君を探して
慌てて自転車にまたがり、来た道を引き返す。
自転車を漕ぎながら、真っ先に藤原に電話した。あいつならミドリの電話番号を知ってるだろうし、居場所を聞き出せるかもしれない。
何度かのコール音の後で、藤原が電話に出た。
「もしもし。どうした? 上坂」
「藤原。頼みがあるんだ。お前ミドリの携帯の番号知ってるか?」
「おいおい。いきなりなんだ?」
「いいから! ミドリの番号知ってるなら、今すぐあいつに電話してくれ。頼む。今どこにいるか聞き出せ」
「お前告白でもするのか」
「さっさとしろ!」
「――ったく、わかったよ。じゃあ、一旦切るぞ」
やっぱりミドリの電話番号を知ってやがった。こんな時だけは、あいつの軽い性格も役立つもんだ。
丁度、校門まで戻ってきたタイミングで俺の携帯が震えた。
「上坂。彼女、携帯の電源落としてるぞ。何度か掛けてみたがダメだ」
くそっ。まじかよ。
「どうする? クラスの女子に聞いてみるか?」
「できるのか?」
「俺を誰だと思ってるんだ」
「……助かる」
電話を切った後、俺はさっきとは別の道を選んでミドリを探し回った。
駅に続く道や、バス停、主要道路沿いなど、可能性の高そうな場所を見てまわった。
そうして、どれだけの時間が経っただろうか。
ようやく、ミドリの目撃情報を得ることができた。
藤原が、帰り際にミドリを見かけたというクラスメイトを探し当ててくれた。
俺は、藤原から言われたとおり、河川敷の堤防の上を自転車で駆け抜けた。少年野球の掛け声や、思い思いのペースでランニングしている人の間を掻き分けながら進む。
そして、堤防から川へと続く芝生の斜面の上で、見つけたんだ。
風に髪をなびかせ、膝を抱くように、ただ暮れ始めの空を眺めていたミドリの無表情は、今にも消えてしまいそうだった。
「はぁ、……はぁ」
切れた息を整えながら、自転車を脇に停めて、ミドリの方へと近づく。
途中、俺に気づいたミドリは、相変わらずの無表情でこっちを見つめた。なぜ俺がここに来たか、その理由を探るように。
だから俺は、声が届く距離まで近づいたあと、鞄から蜘蛛のオモチャと白のヘアバンドを取り出して、
「やっと、思い出した」
ミドリの目を見つめながら、そう言った。
あいつの無表情は、一瞬の間のあとで呆れ顔に変わって、
「……気づくの、遅いよ」
立ち上がりながら、微笑みに変わった。