!!」

「愚かで結構です!!その愚かな気持さえも気付かないとは、可哀想な方ですね」

がっ!!と両肩を掴まれ、ソファに押し倒された。

「その目が気に入らない。ザカリ家に来てからも人を馬鹿にするような、蔑むような、可愛げのない態度で何様のつもりだ!」

吐き捨てる言葉とともに息がかかるのが、ゾワゾワと寒気と嫌悪しかない。

「何様?とは?先程私が、侯爵夫人でしかないと申したのが聞こえませんでしたか?そうでしたね、ホーン様。あなた様はご自分の都合のいい女性だけが欲しいのでしたね。申し訳ありませんね、希望に添えない女で。カテリナという、愛する女性がいますが、それでも妻としての責務を果たすように、淫らに誘えばよかったのでしょうね!」

逆撫でするのは分かっていた。

だが、もうこの溢れる思いは制御出来なかった。

たった一年の結婚生活がどれほど私に重かったか。

どれだけ、暗黒の日々だったか。

そこに何の意味も、見いだせず、ただ自分が感じた寂しく辛い気持ちを少しでも返したかった。

ホーン様にとっては、全てが自分に都合よく動けばいい、駒の様なものだろうが、私は駒ではない。感情を持つ、人間なのだ。

生き物は、人形ではない。

そうだ、わたしは私の為に生きるのよ!

「煩い!!お前はただ私の妻であればいいのだ!!」

叫ぶホーン様の瞳に嫌な光が見えた。

「そう、我々は夫婦なのだ」

太ももに手が当たる。

ざわりと一気に悪寒が走る。

「馬鹿なことを。カテリナがそこにいるのですよ!?正気ですか!?」

こうなる状況は分かってはいたが、そこにカテリナがいるのだ。

奥の方にいる為行為を見ることはないだろうが、行為はわかるはずだ。

「愛してる人のいる前で、他の女性を抱こうとするのですか!?」

有り得ない!!

「カテリナも承知の上だ」

なんて・・・なんて・・・身勝手な!!

なんなの!?その勝ち誇った顔は!!

あまりの自分勝手な思想に腹が立つと言うのを通り越し、まるで演劇のように見えた。

舞台にたったホーン様を鑑賞する、そんな気分になっていた。

この人は、ここまで追い詰められているという事なのだろう。

由緒正しきザカリ家。

ザカリ家に嫡男としてこの世に生を受けた時から、この方の肩に重くのしかかり、重圧に耐えながら、ザカリ家を繁栄させた後、世にその血を残さなければいけない。だから、ホーン様は、格下と分かりながらもシュルク家を選んだ。

ザカリ家としては屈辱でしかないだろうが、それだけ財が峻厳していたのだから、仕方がない。

そう、選んだのだ。

それなら最後まで演じて欲しかった。

威厳と厳格なるザカリ家としては納得出来なかったとしても、当主としての矜恃をたもってほしかった。

その窮屈な生活の中、カテリナと言う、素直で穏やかな女性に心を落ちつかせたのは仕方ない事だ思う。

人は脆く、弱く、逃げる場所を欲する。

特に異性の場合は、心だけでなく、体さえも、安らぎと快楽を与えてくれる。

それが愛になるなら・・・良かった・・・。

それでも・・・割り切り、当主としての立場を弁えて欲しかった。

己の・・・感情だけに走らず・・・。

ああ、もう、この方には微塵も情けは必要ない。

ぶるりと寒気ではなく武者震いが襲う。

「ふっ。怖くはない。本当の妻になるだけだ」

おかしなことを言う人だ。

怖い?

誰が?

申し訳ありませんが、私は、全く、負ける気がありません!

離縁の為に奔走したサジタリーの為にも。

離縁の為にサインしてくれたザカリ侯爵家の召使い為にも。

離縁の為に動いてくれたシュルク家の皆の為ににも。

私は、その想いを無駄にはしない。してはいけないのだ。

口付けをしようと近付くホーン様に、声を出した。

「ホーン様。妻、とは何を基準に言われて言われていますか?書類?それとも、体の関係?それとも、心ですか?」

怪訝に顔を潜め、私を見た。

さあ、どれですか?

「頭がおかしくなったか?わたしは白き結婚の離縁をなくしたいのだ!」

途中で邪魔され、機嫌悪い中、また、笑って差し上げた。

「ああ、そうでしたね。ホーン様、よくお考え下さい」

上から見下げるホーン様の目をしっかりと見据える。

「私がザカリ家を離れ、実家に帰り、側にいつもサジタリーがいた。男と女。想いがある中、何も無いとお思いですか?」

「・・・!!」

「そうですよ。既に私とサジタリーは体の関係を持っています。その中でホーン様が私を抱いても何の意味がありますか?」

私の言葉に衝撃を受け、驚いた顔になったが、すぐに、馬鹿にする笑いを見せた。

「やはりか!!そうだろうと思った。つまり、お前は王子であるサジタリー様と今正に不義を認めたのだ!!愚かな女だ!!分かっているのか?不義とは、男は許されても、女は許されず笑いものにされるだけだ。それとも、私にはカテリナがいるのだから、同じようにとでもと思ったのか!?」

浅はかな考えだと、揶揄をこめ高笑いしながら私から離れた。

はあ、と深呼吸し、落ち着くのよ、と自分に言い聞かせる。

どくどくと心臓が激しく動く中、よく考えるのよ、と言い聞かせる。

かたり、と微かな足音が耳に届く。

ホーン様を見ると何も気づいていていない様子に、心の中で何度も深呼吸する。

「これで白き結婚の離縁は無くなった!どの道お前に離縁など有り得ないんだ。心配するな。お情けで、ザカリ家に置いてやる。だがお前が、社交界で揶揄され、蔑まれても、それは、自業自得だからな。恨むなら自分の軽率な行為を恨むんだな。さあ、帰るぞ」

立ち上がり私のために腕を掴もうとしたが、それを払い除けた。

「ふふっ」

「な、何が可笑しい!?さあ、立て」

「嫌です。もうあなたの命令は聞きません。私は私の意思で立ちます」

すっと立ち上がり、後ろへ下がった。

「サジタリー!もういいわよ!!」

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