決意
「……懐かしいな」
俺は、そのオモチャの蜘蛛を手にしながら感慨にふけっていた。たぶんミドリの悪戯だろうけど、なぜこれをミドリが持ってたのかはわからない。
ただの偶然だとは思えない。あいつは、俺が出会った芳賀沼の兄妹なのか?
まさか、本人なわけないよな。
女の子がわざわざ坊主頭にする意味もないだろうし。仮にそうだったとしても、感謝こそされど、あんなに恨まれる覚えなんてない。ちょっとばかし約束を守れなかっただけだ。
しかし、なんにせよミドリから逃げ回るのはそろそろやめよう。この蜘蛛のオモチャが出てきたって事は、きっとミドリと向き合わなきゃいけないんだろう。
俺は鞄を手に取ると部室へと向かった。ミドリは最近、部活見学と称して俺のいる空手部に顔を出している。今日もいるはずだ。
部室に着いて、辺りを見渡す。が、ミドリの姿はなかった。道場の方も覗いてみたが、やはりいなかった。
仕方が無いので、先に練習を始めていた部員に聞いてみた。
「なぁ、今日はミドリのやつ来てないのか?」
「ん? あぁ、ミドリちゃんなら今日は用事があるとかで帰ったぞ」
「どのくらい前だ?」
「ほんのついさっきだぞ。しかし、なんだ? お前、昨日までミドリちゃんのこと完全にシカトしてたくせに、実は狙ってたのか」
「ちげーよ。…………あのさ。わりぃけど、俺も今日帰るわ。顧問に体調悪いから帰ったって伝えといてくれ」
「お、おい上坂!」
俺を呼び止める声を背に受けながら、道場を出て駐輪場に向かった。
今日中にミドリと会わなくちゃいけない。なぜだかよく分からないが、俺の奥深くにいる俺がそう言ってるんだ。
今ならまだ間に合う。
そして、自転車のまたがり校門を出たところで、立ち止まった。
俺は、とても大事なことを忘れていた。
「――――あいつの帰り道がわからねぇ」
右、左、そして真っ直ぐに伸びる三つの分かれ道を前に、俺は天を仰いだ。




