離縁まであと 7日
「お母様、私も行きます!」
「駄目よレン!!おねがいだから言うことを聞いて頂戴。あなたは屋敷で待っているの」
「でも、お母様とご一緒だもの、大丈夫よ!!」
「駄目です!!」
玄関ホールで、もう幾度この押し問答したかわからない。
「・・・レン・・・お願いだから、ね。こんな所で時間をかけられないの・・・」
お母様が、困惑しながらも心配そうに、私の肩を優しく触った。
「・・・分かりました。では、屋敷で待っています」
「いい子ね。すぐ帰ってるから心配しないの」
ふんわりと私を抱きしめると、微笑みお母様は出られた。
ぎゅっと、と拳を作り、不安でたまらなかった。
少し前にお父様が、事務所で倒れたと、連絡が入った。すぐにお母様と一緒に出よう、と出掛ける用意をしたのに、お母様とサーシャにとめられた。
もしかしたら、罠かもしれない、と。
そんな事ないわ、と首を振ったけれど、ホーン様がカテリナと一緒に1度だけ屋敷に来たが、追い返した。
私は顔を合わせていないが、封筒を開封した様子ではなかった、と言われた。
その後、音沙汰がないのを、皆が不安がっていた。
期日まであと7日。
離縁を承諾してくれるのなら、離縁申請書に一緒に入っている承諾書にサインし提出してくれたら、ひと月待たずに終了する。
それを出されていないとなると、最後まで足掻き、サジタリーの言うように白い離縁を無くそうとする為に、なにか仕掛けてくるだろう。
皆が心配するように屋敷の外に出るのは危険だ。
もしかしたら、お父様の怪我も嘘かもしれない。でも、そこまでするだろうか?人の弱い部分に付け込み、自分の私利私欲の為だけに、そんな汚い手を。
「お嬢様、部屋で待ちましょう」
サーシャが、優しく声をかけてきた。
「奥様の言うように、すぐ帰ってきますよ。旦那様と一緒にね」
「・・・そうね・・・。ごめんなさいね。もう少しなのだから、私も・・・しっかりしないとね。お茶でも飲んで待ってるわ」
閉められた玄関の扉の前で、幾度も深呼吸し、追いかけたい衝動に蓋をし、ゆっくりと扉から背中を向けた。
でも、私の考えは甘かった。
それから少しして、屋敷が急に慌ただしくなり、サーシャが見てまいります、と部屋を出るとすぐに帰ってきた。
「奥様が盗賊に襲われたとの事です!!」
「お母様は!?大丈夫なの!?」
「お怪我は無いようですが、精神的に不安定な様でお部屋に・・・。医師が来るまではお静かにと・・・言われました」
「・・・わかったわ」
知らず涙がこぼれてきた。
「お、お嬢様!?」
「ホーン様ね。あの人はこんなにまで自分勝手な人だったのね!!」
酷いわ、酷いわ!!
私だけなら許せたわ。でも、どうしてお父様やお母様を巻き込むの!?
許せないと憤りながらも、これが白き離婚の現実なのだと言う事を、痛感した。
是が非でも屋敷の者は女性を守り、是か非でも夫は白き結婚を反故にしようと、躍起に動く。
常軌に考え、外に出る事がないのであれば、常軌を逸した行動を取るしかない。そう考えて浮かぶのは、大事な人が外で巻き込まれたら、心配ですぐに屋敷の外に出る。
勿論、今回のように周りが止めるだろうが、場合によっては、絶対ではない。そうして、捕まればおしまい。
「本当に・・・浅はかで・・・簡単な事ね・・・」
ボソリと自嘲気に呟いた自分の言葉に、笑いが出た。
「お嬢様、まだ・・・ホーン様と決まっておりませんよ」
「いいえ、ホーン様よ。・・・サーシャ、お茶を入れて」
「はい、お嬢様」
ソファに座るとすぐにお茶入れてくれ、カップを取り、1口飲んだ。
喉元を暖かいお茶が流れ、気持ちが落ち着いていく。
はあ、と深呼吸する。
「こんな白昼堂々と盗賊など出ないわ。ましてや、お母様が乗っている馬車にはシュルク家の家紋が入っている。本当に狙うなら闇夜に紛れて襲わなければ、捕まる可能性が高いのに、わざわざ昼間に、それもお母様が屋敷を出て間もなく襲われている。つまり、狙っていた」
ふいと顔を上げると、青い顔のサーシャと目が合った。
「私が馬車に乗っている、と踏んでいたのでしょうけど、いなかった。だからすぐにお母様は解放されたのよ」
「!!」
驚き目を見開くサーシャは、言葉を失い青ざめた。
持っていたポットが揺れ、雫がこぼれ落ちた。
「そうでなければ、おかしいわ。貴族を襲うのは金目当てしかない。それなのにお母様を捕まえること無く解放し、自分達の方が逃げ去った。私では無い、とわかったからよ。引き際が肝心だもの。・・・つまり、ホーン様は離縁の書類を開封したという事よ。あと7日。これから先焦って何をするか分からないわ。・・・サーシャ、ありがとう。あなたが先程止めてくれたから、お母様と一緒に出掛けなかった」
「そ、そんな事ありません。ご主人様にもサジタリー様にも強く言われておりますし、私も心配ですもの」
「ありがとう。今まで運良くここまで来たけれど、逆に期間が短すぎて、何をしでかすか恐ろしいわ。大丈夫よ、もう出ないから」
私の答えにサーシャは青い顔ながらも、微笑み返してくれた。




