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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
はじまりの刻

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たんぽぽ

 ふぅ…と優しく息を吹きかけると、手に持っていたたんぽぽの綿毛が一斉に手元を離れる。

 そうして、春の風に攫われて種子を抱えた綿帽子は新たな地へ向けて飛び立っていった。

 それを眩しげに蒼い瞳と紫の瞳が見つめていた。


「たんぽぽは……春風に乗って遠く旅立つ。僕たちの知らないどこかへ」

 

 蒼い瞳の幼子が目を細めながら言う。そうですね、とそれを聞いて紫色の瞳の子どもは頷いた。


「たんぽぽの花は寂しくないのでしょうか」

「え?」


 綿帽子が全て飛び去り、花茎だけになったのを見つめたまま紫の子は呟いた。どう言うことだい?と問われて、紫の子は蒼い子が持つたんぽぽの花茎をそっとつついた。


「生まれた時は、兄弟や友と身を寄せ合っているのに、春になると知らない地へ飛び立っていくでしょう?……あ、今、たんぽぽの花に私たちと同じように心があると思っているのか、と少し呆れましたね?」

「いや……呆れてなどおらぬよ。お前も詩的なことを言うのだなぁと思ったのだ。ふふふ」

「では、なぜ笑うのです?」


 少し唇を尖らせて、紫の子がいうと蒼い子は笑みを深めた。


「ふふふ……さようなことを言うなんて、お前はかわいいな、と思ったのだよ」

「…………」


 その笑顔に、紫の子は困ったように微笑んだ。

 蒼い子は、たんぽぽの花茎をクルクルと親指と人差し指で持って回す。紫の子は回る花茎をじっと見つめていた。


「寂しいし、不安かもしれないね」


 やがて、蒼い子は囁くように言った。紫の子は視線をたんぽぽから隣に座る彼に向けた。


「慣れ親しんだ場所や兄弟、友らから離れ、新たな土地に行くというのは、寂しいし、不安かもしれない」


 まぁ、たんぽぽにその心を聞くことはできないから、真実はわからないけれどね、と蒼い子は言う。


「けれど、新たな地で根を張り、その地でまた多くのものを見て、知って、支え、支えられ生きていくことは、可能性や希望に満ちていると思うよ」


 そこまで言って、蒼い子は手の中にある綿毛を全て見送った花茎をそっと地面に置いた。


「残されたこの花茎も、旅立つ綿帽子を見送って、寂しいかもしれない」


 綿毛を失い、もう萎れてしまった花茎を二人は見つめる。


「寂しいけれど、旅立った種子が新たな土地で強く、幸せに生きていくことを願っているのではないかな」


 蒼い子の言葉に、紫の子はほぅと息を吐き、そうかもしれませんねと微笑んだ。


「では、この先……新たなる地へ旅立つこと、新たなる地へ旅立つのを見送ることが私たちに訪れた時、寂しさや不安だけを抱えるのではなくありましょう。旅立つ時は、新しい地で希望を持って強く生きることを…見送る時は、相手が新たな地で幸せに生きていると願うことを……心がけてまいりましょう」

「ああ、そうだね。とても良い心がけだ。そうでありたいね」


 蒼い子はその笑顔に釣られて、同じように微笑んだ。


 一際、春の強い風が吹く。

 二人の目の前で咲いているたんぽぽのまだ旅立っていなかった綿毛が、その風に乗ってふわりと春の空へと飛んでいった。

 そのさまを、二人の幼子は黙って眺めていたのだった。


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