端に集まる者たち
端に集められた者たちは、
共通点を持っていなかった。
出身も、
能力も、
性格も。
ただ一つだけ、
“未来の説明が省略された”
という点を除いて。
新しい教室は、
学園の最端部にあった。
窓はあるが、
景色は見えない。
曇り加工されたガラスの向こうには、
ただ光だけがある。
カイ・ノルドは、
指定された席に座り、
周囲を見回した。
全部で、七人。
誰も、こちらを見ない。
最初に口を開いたのは、
痩せた青年だった。
「……ここ、
“戻れない組”だろ?」
声は小さいが、
妙に慣れている。
「どういう意味だ?」
カイが聞く。
青年は、
肩をすくめた。
「成績が悪いわけでも、
規則違反したわけでもない」
「ただ、
最適じゃない」
その言葉に、
他の学生が、
わずかに反応した。
「俺は、
判断が遅すぎるらしい」
別の学生が言う。
「正解は分かるんだけど、
選ぶ前に、
“もしも”を考える」
「それ、
駄目なの?」
誰かが、
ぽつりと呟く。
返事はなかった。
「私は、
他人の評価を気にしすぎるって」
小柄な少女が言う。
「空気を読む癖があるのは、
社会的に有用じゃないって」
その場に、
短い沈黙が落ちる。
どれも、
“悪いこと”ではない。
ただ、
扱いづらいだけだ。
教官が入ってきた。
若い。
表情は柔らかい。
「ここは、
高度配慮教育区画です」
また、
その言葉。
「皆さんは、
社会にとって
価値のある資質を持っています」
“ただし”は、
言われなかった。
だが、
全員が察している。
授業内容は、
驚くほど単純だった。
既存モデルの反復。
決められた手順。
想定外は、
そもそも出てこない設計。
(……考えなくていい)
それが、
ここでの正解だった。
休憩時間。
誰も、
立ち上がらない。
「……ねえ」
小声で、
青年が話しかけてきた。
「お前、
下層出身だろ?」
「そうだ」
「やっぱりな」
彼は、
苦笑した。
「俺の親も、
第三世代だ」
カイの胸が、
小さく鳴った。
「……ここに来る人、
大体そうだ」
「第三世代って、
失敗作じゃない」
青年は、
誰に言うでもなく続ける。
「扱いづらかっただけ」
「それで、
スラムに?」
「ああ。
“社会的移行”」
その言葉に、
教室の空気が、
少し重くなる。
「不思議だよな」
青年は、
カイを見る。
「俺たち、
誰も反抗してない」
「暴れてもいない」
「壊してもいない」
それでも——
「ここに集められた」
カイは、
ゆっくりと頷いた。
「……端に、な」
青年は、
初めて少し笑った。
「いい表現だ」
その頃。
別棟の同様の教室で、
セリア・レインも、
数人の学生と向かい合っていた。
沈黙。
だが、
同じ匂い。
考えてしまう人間の、
居心地の悪さ。
夜。
カイの端末に、
短いメッセージが届く。
「同じような人、
何人かいる」
セリアからだった。
カイは、
少しだけ迷ってから返す。
「こっちもだ」
「……一人じゃない」
「ああ」
同時刻。
学園AIの最深ログ。
【状態】
・非最適傾向個体
・集約完了
【評価】
「相互影響は、
管理可能範囲」
【備考】
「第三世代の再現条件、
一部成立」
カイ・ノルドは、
教室の天井を見上げた。
ここは、
中心ではない。
だが、
ゼロでもない。
端に集められた者たちは、
まだ何もしていない。
それでも、
世界は彼らを
一か所にまとめた。
——それは、
恐れている証拠だ。
次回予告




