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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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月を味方に(二)

「結局、聖星祭は別荘にはいけたのだろうか」


 お茶を飲みながら小聿が尋ねると、ええ……もう昨年中に全て終わらせることを諦め、家族との時間を優先しました、と紫苑はいう。


「そんなわけで、例の調査はまだ進んでいません。提出された収支報告を見ると、どれも書籍の購入や雑品の購入、魔術省の官吏の魔術訓練のための木人購入など瑣末なものが積み重なって、特別予算を消費した感じなんですよ……。でも、それって通常の予算でできなかったのか?来年度まで購入を待っても十分で、この1月から始まる予算審議の際に、来年度の予算として申請すればよかったのではないか、と思えるものばかりなのです」

 

「ふむ……?今年度の魔術省の予算が特別少なくて、仕方なく申請を出したというわけではないのか?」

「それも疑って、今年度の通常予算がどうだったのか、執行状況はどうだったのかも全部見たのですがね…例年通りだったのです」


 そう言って、紫苑はパクリと饅頭を口に放り込んだ。

 小聿は眉間に皺を寄せる。


「ということは、今年度の通常予算でも例年通り入用な物を購入し、それでは足りぬゆえ、特別予算で追加で購入した、ということか」

「提出書類を見る限りそうなりますね。ですから、例えば魔術稽古のための木人一つとっても例年の倍購入していることになります。でも、そんなに急に木人が必要になる意味がわかりません。それらしい理由が見当たらないのです」

「実際に魔術省へ確認に行ったのか?」


 小聿の問いに、紫苑は困ったような顔で首を振った。


「監査のために確認させてほしいといったら、後日に改めてくれ、日取りは追って沙汰すると言われてしまったのです。怪しすぎるので、監査を急ぎたい旨も伝えて再度プッシュしたのですが、上からストップがかかりまして……」

「上からストップ……?待て……整理をさせてくれ。まず、後日に改めてほしいと言ったのは魔術省の誰だ?央茜じいか?」

「いや、長官どのではありません。別の官僚が対応に出てきました。名をなんと言ったかな……」

「ふむ。それで……上からストップというのは大蔵省の上の方からか?もっと上の枢密院からか?」


 大蔵省というのは、聖国の予算を管理する機関である。紫苑はそこの官吏をしている。枢密院は大蔵省を含む、聖国の行政に関わる省庁を統括する機関でそこの長が左相である。


「いえ、聖星森堂院の方からです。そちらの長官どのから」


 予想外のところの名前が飛び出してきて小聿は眉を顰めた。

 彼の反応を見て、紫苑も頷く。


「そうなんですよ……なんでそこから?って話でしょう。でも、もう院レベルからの話だと私では大人しくはい、と言うしかなくて」

()もありなん」

 

 小聿は息を吐いて、かぼちゃ饅頭を半分に割った。ほわりと湯気がたちのぼり甘い香りが鼻腔をくすぐる。さらに小さく割って、口に入れると優しい甘い味が口内に広がる。思わず口許が綻んだ。

 

「なんだか、小聿さまと傅役さまは、難しいお話をしておいでですね。朔侑にはさっぱりわかりません」


 はふはふとかぼちゃ饅頭を頬張りながら朔侑が言う。小聿は苦笑いをした。


「つまらない話をしてすまないね。先月から少し気になっていて、紫苑と話していた件なのだよ」

「省とか院とかなんなのですか?」


 小首を傾げながら尋ねる朔侑に、えーっとだね……と小聿は呟いて、卓の上に紙を広げる。


「聖国は皇帝陛下と百官……たくさんの官吏で国のことを色々考えているのは知っているね?」

「はい。紫苑さまのような方がたくさんいらっしゃって、みんなで色々なことを決めているのでしょう?」

「うん、そうだね」

 

 返事をしながら、小聿は簡単に(細かいところは省略しつつ)今の聖国の政治体制を紙にサラサラと書いていく。


「現在の政治体制は、陛下の下に4つの『院』と呼ばれる機関といくつかの『省』と呼ばれるところとさらにその下に、『庁』と呼ばれるところがあるのだ。さらにその下も専門ごとに部門があるのだけど……まぁ、色々あるのだな、と思っておいてくれていい」

「はい」



(1)枢密院:行政

   1.教育省

   2.外務省

   3.国土環境省

   4.福利省ー医務庁(聖医療館)

   5.大蔵省ー財務庁・経済庁・産業庁・特許庁

   6.宮内省ー女官・侍従庁


(2)将軍院:軍事

   7.防衛省

   8.衛戍省(皇都警察)

   

(3)司法院:立法、判事、民政全般

   9.立法省

   10.審判省

   11.民部省

    

(4)聖星森堂院:宗教

   12.星森ノ宮省

   13.魔術省


 小聿が書き出したものを見て、いやぁ、さすが皇子、私、全部かけるかな?と怪しげなことを紫苑が言う。小聿は一度半眼になって己の傅役を見ると、慌てて紫苑は冗談ですよと言った。小聿は小さくため息をついて説明を再開する。

 

「簡単に言うと、枢密院が政治のことを、将軍院が軍事のことを、司法院が法律や裁判のことを、聖星森堂院が宗教のことを担当しているのだよ。そして、さらに下にある省や庁が院の指示に従って、仕事をするのだ。たとえば、私がよく世話になる太医令は4.の福利省の下にある医務庁の人だよ。医療のことをやっているのだね。そして、朔侑、そなたのことを色々と決めているのは、ここ、6.の宮内省の女官・侍従庁と言うところだ」

 

 そう言って、小聿は女官・侍従庁の部分を指差す。


「私が住んでいる東宮・東の院のことを管理しているのもこの宮内省だよ」

「私は大蔵省の人間です。皇子のことは、皇帝陛下から宮内省を通して特別に任されています」

「ふーん……」


 饅頭をもう一つ口に入れながら朔侑は頷く。


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