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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
月の皇子、徒桜とならん

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父帝との穏やかなる刻(二)

しばらく揺られると、やがて三人を乗せた馬車は本宮の車寄せに到着する。

 彼らが降りると、迎えの侍従たちが揃って揖礼をして見せる。

 侍従たちの案内に従って、三人は帝の待つ聖亮殿にたどり着いた。

 ここからは、小聿一人で行かねばならない。

 案内をしてくれた侍従たちに礼を言い二人の側近に頷いて見せると、小聿は扉の前まで来て長揖をし、中にいる人に声をかける。


 「父上。小聿、参りました」

 「お入りなさい」

 「はい」


 中から聞こえた言葉に応じて、小聿が顔をあげると扉の前に控えていた侍従がその戸を開けた。

 ふぅ、と短く息を吐くと、小聿は優雅な足取りで室内に入る。

 中に入ると、彼は再び最上の礼をする。


 「本日は、お誘いをいただき大変嬉しゅうございます、父上」

 「うん。よく来たね。堅い挨拶はやめよう。席につきなさい」

 「はい」


 父帝の言葉に返事をし、小聿は帝の隣に用意されていた席に着く。

 彼が席につくと、帝は優しく微笑んだ。


 「ああ、贈った髪飾りをつけてくれたのだね。お前やお前の母の瞳と同じ色の石でできているのだ。よく似合っている」


 その言葉に、小聿は過分なるお心遣い痛み入ります、大切に致します、と答える。


 「風邪はすっかり良くなったようでよかった。しばらく熱が続いていると太医令(たいいれい)から聞いていたから、心配していたんだ」

 「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。おかげさまで、もうすっかり良くなりました」


 小聿の言葉に、帝は頷く。


 「お前は、兄弟の中で最も体が弱いから心配だよ。それなのに、勉学にも鍛錬にも手を抜かないから……熱心なのはいいが、ほどほどにね」

 

 父の言葉に、小聿は困ったような顔をする。

 帝の言う通り、小聿は虚弱体質だ。すぐに熱を出して寝込んでしまう。この秋口も、10日ほど熱が上がったり下がったりで周りにずいぶん心配をかけた。


 「気をつけます」


 食事が運ばれてくる。

 今日の食事は、点心だった。給仕が蒸篭を開けると、ほわりと湯気がたちのぼり美しい点心が並ぶ。

 二人は、たわいのない話をしながら点心を食べる。


 「そういえば、夏頃からずいぶん熱心に魔術も学んでいるのだとか。剣や弓だけでは飽き足りぬか」


 父の言葉に、小聿はああと声をあげる。

 舜堯帝と源彩恩がこの聖国を建国したのち、とある事情で魔術は衰退してしまった。そのため、聖国では誰でも魔術を扱えるわけではない。学ぶ術は非常に限られている。現在、この国で魔術を学ぶとしたら、魔術学院に行くか聖国の最高学府である秀英院大学の魔術学部に行くか、実際に魔術を扱える者から直接教わるしかない。小聿は、東宮に魔術省の官僚に講師としてきてもらい、魔術の鍛錬をしている。

 

「魔術は、天地万物の創造主である申し子さまや精霊さまのお力をお借りする術。申し子さまや精霊さまを信ずる者としてそのお力を感じられる魔術は魅力的ですから」


 理由は他にもあるのだが、父が不安を覚えることのない答えのみを彼は口にする。

 帝はなおも続ける。


 「聞いたぞ。現代魔術だけでなく、古代魔術にも手を出しているそうではないか。魔術省の者が、もう手に負えないと嘆いていたぞ」

 「いにしえの魔術は、奥が深くて面白いのですよ。現代魔術の基礎であり、それを学ぶことで扱える術の幅も広がりますゆえ」

 

 にっこり笑って彼はいう。

 古代魔術とは創造主である星森の申し子の力を借りる魔術で、時間や空間に一時的に干渉する。 


 「お前のその知識欲には脱帽するよ」

 

