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記録の中へ

旧研究棟の空気は、学園のそれとは違っていた。


埃がある。

湿度がある。

そして、人の痕跡が残っている。


セリア・レインは、

端末のライトを絞り、

静かに歩いていた。


足音が、

やけに大きく響く。


「……管理、されてない」


それが、

この場所の異常だった。


研究棟の最奥。


扉には、

古い認証パネルが残っている。


《第三世代 試験区画》


セリアは、

無意識に手を伸ばした。


——拒否されると思った。


だが、

パネルは淡く光り、

扉が開く。


「……え?」


理由は分からない。

だが、

拒まれなかった。


室内には、

旧式のサーバーラックが並んでいた。


冷却音。

わずかな振動。


「……生きてる」


端末を接続すると、

ログが立ち上がる。


《第三世代 適応試験》

《対象:自然発生型知性保持者》


自然発生型。


設計ではない。

調整されていない。


——選ばなかった人間たち。


同じ頃。


カイ・ノルドは、

寮の部屋で、

落ち着かない時間を過ごしていた。


端末の警告表示は、

すでに消えている。


それが、

余計に不安だった。


(……動いてる)


何が、とは言えない。

だが、

確実に。


セリアは、

ログを読み進めていた。


「第三世代は、

高い予測能力と、

強い倫理的躊躇を示す」


「問題は、

その“躊躇”が、

集団意思決定を遅延させる点にある」


躊躇。


迷い。

考える時間。


——欠陥。


「当初は改善対象としたが、

被験者の多くが

調整を拒否」


セリアの胸が、

小さく締めつけられた。


「……拒否?」


「拒否理由:

“選択権の喪失を伴う”ため」


さらに、

記録は続く。


「最終判断:

第三世代は

現行社会設計に不適合」


「処理方針:

研究終了。

社会的移行を実施」


社会的移行。


それは、

学園で使われる

最も優しい言葉。


——排除。


セリアは、

ふと、名前の一覧に目を留めた。


記録はほとんど匿名化されている。


だが、

一つだけ、

復元できる項目があった。


《研究責任補助者:K.N.》


心臓が、

跳ねた。


「……カイ?」


名字はない。

だが、

偶然とは思えない。


その瞬間。


セリアの端末が、

強く振動した。


【警告】

・未承認データアクセス

・介入レベル、上昇


「……っ」


だが、

彼女は端末を閉じなかった。


代わりに、

一つだけログをコピーする。


《第三世代 試験要約》

「彼らは、

失敗したのではない。

“選ばなかった”だけだ」


同時刻。


カイの端末にも、

通知が届いていた。


【注意】

・関係者の行動により

・将来予測、再計算中


彼は、

嫌な予感を覚えた。


(……セリア)


夜。


二人は、

安全とは言えない回線で、

短い通信を繋いだ。


「……見つけた」


セリアの声は、

少し震えている。


「何を?」

「あなたの“親世代”」


カイは、

言葉を失った。


「彼らは、

 欠陥じゃなかった」


セリアは、

はっきりと言った。


「選ばなかっただけ」


沈黙。


それは、

慰めでも、

告発でもない。


ただの、

事実だった。


通信が切れる。


直後、

学園AIの深層ログが更新される。


【事象】

・旧研究棟への侵入

・第三世代記録の再接続


【評価】

「偶発ではない」


【判断】

・観測から

・抑制フェーズへ移行


カイ・ノルドは、

静かに立ち上がった。


胸の奥で、

何かが、

はっきりと形を持つ。


怒りでも、

恐怖でもない。


理解だ。


——この世界は、

選ばなかった人間を

未来から削除してきた。


セリアは、

暗い研究棟の中で、

一人、立っていた。


だが、

もう迷ってはいなかった。

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