離縁まであと5日 夕食後
夕食がすみ、私とサジタリー、サーシャは部屋を移動し、サーシャがお茶をいれてくれた。
「大丈夫か?怖いだろうが、もう少しの我慢だ」
サジタリーが私にお茶を渡してくれた。
「・・・カテリナが心配なの・・・」
「どうしてあんなバカな女を心配するんですか!?」
今日はサーシャは奥に、と言われなかったので側で控えていた。
「そうね。カテリナは素直すぎるのよ。思った事を何も考えずに口に出してしまう。・・・悪い人ではないのよ・・・。只、ホーン様を、愛してしまっただけ
自分で口にしながら、とても悲しい気持ちになった。カテリナを心配している余裕など自分にないのに、私が離縁したあとはどうなるのだろうと、ふいに思う事がある。
カテリナは私という正妻あってこその愛人としてしか存在出来ない。離縁すれば、必然的にカテリナはザカリ家を追い出され、未婚の母となり、産まれてくる子供は認知されることは無い。その上、自分の家には帰れない。
もし残れたとしても、男にとって離縁は珍しくないが、白き結婚での離縁だとなれば話は別だ。
あれだけ正妻よりも愛人を優遇し、その仲を公然とひけらかして来たのだ。
その状態を誰もが知っているのに、ホーン様の元へ誰が己の娘を嫁がせたいと思うだろうか。
カテリナの存在は、厄介で、腹立たしいもの以外の何でもなく、また、妊娠してあるとなれば余計に邪魔な存在だ。
「レン」
サジタリーの優しい声が聞こえた。
「レン、人の事より自分の事を考えろよ。精神的に疲れすぎた時、君は自分のことよりも他人を優先する。レンの悪い癖だ。余計に疲れるだろ」
この人は、本当に私を見てくれている・・・。私の弱い部分を、よく知っている。
つい、と頬に涙が零れた。
「・・・分かっているのよ・・・。離縁を選んだ時点で、ホーン様とカテリナがいる時点で、誰もが幸せになる答えなどないって。・・・でもね、ホーン様が・・・ホーン様がカテリナを妻として選んでくれたら、私もカテリナも、幸せになるわ。・・・私達が、都合のいい女だと、思いたくないの!!だって、私も・・・カテリナも・・・そんなのは寂しいわ・・・」
あとからあとから流れてくる涙と、
苦しくて、
辛くて、
息苦しくて、
切なくて、
何処にこの思いをぶつければいいのか分からなくて、何度も首を振りながら、
ただ、ただ、泣くしかなかった。
「お嬢様、無理なんです。そんなの偽善者なんです!」
サーシャが辛そうに声を張り上げた。
涙でぐちゃぐちゃの顔で、顔をあげた。
「だって、皆、自分勝手なんです!それが人間の本質なんです。誰かを、と言いながら、結局自分の都合のいいように最後は求めてしまうものなんです!じゃあお嬢様、離縁しないんですか!?」
「・・・!!」
「違いますよね!だったら、カテリナ様を、ホーン様を、切り捨てるしかないんです!!そんな、理想論が通るなら、白き離婚になりません!!もっと、もっと現実を見てください!!私達はいつだって現実を見ながらお嬢様を見ているのです!!だって、私は何度も、ううん、ここの召使い達は皆、どうやったらお嬢様を外に出せるか、と知らない男達に街に出る度に声を掛けられているんです!!」
「っ!!」
爆弾発言だ。
そんなの聞いていない!
「サーシャ!?何!?そんなの聞いてないわよ!!」
「ご主人様には報告していますが、お嬢様には・・・その・・・伝えるなと言われてまして・・・。でも言います!!普通に屋敷の外に買い物とかで出かけている時によくあります。お嬢様を屋敷から出してくれるのなら幾らでも金は払う、とか。屋敷に手引きしてくれたら幾らでも払う、とか・・・色々ありました。でも、誰もそんな事しません!!だって!!」
サーシャがとても真剣な顔で私を見た。
幾らでもお金を払ってくれるなら、私を差し出し、そのお金を持って消えればい。私が居なくなれば騒ぎが起き、その間に逃亡すれば遠くへといける。
勿論それは、裏切り行為になるが、サイモンが言うように金という形あるものは、ほぼ願いを叶えてくれる。正直この屋敷で働く全ての召使いが、お金が必要ないとは思えない。
いいえ、そうね。
屋敷で働く誰もが、私達家族を信頼してくれているからよね。
疑っては行けない。
サイモンが言うように、
金で全てが手に入る、
ではなく、
金で手に入らないものもある、
と言っていた。
「だって!!サジタリー様が俺を敵に回してこの国で生きていけると思うなよ!!と、言われたら誰だって逆らえませんよ!!王子ですよ!!」
ハッキリ、キッパリと言った。
「・・・あ・・・そう・・・」
そっち、なのね。
「当たり前だ。俺の妻にしようと離縁を進めているのに、裏切り行為を許せるものか。他の国に逃亡したとしても探し出してやる」
何処まで抜かりないのか。感心するわ。
得意げなサジタリーの顔と、恐ろしいです、と震えるサーシャを見て、なんだか力が抜けた。
少し、残念な気分もある。
サーシャに、お嬢様を裏切りたくありません、とか言って欲しかったな。
まあ、いいわ。
「それなら安心ね。じゃあ私は外に出ず、屋敷にいたらいいのね」
「そうだ」
「そうです!!だって少しでもお嬢様を外に出したら、敵に回したな、と見なされるんですよ!!絶対に出ちゃダメです!!」
ぶるるるる、とまた震えだしたからおかしくて笑ってしまった。
けれど、不安な気持ちが押し寄せ、心から笑えなかった。




