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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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月の皇子の秘密(三)


 体も冷えて体力をずいぶん削られておいでです。薬湯をお飲みください、と太医令が自ら薬湯を用意して持ってきた。

 体の弱い小聿は、この薬湯を嫌というほど飲んでいるがその独特の香りと苦味がいまだに得意ではなく、あからさまに嫌そうな顔をする。


「これ、そんな顔をしないで飲むのじゃ」


 母に言われて、小聿は渋々渡された薬湯を飲み始める。

 口に含むとなんとも言えない味と香りが広がって、彼は眉を顰めた。


「まったく……そんなに薬湯を飲むのが嫌ならば、かような無茶をしなければ良いものを」


 父帝も呆れたような顔をして言う。

 ちびりちびり、と薬湯を飲んでいた小聿だが、ふとあることが気になって寝台の側に立つ父帝を仰ぎ見た。


「父上」

「いかがした?すべて飲まねばならんぞ」


 その言葉に、うっと呻いて、はい、飲みますけども……と小さく呟き小聿は言葉を続ける。


「そうではなく。露華どのやあの場にいた者たちを咎めないでいただきたいのです」


 小聿の言葉に、父帝は片眉を上げてふむ、と呟いた。

 小聿はいつも側にいてくれる側近二人のうち、蕗隼(ろじゅん)がこの場にいないことがとても気になっていた。今回のことで、彼が咎められるのはいただけない。帝はため息をついた。


「相変わらず察しがよいな。お前がこのようなことになって、上聖治殿(じょうせいじでん)の官僚たちの間でも此度その場にいてこのような事態を防げなかった者たちを非難する声が上がっている」


 そんな……と小聿は呟く。


「皆はどうなるのです?」


 帝は眉をハの字にして息を吐いた。


「まだ、何も決まってはおらぬ。が、お前の乳母や乳母子、源家から参っている側仕えやあの場にいた侍従らは、罷免してはどうかという話になっている。また、乳母の夫である篤紫苑(とくしえん)も傅役の任を解き、地方へと……」

 

 脳裏に自分を大切にしてくれている乳母や傅役、可愛い幼馴染みたちやいつも自分を守ってくれる忠実な側仕えたちの姿が浮かんでは消える。

 

 ――――冗談じゃないっ!


「露ちゃんも、澪や蕗隼も、紫苑も他の侍従も誰も悪くありません!私が無茶をしたのがいけなかったのですっ!」


 小聿は薬湯の入った器を太医令に押し付けて、父帝の衣に縋る。


「お願いでございます、父上っ!此度のことは、不慮の事故でございますっ!そして、私が倒れてしまったのは私が自分の力量を見誤り無茶をしたが故。どうかっ、どうかっ、此度のことで誰かを咎めることがしないでくださいませっ!」


 必死の形相で縋ってくる息子を見て、帝はため息を漏らす。

 湘子は小聿の背中をさすりながら、夫を見上げた。


「舜棐……私からもお願いじゃ。露華も澪も水織も蕗隼も……その場にいた侍従や殿上童も、紫苑も……小聿にとっては心の支えじゃ。小聿からどうか心の支えを遠ざけないでやってほしい」

 

 湘子の言葉に、帝は頷き、膝を折ると縋ってきていた愛息子の両頬を手で包んだ。


「小聿の気持ち、湘子の願い、よくわかった。此度のことは、二人に免じて不問にふそう」


 父の言葉に、小聿は心底ほっとしたような顔をして、ありがとうございますと頭を下げた。そんな息子に、良かったのうと湘子は優しく語りかける。

 

「さぁ、皆を咎めるのはやめる故、お前はきちんと薬湯を飲んでゆっくり休みなさい。くれぐれも安静に。いいね?」


 父帝の言葉に小聿は頷き、太医令から器を受け取り残りの薬湯を飲む。

 

 では、あとは任せたよと両親は太医令や魔術省の長官、東宮・東の院の者たちに言うとそれぞれの場所へと戻っていった。


 目を覚ましてから、想像以上にたくさん話し疲れ果てた小聿は、その後すぐに眠りに落ちた。

 太医令の予測通りその日の深夜から小聿は高熱を出し、数日寝込んでしまったのは言うまでもない。


 第二皇子が現代魔術を無詠唱で行使したことは、魔法省で大変な騒ぎとなった。

 それだけ、五大精霊の力を無詠唱で行使するのは現代において大変なことだったのだ。

 魔法省長官で、小聿皇子の魔術の師である俵央茜は、何人たりとも無詠唱で五大精霊の魔術を行使してはならないと通達を出した。また、この件は皇宮内に留め、外部に一切漏らさぬよう緘口令が敷かれた。

 

 しばらくは月の皇子の力の件でざわめいていた魔法省もやがて収束し、誰もそれについて言及することは無くなった。――――いろどりの追憶・第一巻・百二十五頁


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