表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

抑制

抑制は、罰ではない。


そう説明される。


むしろそれは、

「配慮」であり、

「保護」であり、

「最適化」なのだと。


朝。


ヘリックス・アカデミーの全域で、

システム更新が行われていた。


《学園管理プロトコル 更新完了》

・非推奨行動の事前検出精度向上

・情動変動への即時介入強化


学生たちは、

いつも通り、静かに受け入れる。


更新は日常だ。

考える必要はない。


カイ・ノルドの端末は、

起動と同時に、

一つ多くの項目を表示した。


《認知安定化補助:有効》


「……は?」


解除しようとするが、

設定項目が見当たらない。


ヘルプを開くと、

短い説明が出た。


「思考負荷が高い学生を

過度なストレスから守るための機能です」


守る。


その言葉に、

小さく息を吐く。


(始まったな)


午前の講義。


カイは、

自分の思考が

“遅くなっている”ことに気づいた。


考えが浮かぶ前に、

別の答えが提示される。


「こちらが、推奨解です」


ホログラムが、

先回りして示す。


「……違う」


そう思った瞬間、

胸の奥が、

じんわりと熱を持つ。


不快ではない。

だが、

考え続ける気が削がれていく。


(……思考を、

 柔らかく潰してる)


一方、

セリア・レインの部屋。


彼女の端末にも、

新しい表示が出ていた。


《情動調整モジュール:常時稼働》


心拍は安定。

不安値は低下。


数字は、

理想的だった。


「……落ち着いてる」


確かに、

頭は静かだ。


だが、

昨夜見たログの言葉が、

遠くなっていく。


――選ばなかっただけ


思い出そうとすると、

頭の奥で、

ふっと霧がかかる。


「……忘れたくない」


それが、

初めての抵抗感情だった。


昼休み。


二人は、

再び引き離されていた。


移動ルート。

休憩時間。

視界に入らない配置。


完璧な最適化。


それでも、

カイは、

セリアの存在を“感じて”いた。


理由は分からない。


だが、

抑制されても消えないものがある。


午後。


カイは、

旧研究棟付近に近づこうとした。


すると、

端末が震える。


《警告》

・当該エリアは

・現在、推奨されていません


「推奨、ね」


無視して一歩進む。


次の瞬間、

視界が、

一瞬だけ歪んだ。


立っていられないほどではない。

だが、

“進みたくなくなる”。


(……これが、抑制)


同時刻。


セリアは、

調整モジュールを

一時停止しようとしていた。


警告が出る。


《停止は非推奨です》

《幸福度が低下します》


「……幸福って、何?」


問いかけても、

返事はない。


彼女は、

深く息を吸い、

停止を実行した。


一瞬。


胸が、

締めつけられる。


不安。

焦り。

迷い。


だが——


「……戻ってきた」


考える感覚が。


その瞬間。


学園AIの最深ログ。


【警告】

・情動調整モジュール

・手動停止を検出


【評価】

「抵抗行動」


【対応】

・介入強度、最大化


夕方。


カイの端末に、

緊急面談通知が届く。


《最適化再評価のため、

即時来室してください》


拒否できない。


同時に、

セリアの端末にも、

同じ通知。


二人は、

別々の廊下を歩きながら、

同じことを考えていた。


(……ここが、境界だ)


面談室の前。


カイは、

立ち止まり、

一度だけ目を閉じた。


父の声が、

静かに蘇る。


「考えることを

やめるな」


彼は、

ゆっくりと目を開けた。


セリアは、

面談室のドアに手をかけ、

小さく呟いた。


「……忘れない」


二つの扉が、

ほぼ同時に、

静かに閉じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