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完璧な少女

了解しました。

以下は**第5話「完璧な少女」**です。

第4話+母の幕間を受けて、


セリアの「完成度」と「選択不能」


カイの違和感が“言語化され始める瞬間”


親世代が排除された理由と、学園の価値観の一致


を、静かな対話中心で描いています。


第5話

完璧な少女


ヘリックス・アカデミーでは、

失敗は「存在しない」。


正確には、

失敗に至る選択肢が、最初から与えられていない。


カイ・ノルドは、

そのことを理解し始めていた。


午後の特別講義は、倫理設計論だった。


テーマは《選択の最適化》。


「人は、迷うから誤る」


ヴァルス博士は、淡々と語る。


「我々はその迷いを、

 遺伝子と環境設計によって取り除いた」


ホログラムに映し出されるのは、

意思決定フローチャート。


分岐は少なく、

どれも“正解”に収束する。


「諸君。

 選択とは、減らすほど幸福になる」


教室には、

納得の空気が満ちていた。


カイだけが、

胸の奥で小さく引っかかっていた。


――暗いほうが、よく見えることもあるのよ


母の声が、よぎる。


講義後。


カイは、セリアと並んで歩いていた。


廊下のガラス越しに、

管理された庭園が見える。


「さっきの話、どう思った?」


不意に、セリアが聞いた。


「……合理的だとは思う」

「でも?」

「選ばなかった理由が、

 全部“誤り”として消されてる」


セリアは、少し考えるように視線を落とした。


「誤りを減らすのは、悪いこと?」

「分からない」

「私は、分かるわ」


即答だった。


「迷わない。

 失敗しない。

 それが、私たちの価値」


カイは立ち止まる。


「君は、一度も“別の選択”を考えたことがないのか?」


セリアは、初めて言葉に詰まった。


「……考える必要がなかった」


それは、誇りでもあり、

同時に、檻のようにも聞こえた。


二人は、人気のない閲覧室に入った。


研究資料が並ぶ、

学生用の制限エリア。


セリアは端末を操作し、

自分の評価ログを表示した。


「見て」


そこには、

驚くほど綺麗な数値が並んでいる。


判断精度、安定性、適応度。

すべてが、理想曲線の上。


「私は、

 “想定外”を出したことがない」


「それで、不安になったことは?」


「ない……はず」


だが、

その声は、ほんの少し揺れた。


カイは、思わず言った。


「君は、

 間違えたことがないんじゃない」


「?」

「間違える権利が、なかっただけだ」


セリアの瞳が、わずかに見開かれる。


沈黙。


閲覧室の静寂が、

二人を包む。


「……それは、欠陥だと言われる」


セリアは、低い声で言った。


「迷いは、社会に負荷をかける」

「そう教えられた?」

「ええ。ずっと」


カイは、静かに答えた。


「俺の両親は、

 その“負荷”だった」


セリアが、顔を上げる。


「考えすぎて、

 選びすぎて、

 上から消された」


それは、告発でも、恨みでもない。

ただの事実だった。


「……それでも?」


「それでも、

 母は選んだ」


「何を?」


「残ることを。

 考えることを。

 俺を、そういう世界で育てることを」


セリアは、しばらく黙っていた。


やがて、

ぽつりと呟く。


「……怖い」


「何が?」


「もし、

 私が“選んだ”ら」


彼女は、初めて視線を逸らした。


「今の私じゃなくなる気がする」


その言葉は、

完璧な少女の、初めての弱音だった。


カイは、否定しなかった。


「それでも、

 選ぶってことは——」


「壊れること?」


「変わることだ」


その夜。


セリアは自室で、

自分の評価ログを開いていた。


完璧な曲線。


だが、

昼間の会話の後、

一箇所だけ、微細なノイズが走っている。


【備考】

判断遅延:微増


セリアは、画面を見つめたまま、

初めて指を止めた。


「……選んでしまったの?」


同時刻。


学園の管理AIが、

静かに記録を更新する。


【対象:セリア・レイン】

【状態】

・判断遅延 発生

・非最適思考の兆候


【要観察】


カイ・ノルドは、

まだ何も壊していない。


だが、

完璧だったものに、

最初の“揺らぎ”を与えていた。

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