14話 離縁まであと半月 サイモンの訪問
「それで?結局何しに来たの?」
前に座るサイモンが美味しそうにお茶をのみ、不敵に笑った。
「さあ?何しに来たのでしょうね。私は様子を見てきます、とご主人様に言いましが、どのような様子を見てくるべきかも、何をするべきかも、何一つ詳細を指示されておりませんので、つまり、談笑をしに来ただけですね、奥様。とりあえずは、今はまだ奥様とそうお呼び致します」
飄々と、いつもの冷静な表情で言う。
離縁を突きつけ、半月経って、ようやく侯爵家から遣いが来たとサーシャに言われ、会ってみるとサイモンだった。
それも、私を説得しようという雰囲気はない穏やかに首を傾げた。
だから、先程の質問になった。
「ご主人様は、離縁の書類を開封さえしておりません。まあ、実際礼状に追われ多忙だったから、と言うのもありますが、あそこまで無頓着ですと、可笑しくなります」
開けてもないのね。本当に私の事を何とも思ってなかったのだ。
恐くあの人は離縁の内容を、私が精神的苦痛を、受けたもの、という解釈をしているのだろう。
白き結婚の離縁だと、思いもしないでしょうね。
「サイモン、サジタリーに何か言われた?」
ついそう思ってしまう。
私もお茶を飲む。
「別段。なるべく申し開きを長引かせるように言われているだけです。後は逐一ご報告するのをお願いされているだけです」
サラッと言うけど、充分驚く内容だ。
「サジタリー様は用意周到な方ですね。ご主人様の性格をよく調べ、把握されています。その為、離縁の書類をどのように出し、どのように声をかけるかも指示されました。指示通りの結果、ご主人様が書類を重要視する事はありませんでした」
感心するサイモンに、小さく頷いた。
サジタリーは人間観察が得意だった。
ほんの些細な感情、行動で、その人の嘘を見破り、追い詰めた。
見ていてあまりいい気分になる場面ではないが、王族として色々な駆け引きの中育てばそうなるのだろう。
「報酬も破格ですが、それだけではなく、その後を言われた」
「その後?」
「はい。ご主人様が離縁内容を知れば、我々が裏切った事を知るでしょう。そうなれば、紹介状もなしに解雇されるでしょう」
本当に、どこまでも隙がない。
「あなたは父君の跡を継ぐために、今の立場に居ると思っていた。後悔しないの?」
「別段、何とも思いませんよ。父は父、私は私。由緒ある、と言いますが既に財政はすっからかん。奥様の家に助けてもらいどうにか首の皮一枚繋がりましたが、現実いつまで持つか分かりません。先代ならまだしも、今のご当主には事業の才があるとは思えません」
執事であるサイモンが言うのであれば、本当に苦しいのだろう。資産の管理等はホーン様がされていたから、私は詳細は知らなかった。
「だから、高額な報酬を頂けるのであれば、さっさと見切りをつけるべきだと思いませんか?私としては願ったり叶ったりです。私はサジタリー様より一筆書いて頂き執事の育成所で質のいい教育をもう一度学ぶ約束になっています。入学にサジタリー様の一筆があれば、卒業後はザカリー侯爵家よりも、後々安泰の貴族の屋敷で雇ってもらえる。金は、何でも叶えてくれる、人間の気持ちさえも買えます。ですがね、奥様」
「何?」
「愛は買えません」
「サイモン?」
「私は愛などという形の無いものは信じません。それなら金がいい。だがサジタリー様は奥様の為に莫大な金と、ご自分の持てる全ての権力を行使し動いておられる」
「ええ、わかって、いるわ」
「サジタリー様は奥様に金を渡しましたか?」
「いいえ」
その答えにサイモンは、微笑んだ。
「愚問ですが、愛は、愛でしか買えませんからね。ようございました、縁深い方と出会えて。では、私は、これで失礼致します。ご主人様には、門前払いされたと報告しておきます」
「ありがとう」
「いえいえ、私の方こそ良い将来を頂き嬉しく思っています」
いつもの落ち着いたほほ笑みを浮かべ、部屋を出ていった。