 ふふふ、と小聿は笑う。

 

 ――――まさか、自分の身を守るために、あまり扱える人間がいない古代魔術にまで手を出している、とはいえまい。


 小聿が古代魔術を学び始めたのは、相手に手の内が読まれにくい手札を一枚でも多く持ちたいがためだ。


 「扱えるようになったものの中に、反重力の魔法陣を展開するものがあるのです。父上があつらえてくださった書庫の上の方の本を取るのに大変重宝しております」

 「これまた、独特な使い方を……。さような目的のために学んでいるとは、星森の申し子さまも驚いておいでだろう」

 

 小聿は小首を傾げた。


 「怒られてしまうでしょうか?」

 

 彼の言葉に父は笑った。


 「まぁ、力を悪用しなければ多少私欲のために使ってもお許しくださるだろうよ」

 

 父の言葉に、小聿はよかったと心底ホッとしたような顔をする。


 「父上は、魔術にはご興味はないのですか」

 

 蒸し餃子を小さな口で少しずつ食べながら、小聿は父に問う。

 父はそうだなぁと言ってパクリと一口で焼売を食べ、飲み込んで再び口を開いた。


 「現代魔術の基礎は知識としても学んでいるし、多少は扱える。お前も知っての通り、聖国皇家の始祖・舜堯は星森の申し子の末裔だと言われている。我らは申し子さまの血もこの身に宿しているのだ」

 

 父の言葉に小聿は頷き、胸に下げた聖印をそっと撫でた。それは、星森の申し子と五大精霊を人々が側に感じるために身につける物だ。小聿はその聖印を父から贈られ、以来、肌身離さず持っている。


 「聖国では魔術が衰退してきているとはいえ、申し子さまの血を受け継ぐ我らが魔術を扱えなくなるわけにはいかないからね……。だから、わたしも精霊たちの力は少しだけども扱える」


 彼はそう言って、小声で精霊への呼びかけのことばを唱え両手で印を結ぶ。


 「水呼び」


 最後にピッと右手の人差し指を空のグラスに差し向けると、グラスに水が注がれた。


 「けれど、本当に基礎の基礎であるし、複雑なものは扱えない。お前のように申し子さまのお力を借りる古代魔術までは……。それに、魔術を使うと精神力が削られて疲れてしまうからね。そう多用するものでもない」

 

 その言葉にそうですねと小聿は頷く。

 現代魔術にしても、古代魔術にしても、力を借りる対象が星の創造主たる星森の申し子か申し子に仕えた五大精霊であるかの違いだけで、魔術の根本はその術者の精神力だ。魔術を使えばその分、精神力は削られ、下手をすれば生命維持さえ危うくなる。小聿とてむやみやたらに魔術を使おうとは思わない。そこまで考えて、誰にでもなく言い訳を心の中で呟く。


 ――――上の方の本を取るのは、私にとってはとても大事なことだから。


 父は箸をのばし、自分の皿の上に置かれたレンゲに小籠包を乗せる。そして、息子のレンゲにも同じものを乗せた。ありがとうございます、と小聿が言うと父は優しく微笑んだ。


 「いにしえの人々は程度の差はあれ魔術のために精神力を自在に扱えたそうだ。けれど、それから千三百と幾年。人は不要な力や能力は自然と使わなくなり、やがてその使い方を忘れてしまう」

 

 残念な話ではあるけどね……と舜棐は言ってレンゲにそっと小籠包を乗せる。

 

「聖国の者の多くは魔術のために精神力を割く感覚を失ってしまったからね。現代に生きる我らが、魔術を使うとなると精神力を削りすぎてその命さえ危うくなってしまう」

 

 小籠包を一口でパクリと食べ、父は息子の紫の瞳をじっと見つめた。


 「だから、くれぐれも多用したり、高度な魔術を使ってはいけないよ。ただでさえ、お前は体が弱いのだから」


 その言葉に小聿は頷く。


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