離縁まであと半月 夕食時
けれど、夕食をふたりでとることをサジタリーは断ってきた。
少し、残念だったが、夕食は皆で食べた。
「レン、ザカリ侯爵家の執事が来たらしいな」
「はい、お父様」
楽しい夕食時に、やはりお父様が聞いてこられた。
サイモンではなく、サイモンの後ろにいるホーン様を嫌でも思い出し、気分を暗くする。
「何と言ってきたの?」
お母様の不安そうな顔に、首を振り微笑みながら、サジタリーを見た。
「サジタリーが私の為に動いてくれているの。サイモンは離縁の為のサインを書いてくれたし、味方になってくれている。全部サジタリーが動いてくれているの」
「ありがとうございます」お兄様。
「俺に出来る事をしているだけです。ホーン殿は書状を開封もしていないと聞いています。もしかしたら、本当に離縁する気なのかもしれません。だからあえて開封していないのかもしれません」
サジタリーの言葉に私もそうだが、皆がまさか、と顔を見合わせた。
「カテリナの為に、離縁するつもりかもしれない」
サジタリーが噛み締めながら言葉にする。
意外な発想だが、確かに有り得ない事でない。
「彼女を本当に愛しているから、と言うのであれば納得は出来る。そうでなければ、離縁と知っていて動きがないのは不自然だと思いませんか?レン、どう思う?」
「・・・それは言えるわね。だって、とても仲がいいもの。でも、シュルク家からかなり資金援助をしているのでしょ?これで離縁したら、援助の分も、結納金も、そして慰謝料も出てくるのよ。返せるの?」
「どうだろう。資金援助のおかげで、軌道にのっていると、1度経営状態を見せてもらった。それが続くのであれば、全額すぐには無理だろうが、かなりの速さで返せると思う」
お父様が考えながら言うが、サイモンの話しの方が本当であれば無理だろう。
今だけ良ければいい訳では無い。
「では、本当に離縁に承諾しようとしているのかもしれないな。シュルク伯爵家の援助が要らないのであれば、ましてや、金を返し、その女と婚儀を挙げる」お兄様。
「それなら1番いいけど・・・。でも愛し合っているなら、始めから2人で添い遂げると思うの」
確かに、2人は愛し合っている。カテリナはあまり頭は良くなく、また計算高い女ではない。ただ、ホーン様を想いあの家に来たんだと思う。
「カテリナを愛していはいるでしょうけど、当主としての立場もあるでしょうから、そんな簡単に私と離縁するとは思えないわ。ふたりの立場はあまりにも違いすぎるもの」
「そうだろうな。そんな強い気持ちを持ってるなら、始めから他の女と婚儀を挙げないだろう。ともかくあと半月ある。気を緩めない方がいいな」
サジタリーの言葉に皆が頷いた。
食事が終わり、2人で少し話したらいい、とお父様が言うから、さすがにサジタリーも断れず応接間に行くことになった。
勿論サーシャも一緒だ。
サーシャは、夕食を2人で出来なかったからつまらなさそうだったが、応接間に移動すると、
「私は同じ部屋ですが、奥で控えてます」
とりあえず隣同士でソファに座ったものの、サジタリーはとても神妙な顔つきで黙っていた。
「疲れた?」
「いや、そうじゃない・・・。この間の紳士らしかぬ振る舞いを反省してるんだ」
何度も息を吹きかけられた事を思い出し恥ずかしくなる。
身体が泡立つような感覚が走る。
「まだ、離縁も出来ていないのに軽率だった。こうやってふたりで話が出来るだけでも嬉しい事なのに・・・あまりに気持ちが抑えられなかった」
私を見つめると、真っ直ぐな瞳で言ってきた。
その言葉を聞いて、サジタリーは変わってない、と胸がぎゅっとなった。
「気にしていないわ」
「すまない。少し、浮かれすぎていたのかもしれないな」
「そう。ね。すこし驚いたわ」
私の言葉に一瞬私を見たが自嘲気に下を向いた。
元々真面目な人だから色んな事を考えたのだろうな。
私も、あんな事をする人だと思いもしなかったから驚いたのは事実だ。
「気にしていない、と言ったでしょう。サジタリーがいたから私はここに帰ってくることが出来た。そして・・・あなたに言われた事がとても嬉しかった」
そっと、サジタリーの手に重ねた。
「・・・ありがとう、レン」
微笑むサジタリーに首を振った。
「ふふっ。やっと顔が戻ったわね。でも、サーシャも悪いのよね。あの子が焚きつけるようなことを言うからよ」
「それは、そうかもな」
ふたりで顔を見合せ笑ってしまった。
「でも、そろそろ開封するでしょう」
「そうだろうな。あとはどう動いてくるか、だな」
「そうね。こういう離縁の時どう皆さんは動くのかしら」
「簡単だ。純潔を無くすことだ」
「!!」
当たり前だが、失念していた。
「これまで白い結婚の離縁が提出されているのが、何件かあったが、直ぐに撤回されている」
「それは・・・」
「そういう事だ。あと半月だ。絶対に屋敷から出るな。そして、あの男を屋敷に入れるな」
「分かった」
「俺についている護衛を本当ならレンの側にも置きたいが、その者が本当に味方とは限らん」
「そうね。貴族の繋がりは、どこでどうなっているのか複雑だもの。大丈夫よ。言われるように屋敷から出ないし、ホーン様を屋敷に入れないわ」
「頼む。俺はできる限り顔を見せるようにする」
「ありがとう」
「では、帰ろうかな」
そう言うと名残惜しそうながらも、微笑み手を強く握ってくれた。
「ここでいい、見送られると帰るのが嫌になりそうだ」
軽く笑いながら、立ち上がり出ていった。
「サーシャ、もういいわよ」
呼んでも来ないので、見に行くと、洗面所で座り込んで必死に本を読んでいた。
表紙を見てみると、
男心を知るには、
と言う本だった。
あえてそれ以上声をかけるのはやめ、急いでソファに戻った。




