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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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父帝との穏やかなる刻(三)

彼は、器用にレンゲの上の小籠包に穴を開け中から出てきたスープをこくりと飲む。

 それから、しょうがやネギを上に乗せ、小さな口で少しずつ食べていく。

 そんな息子の様子を、舜棐は目を細めて眺める。


 「お前は、本当に何をさせても所作が上品だね」

 

 そう言ってくすくす笑う。

 その言葉に、小聿は少し照れくさそうに頬を染めた。

 ややあって、彼は兼ねてからの疑問を口にする。


 「先ほど父上は、かつて人は魔術のために精神力を自在に扱えた、と仰せでしたが……」

 「うん?」

 「かつてそうであったなら、鍛錬次第では、自在に魔術を扱うための精神力を宿すことは可能なのでしょうか」


 小聿の問いに、帝は目を瞬かせた。


 「ふむ……舜堯や彩恩のように鍛錬次第でなれるのかと言うことか……」

 

 その言葉に、小聿は苦笑いをする。

 流石に、建国の祖や建国の剣のようになどと大それたことは思いませんが……と小さく呟くと、ふふふと舜棐は小さく笑った。


 「無論、訓練次第ではある程度は可能だろう。現に、今お前に魔術を教えてくれいる者はそもそもの才があるだけでなく、若い頃から相当な鍛錬を積んできたそうだ」

 

 小聿の脳裏に、優しい魔術の師の顔が浮かんでは消えた。あの穏やかな師が積んできた鍛錬とはどのようなものなのだろうか。


 ――――鍛錬でどうにかなるなら、魔術のためにもより精神力をつけたいのだけれども。


 父の言う通り、彼は体が弱い。だからこそ、魔術を使うことで生命を脅かす可能性が大いにあるのだ。


 ――――これについては、今日の講義の時にでも尋ねてみよう。


 小聿は他にも兼ねてから抱いていた疑問を父に尋ねてみることにした。


 「そうすると、他の大陸の人々は普段から魔術のための精神の扱い方を訓練しているということでしょうか。聞くに、とある大陸では今でも人々が自在に魔術を扱うというではありませんか」

 「なるほど。鏡合わせの大陸の者たちか」

 

 父帝の言葉に小聿は頷く。

 鏡合わせの大陸とは、今彼らがいる星森の大陸とちょうど鏡合わせのように星森の申し子が創造した大陸である。しかし、そこにある大小様々な国の中には断絶状態の国もありその実態は掴みきれていない。そのため、彼らがどのように魔術を行使しているのかは現状わかっていない。ただ、向こうの大陸はこちらの大陸とは違い何らかの理由で人々は魔術を行使し続けてきた。だからこそ、聖国のように魔術が衰退していないのだという。

 

 ――――彼方の大陸の人々は、どのように魔術を使っているのだろう。彼らが脈々と魔術を行使し続けてきた理由は何なのだろうか。


 知らぬことに思いを馳せるのは楽しい。

 小聿は生まれてこの方、聖都はおろか、皇宮から一歩も外に出たことがない。だから、外の世界のことを人から聞き、書物を読んでは想像するしかない。真実はどうであれ、こうかもしれない、ああかもしれないとまだ見ぬ世界を、知らぬ世界を想像するだけで心が躍る。

 

 「確かにお前の言うとおり、向こうの大陸の者は我らとは違い人々が自在に魔術を扱うという。我が国とは間違いなく魔術の扱われ方が違うのだ……。聖国の多くの人々にとって、精霊のお力とは特殊な機構を通して限定的に使うものだ。例えば――――」

 

 そこまで言って、帝は控えていた侍従に部屋の明かりを消しなさいと命ずる。侍従がその命に従い、部屋の奥にある機構に触れるとふと部屋の明かりが消えて、部屋が薄暗くなる。その後、帝が戻すように言ったので、侍従が再び機構に触れると部屋が明るくなった。


 「風の精霊の力を灯に変える機構は、それにしか使えない。機構に触れることで、この周りにある風の精霊の力を使い明かりにするのだが……もはや、人々はこの明かりが精霊のお力を借りたものだということも意識せぬ。だが――――」

