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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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託された想い(二)

いつもは、優雅に静々と移動をする皇子が、ものすごい勢いで歩廊を走るので、侍従や女官たちはびっくり仰天して動きを止める。それに見向きもせず、小聿は書庫から一路、勉強の時に使っている部屋へと走っていく。


 「皇子っ!走らないでください!まだ 病み上がりなのにっ!」


 彼を追いかけながら蕗隼が叫んでいる。


 ――――好奇心旺盛の宮さまに、じいから早めのプレゼントです。


 耳朶をあの優しい声が撫でていった気がした。


 

 央茜じいからのプレゼントは、ゆっくり大切に読もうと、まだ初めの数ページしか読んでいなかった。

 それは、星森の大陸の魔術書ではなく、鏡合わせの大陸の魔術書であった。

 わざわざ自分のために取り寄せてくれたのか、と嬉しかったのだ。

 

 部屋に飛び込む。


 一番奥の棚にきちんとしまってあったあの魔術書と鏡合わせの大陸の言葉の辞書を引っ張り出し、小聿は読み始める。

 はぁはぁっと肩で息をしながら、猛スピードで解読をしていく。

 これまで読んできた魔術書は、全て星森の大陸のものであった。そのため、他の大陸の魔術について書かれているものは少なく、目を通したものは全て概要に過ぎず、決定的な情報は書かれていなかった。


 だが、央茜から贈られた魔術書は向こうの言葉で書かれたもの――――間違いなく聖国の者が読む魔術書ではなく、鏡合わせの大陸の者たちが読むものだった。


「違う……もっと先か……魔具……タリスマンの仕組み……」


 パラパラとページをめくる。

 彼を追いかけてきた三人が、部屋に辿り着く。

 真っ白な衣に身を包んだ三人は、ゼエゼエと肩で息をしている。


「皇子……何事ですか……?」


 紫苑も肩で息をしながら尋ねる。

 それに答える声はない。

 

 ただただ、小聿は無我夢中で魔術書を読み進めている。

 わからない言葉が出てくるたびに、辞書をひいて見比べる。

 震える指が、読み慣れぬ鏡合わせの大陸の言葉を撫でていく。

  

【タリスマン:純度の高い宝石に特定の精霊の力を具現化する術式を刻み込んだもの。身につけている者の気を取り込み、増幅させ、術者の気と周囲の精霊の力と合わせることで力を具現化する。発動させる術は、火・水・土・風の精霊の力に依拠したものが主流である。発動のきっかけとなるのは、魔法発動のための気の流れや呪文、定められた動作など多岐に渡る。タリスマンの作成には、人の気を取り込み増幅させる術式と具現化したい精霊の力を使った術式を刻み込む。その方法は……】

 

「やはり……タリスマンは、人の気を取り込む魔具なのか……」

「皇子?何かわかったのですか?」

 

 目の前に座った紫苑が尋ねてくる。


「ひとつ目の疑問が解決したよ。あの髪飾りの紫水晶は、魔具だ。あの鏡合わせの大陸からやってきた魔術士たちが使っていた杖にはめ込まれていたものと同じ……タリスマンだよ」


 小聿の言葉に三人は怪訝な顔をする。


「どういうことです、皇子。あれは……お父上さまから賜った髪飾りではありませんか。お父上さま御自ら皇子のために選ばれた品だと。陛下はタリスマンを皇子に下さったということですか」


 蕗隼の言葉に、小聿は首を振る。


「そうではない。父上がお選びになって、私にくださった時にはこれはただの紫水晶だったのだ。だが、ある夜、これに守りの術を刻むと言って央茜じいが魔術を刻み込んだ。そうして、肌身離さず持つようにと」


 語る小聿の声のトーンが落ちていく。


「……宮さま、それは……つまり……」

「汝秀」


 汝秀の言葉を紫苑が途中で切る。呼ばれて、汝秀は視線を落とした。小聿はそんな三人を静かに見つめ、やがてため息混じりに言った。

 

「そう……央茜じいが、私を亡き者にするためにあの紫水晶をタリスマンに変えたのだ。人の気を取り込み死に至らしめる宝石に……ね」

 

 小聿が告げた現実に応える声は上がらなかった。

 

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