新人官吏を待つ者は
「あそこに集まっている者たちは、何をしておるのだ?」
聖国皇宮の本宮のテラスより、目の前の水晶庭園に集まっている人々を見て彼はすぐ側に控える者に尋ねる。
「はっ。どうやら、ここ数日騒がしていた集団アレルギーの原因がわかり、それを駆除するようで」
「ああ……司法院の者たちがかなりやられてしまったという……」
「仰せの通りです」
彼はふっと深い蒼色の目を細め、集まって人々に何やら説明をしている秀麗な少年を見つめた。
その視線は驚くほど優しく、大層愛おしげに少年を見つめていた。
「原因はなんだったのだ?」
「なんでも、あの白い花の樹液だったそうです。それで、これからあの植物を駆除するとか……」
「ほぅ……」
彼は白い花に視線を移す。
「あのように可愛らしい花に、恐ろしい毒が隠れているとは。よく気がついたものだ」
「ええ。将軍院の西方将軍付き主簿に就任した新人官吏・源彩棐どのがその原因を突き止めたようです」
その言葉に、彼は一層笑みを深める。
「そうか……あの子が突き止めたのか」
その声は喜びをはらんでいた。
少年が左手で印を結ぶ。形の良い唇が呼びかけの詞を紡ぎ出す。
たんっと彼が勢いよく地面に手をつく。
「地の躍動!」
その呼びかけに応じて、地面が隆起し件の植物が根本から抜き去られる。
「火炎の泉!」
続く呼びかけに、植物は一瞬にして灰になる。
「風嵐の泉!」
そうして、彼の呼びかけに反応した風の精霊の力が灰を上空に舞い上げる。
空を振り仰いだ彼が、胸に光る翡翠の聖印を撫でて微笑んでいるのが見えた。
魔術で鮮やかに毒花を消した少年を見て、彼はふふふと笑う。
「見事だね。さすが、小聿だ」
彼の声はどこか得意げだった。
「若ーーーー!なんて無茶なことをっ!また、倒れたらどうするんですか!?」
少年を諌める側仕えの声がする。その声を聞いて、蕗隼たちも苦労が絶えぬなと彼は笑った。
そうして、少年を見つめる蒼い瞳をより一層細め、優しい声で囁く。
「はやく、聖治殿までおいで、小聿。父は首を長くして待っているよ」
彼ーー聖国の主・舜棐帝はふわりと身を翻す。
「朕の大事な大事な小聿……いや、彩棐……お前とこの国の行く末を語らう日を、ね」
爽やかな皐月の風が吹き抜ける。
少年ーーーー源彩棐が、実の父である舜棐帝の前にその治世を支える官として立つのは、もう少し先の話。けれど、それはきっとそう遠くない未来ーーーいろどりの追憶・外伝・百二十五頁
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これにて、「新人官吏くん!編」及び「月の皇子編」が終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
次からは臣籍降下後の小聿のお話がはじまります。
皇宮という狭い世界で生きてきた小聿の世界が、一臣民になったことでどんどん広がっていきます。彼がどんな人と出会いどんな経験をして大人になるのか…お楽しみ下さい!
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