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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
星律の瞬き

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背中を預けられるのは


 見上げた桜の木はあっという間にその花弁を散らし、青々とした葉を纏っていた。

 その樹を蒼い瞳と紫色の瞳の幼子が、目を皿のようにして見ている。


「見つけたかい?」


 蒼い瞳の幼子が、隣で必死に桜の木を見上げている紫色の瞳の幼子に尋ねる。

 尋ねられた紫色の瞳の幼子は、力なく首を振った。


「いいえ……それほど高い位置ではないはずなのですが……」

「そうだね……」


 小さく同意をして、蒼瞳(そうとう)の子は小さくため息をつく。そうして、手に持った柔らかい綿の上で頼りなげに鳴く小鳥を見る。

 

「困ったね。早くお前を家族の元に返してやりたいのだが……」

 

 幼子たちはいつものようにお気に入りの桜の木の下で待ち合わせをしていた。

 二人が桜の木の下にやってくると、ぴぃぴぃと頼りなげな声がした。その声に耳をそばだて木の周辺を見ると、一羽の雛鳥が頼りなげに鳴いているのを見つけたのだった。


 どうやら、不幸にも巣から落ちてしまったらしい。

 幸い雛が落ちたところは、丁度木の根と根の間――花呉座の上でだったようで怪我はしていなかった。

 二人はそれに安堵し、では、巣に戻してあげようと、雛の上で両手を広げるようにして目にも鮮やかな新緑を湛える桜の木を見上げていたのだった。


「やはり、下から見ていては見つからないかもしれないね」

「そうですね……」


 蒼瞳の幼子の言葉に、木を見上げたまま紫瞳の幼子は相槌を打つ。


「よし、僕が木の上に行って巣を探そう」

「え!?」


 紫瞳の幼子がギョッとしたような顔で隣を見た時には、すでに蒼瞳の幼子は懐に小鳥をそっと入れ両手で印を組みながら星森の申し子に呼びかける詞を紡いでいた。


「重力反転っ!」


 彼の言葉に応えるように、足元に魔法陣が生まれる。すると、ふわりと蒼瞳の幼子は浮かび上がり彼はあっという間に桜の木の上に登って行った。


「危のうございますっ!」

「大丈夫だよ」


 木の下から紫瞳の幼子が焦ったような声で叫ぶ。それに軽やかな笑い声と共に返事が返ってくる。


「さて、お前の家はどこだろうか」


 懐でぴぃぴぃと鳴く雛鳥に優しく語りかけ、蒼瞳の幼子はきょろきょろと辺りを見回す。

 しばらく見回していると、彼の瞳に小さな小鳥の巣が飛び込んできた。


「見つけたよ!」

「まことですか!?やりましたね!」


 下にいる紫瞳の幼子に声をかける。

 見下ろすと紫瞳の幼子は、華のような笑顔を浮かべていた。

 それに微笑み返し、蒼瞳の幼子は小さな巣に向かってそろりそろりと歩を進める。


「気をつけて!」

「うん!」

 

 心配そうな声が下から聞こえる。

 それに返事をして、蒼瞳の幼子は足元に集中する。


「ああ……慎重に……本当に気をつけて……」


 心配性な紫瞳の幼子が祈るように呟く。

 春の風が吹き抜けて、蒼瞳の幼子がいる桜の木を揺らす。


「おっと……」


 必死にバランスをとりながら彼は進み、どうにか目的の小鳥の巣の元に辿り着く。

 ほぅ……と安堵のため息一つ。

 

 枝にしがみつきながら懐からぴぃぴぃと鳴く雛を出す。雛を返すためそっと手を伸ばす。

 そんな彼の耳に、下から紫瞳の幼子の声が紡ぐ言葉が聞こえてくる。

 その声にふっと蒼瞳の幼子は唇に笑みを浮かべた。


 伸ばした彼の手から無事に雛が巣に戻される。戻された雛は兄弟たちと一緒にぴぃぴぃと鳴いた。


「もう兄弟から離れてはいけないよ」


 優しく語りかけた瞬間、再び強い風が吹き、桜の木が大きく揺れた。


「わっ……!」


 雛を返して緊張の糸が解けていたのだろう。

 蒼瞳の幼子は、そのままバランスを崩して足を滑らせる。

 そうして、彼は真っ逆さまに落ちていく。


 彼の体が地面に叩きつけられる瞬間――――


「風嵐の泉っ!」


 澄んだ声が響いて、地面に魔法陣が浮かび上がった。

 その魔法陣から突風が吹き上がり、落ちてきていた蒼瞳の幼子の体はその風で舞い上がる。


 風に身を任せながら、蒼瞳の幼子はふふふと小さく笑った。


「さすがだね」


 下に向かってそう言うと、風の魔術を行使した紫瞳の幼子は安堵の表情を浮かべて彼を見上げていた。

 

 やがて、魔術の風の力が弱まり、まるで羽が舞い降りるように蒼瞳の幼子は着地する。


「ありがとう」


 にっこり笑って礼を言うと、紫瞳の幼子はゆるゆると首を振った。


「お前は僕が落ちるかもしれないことを予見して、風の精霊さまのお力を使う支度をしたのだね。お前の呼びかけの詞が聞こえてきたよ」


 だから、安心してあの子を巣に帰してあげることができたのだと彼は言った。

 

「本当に、無事でよかった」

「ふふ。僕にはお前がいるからね。絶対に大丈夫だとわかっていたよ」


 蒼瞳の幼子の言葉に、紫瞳の幼子はわずかに頬を染めてみせた。

 

 二人はいつものように並んで桜の木の下に座る。


「何かするときに、背中を預けられる存在がいるといのはなんと心強いことか。今日、改めて僕にはお前がいてよかったと思ったよ」


 蒼瞳の幼子の言葉に紫瞳の幼子はふわりと目を細める。


「それは私も同じ思いです。私が背中を預けられるのは、あなたです。あなたがいるから、私はこうして立っていられる。私にあなたがいてよかった」

「うん。僕もだよ。僕はお前を信じているよ」

「はい」 


 

 丁度その時、親鳥が巣にいる雛たちの元に帰ってくるのが見えた。

 一際、雛たちが賑々しく鳴く。

 その声に、二人は嬉しそうに耳をそばだてていたのだった。

 

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