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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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鎮魂の笛とキンセンカの花束(三)


 三日月が沈みかけている。


 魔術の鍛錬を終え、東の院を出ようとする央茜を小聿は呼び止めた。

 二人は、仲良く道場を出て東の院の庭をゆるゆると歩く。


 「今日は、央茜じいの特別な日であろう?」


 そのお人形のような綺麗な顔に笑顔を浮かべて小聿はいった。

 央茜はそれを聞いて、目を丸くした。


「なんと、宮さまはじいの誕生日を覚えていてくださったのですか」

「もちろん。それに、私の誕生日とじいの誕生日は10日違いだからね。キリが良くて覚えやすい」


 そう言って小聿は悪戯っぽく笑う。

 そうして彼は手に持っていた花束と細い桐箱を渡した。


「お誕生日、おめでとう。央茜じい」


 央茜は嬉しそうに笑った。


「なんとまあ。じいは果報者ですな。可愛い可愛い宮さまに誕生日を祝わっていただけるとは」


 そう言って、央茜は小聿が差し出した花束と桐箱を受け取った。


「目にも鮮やかな橙のお花でございますな。なんという花のですか」

「キンセンカというお花だよ。その花の花言葉は『慈愛』なのだ。じいは私に慈愛を教えてくれた(・・・・・・)人だから。慈しみ、愛してくれた(・・・・・・)人だから。だからこの花を贈ろうと思ったのだよ」

「慈愛……」


 ポツリと呟いて、央茜はその瞳を固く閉じた。ややあって、ゆるりと瞼を上げると彼は優しく微笑んだ。


「ああ、じいの可愛い可愛い宮さま。素敵なお花をありがとうございます」


 小聿はううんううん、と首を振った。


「央茜じいにはいつも助けてもらっているし、大切なことをたくさん教えてもらった。私を実の孫のように愛してくれた。当然だよ」


 央茜は小聿の丫角に結った頭を優しく撫でた。その頭にきらりと紫水晶の髪飾りが光った。


「こちらの箱の中も見て良いですか」


 その問いに小聿はうん、と答えた。

 央茜がそっと開けると、中から扇子が現れた。


「おお、扇子ですか」

「うん、気に入ってくれると良いのだけど」


 央茜が開くと、それは絹の扇子であった。中骨部分に、美しい梟が描かれている。墨で描かれた梟はその瞳だけ紅い。まるで、梟が血の涙を流しているかのようであった。


「この絵は、私が央茜じいを思って描いたのだよ」


 気に入ってくれると嬉しいのだけど、と少し照れくさそうに小聿は言う。


「梟は「招福萬来」「不老長寿」の意味があるから…」


 それを聞いて、ああ、宮さまはじいのためにこのような素敵な品を用意してくださったのですねと微笑んだ。


「大切にさせていただきます。それこそ、肌身離さず持ちましょう」


 央茜の言葉に、小聿は頷いた。

 央茜は西の空の三日月に目をやった。


「さあさあ、宮さまも魔術の鍛錬をし、お腹も減ったことでしょう。じいもそろそろお暇します。しっかり食べて、しっかり眠るのですよ」

「うん。そうするよ。では、良い誕生日を」

「はい。それでは失礼致します」


 大切そうに小聿からもらったプレゼントと花束を抱き、央茜は礼をすると東の院の門へと去っていく。

 それを小聿は静かに見送る。


 彼は右手の掌をじっと見た。右手の小指の先は怪我をしたのか、手当てをされた跡がある。手のひらの向こうで、もうずいぶん小さくなった央茜の後ろ姿が見える。

 ふ、と紫の瞳が切なげに揺れる。視界の端で、薄紫色の華が揺れているのが見えた。

 ぐっと、右手を握りしめ、瞳を閉じる。

 やがて目を開けると、央茜の姿はすでに見えなくなっており、切なげに揺れていた小聿の紫の瞳は静かな湖面のように凪いでいた。


 月の皇子にとって、キンセンカの香りは忘れられないものとなった。――――いろどりの追憶・第一巻・三百二頁


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