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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
はじまりの刻

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賭けの行方(一)

こちらのepと関連したお話「第六回 小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会」

https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2870828/noveldataid/26878209/

も公開中です!先にお読みいただくと、賭けの様子が見られます。

そうして、いよいよ小聿の大学入試本番前日を迎えた。

 明日から三日間に渡り、秀英院の大学入試が行われる。

 

 小聿は明日に備えて早めに休むため夕食を食べ終わると、お先に失礼いたしますといつものように優雅に揖礼(ゆうれい)をして本殿を下がろうと立ち上がった。


「小聿どの、明日から三日間頑張って!目指せ!980点で社会学部だ」


 叔父の芳崇(ほうすう)が上機嫌で彼を激励する。


「いえいえ、()(きみ)。小聿どの、950で理学部です」


 すると靜子が首をふりふり小聿に言う。

 その後も、何点でどこどこを目指せ、いやいや、ここだと皆が口々に言う。


「は……?」


 いつもは端然とし、間の抜けた声など出さない小聿が珍しくぽかん、とした顔をする。


「あの……なにゆえ、そう点数と学部のお話を……?」


 彼が尋ねると途端に全員黙り視線を逸らす。妙な反応に小聿は眉を顰める。

 

 ややあって、彼はため息をついた。

 そうして隣に控える蕗隼と汝秀を半眼で見る。


「そなたらも参加したのであろう?」

「え……あ、いや……」


 二人の目が泳ぐ。


「申せ、何点の何学部に賭けたのだ?」

「………1100点で医科学部に……。若の第一志望が医科学部ですので……」


 観念したように汝秀が言う。


「蕗隼、そなたもか?」

「……はい」

「……まったく」


 人の受験をなんだと思っているのですかと彼は呆れ返ったような顔をする。五歳児に呆れられて、大人たちはそろいに揃って小さくなる。

しばらくの沈黙の後、小聿はふふと小さく笑う。


「では、私も参加しましょう」


 彼の言葉に、一同が驚いたような顔をする。


「ご安心ください。手心を加えるつもりはありません。最大限力を尽くす所存です。さて、どうしようかな……」


 そう言って、彼はニヤリと笑う。

 ああ、こんな顔もこの子はするのかと一同新鮮な面持ちで小聿を見つめる。


「それでは、私はここにいる皆の予測を裏切るに賭けましょう。私が賭けに勝ったら、一つわがままを聞いてください」

「どう言う意味じゃ?うまくいかぬと言うことか」


 彩芝の問いに、小聿は小首を傾げる。


「そのままの意味です。入試は最後までなにが起こるかわからないですからね」


 それでは、お休みなさいませ、と優雅に揖礼をすると彼はふわりと身を翻し本殿を去っていったのだった。


 

 翌日は快晴だった。

 小聿は受験を決めてから、籠ってきた水鏡殿の勉強部屋をぐるりと眺める。


「晴れてよかった」


 ほっとしたように、小聿が言うと隣にいた蕗隼が微笑んだ。


「皆で作ったてるてる坊主がしっかり働いてくれましたね」


 彼の言葉に小聿はにっこり笑って勉強部屋の窓辺に吊り下げられたてるてる坊主を見る。

 これは水鏡殿の者たちが、雨が弱点の主のためにと作って吊り下げてくれたものだった。


「ありがたい。さて、天気が味方してくれたのだ。力を尽くしてくるとしよう」


 彼は首に下げた星森の聖印をぐっと握りしめると、受験会場へ向かうため一条屋敷を後にした。


 

 そうして、三日間。

 無事天気に恵まれ、小聿の初めての受験は終了した。

 結果は文月の最終日、31日出ることになっていた。

 受験が終わって、どうだったのかと尋ねてくる面々に、彼は綺麗に笑って結果は31日のお楽しみだと言ったのだった。


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