 

 帝は小さく息を吐き、小さく何かを呟きながら虚空を両の手で切るをように、印を組む。


 「風呼び」

 

 ふわり、と優しい風が小聿の顔に当たった。彼の絹のような漆黒の髪がサラサラと揺れる。心地よい風に、小聿はその紫色の瞳を細めた。


 「このように、精霊に力を借り受けるための呼びかけの言葉を唱え、それを示す印を組むことで直接精霊たちの力を自在に具現化する術もある。その際は、術者自身の気が必要となるわけだね。向こうの大陸の人々がどのような鍛錬をどの程度しているかはわからぬが、どうやら、特殊な魔具を使って精霊らの力を具現化するそうな」

 「特殊な魔具?」

 

 小聿の紫色の瞳をキラキラさせた。


 「父上は、その魔具をご覧になったことはあるのですか」

 

 わずかに身を乗り出して尋ねてくる息子を見て、舜棐は喉を鳴らした。


 「無論、あるよ。研究のために、魔術省にいくつか保管されているからね。宝石からできていて……たしか、『たりすまん』という名だったかな。ただ、その扱い方までは知らぬ。これはお前の魔術の師の方が詳しかろうよ」


 そうですか、と小聿は少し残念な思いでつぶやいた。

 

 ――――向こうの大陸の魔具や魔術の使い方を尋ねたら、教えてくれるだろうか。私が魔術を多用することで倒れるのではと魔術省の彼も心配なようだから……。

 

 そんなことを思いながら、彼は茶器に手を伸ばし、ゆっくりとお茶を飲む。

 父帝は春巻きを自分の皿に乗せ、同じように息子の皿にも乗せようとする。それを、小聿はもうお腹いっぱいですと言ってやんわりと断った。


 「ほとんど食べていないではないか」


 父の言葉に、小聿は首を傾げる。


 「そうでもありません。父上とわたくしでは体の大きさがずいぶん違います。当然食べる量も違います」

 「もちろん、それはわかっているが。それでも、兄や弟妹よりずいぶん食べていない。他の皆はもう少し食べるぞ」


 その指摘に小聿は困ったような顔をする。これでも彼にしては十分食べた方なのだ。


 「そんなに食べずにいるから、体も弱いままなのだ。しっかり食べて、しっかり眠る、大事なことだ」

 「そう言われましても……」


 本当にお腹がいっぱいなのです、というと帝はため息をついた。


 「では、せめて水菓子でも食べなさい。甘いものならもう少し食べられるだろう?」


 幾分強めに言われて、小聿は頷く。

 それを側で控えていた給仕が聞き、水菓子を盛った皿を捧げ持ってきた。


 「ちゃんと寝てもいるのだろうね?」


 父帝の痛い指摘に、小聿はぎくりと肩を震わせる。

 それを見逃す父ではない。


 「また、お前は本に夢中になって遅くまで起きているのだな?」

 「そんな、ことは……」


 と答えるも、紫の瞳は泳いでいる。

 

 「ほどほどにしなさいとあれほど言っているのに。そんなに夜更かしをするのならば、作ってあげた書庫は移築してしまうよ?」

 「それは困りますっ!」


 必死な顔で言う息子を見て、帝は声を立てて笑う。

 せっかく作ってもらった幸せな空間が消えてしまうなんて耐えられない!と小聿は思った。


 「本当に、お前というやつは……。母の湘子も相当な本好きではあるが、お前の方がそれを遥かに上回るな。読書が楽しいのは大変結構だが、眠りを削るのは良くない。体も強くならないし、大きくなれないよ?」

 「……はい。気をつけます……」


 小さくなって答える息子を見て、帝はさらに笑いを深めたのだった。


先ほどまでの憂鬱な気分はどこへやら。月の皇子は父帝との穏やかな時を心から楽しんだ。こうした時がこの先も続きますようにと心ひそかに願いながら――――いろどりの追憶・第一巻・七十頁

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