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いろどりの追憶〜星森の大陸の生きとし生けるものの安寧を強く願った人々〜  作者: 裕邑月紫
星律の瞬き

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ムゥムゥ(二)


「まぁ、そうむくれるな、子斉。今日はお前に土産があるのだ」

「土産?」


 うん、と父――(ほう)伯朗(はくろう)は頷き側仕えに目配せすると、彼の側仕えは奥から小さな虫籠を持ってきた。

 

「虫?」

「いいや、もっと珍しいものだ」


 見てごらんと言われて子斉は促されるままに家人が持ってきた虫籠の中を覗き込む。


 見ると、中にはふわふわの丸い光り輝く玉が入っていた。だが、ただの玉ではないのは明らかだった。なぜなら、その玉は意思を持って動いているようなのだ。ふわふわキラキラ光るその玉は、ずいぶん元気がない。何かに怯えているようで、虫籠の隅で震えていた。震えるたびに、玉の周りに小さな光が飛び散って美しい。


 子斉がじっと見つめると視線を感じたのか、その玉が動いて――――


 目が、合った。


「うわぁぁぁぁ!?目が!目が合った!親父!なんだよこれ!?」


 大声をあげて、思わず飛び退る。

 子斉の声に驚いて、虫籠の中のほんのり緑がかった白い謎の玉は、さらに震えてキラキラと光を飛び散らせる。

 息子の派手な反応に、伯朗は声を立てて笑った。


「はっはっは!驚いたろう?そいつは滅多にお目にかかれないやつだぞ?」

「えぇ……?」


 子斉は再び恐る恐る虫籠に近寄って、中身を見る。

 少し緑がかった白い小さな玉は虫籠の隅でぶるぶる震えていた。


「生き物……なのか?」

「うーん、まぁ、生き物なのは確かだな。ただし、普通の生き物じゃない。そいつは精霊さまの召使さ」

「精霊さまの召使!?」

 

 子斉は目をまん丸にした。

 

「精霊さま……って……そんなの、昔々の大昔の話だろ?精霊さまなんてもういないんじゃないのか?その精霊さまの召使がまだ存在するとかあり得るのかよ?」


 この星が星森の申し子によって創造されたのは、幾星霜も昔の話。

 そして、その星森の申し子に連なる五大精霊(火・水・風・地・空)の存在も、もはや伝説の中の話だと思っていた。


 この聖国はその星森の申し子の末裔と呼ばれる舜堯(しゅんぎょう)帝により建国された国で、この星森大陸と一部の他大陸や島を治めるこの星の最大の国だ。だが、星森の申し子も五大精霊も、もはや信仰の対象であり、存在はしないと子斉は思っていた。


「何言ってるんだ、子斉。確かに、星森の申し子さまも五大精霊も俺たちの目には見えない。だが、この星には確かに申し子さまや五大精霊の力は宿っているんだ。だからこそ、そのお力を使って魔術を行使できるんだろう?」


 確かに、この星では精霊たちの力を借りて特別な力を行使する魔術が存在する。だが、魔術の使えない子斉にはどうもピンとこない話だった。

 子斉は再び、父が言う精霊さまの召使に視線をやる。

 

 このまん丸の頼りない存在が、精霊の召使だという。

 ふわふわホワホワしていて、怯えていて、頼りなげなそれが、精霊の召使だなんて信じ難かった。


「それで……その精霊さまの召使ってそんな簡単に捕まえられるものなのか?どこで親父は捕まえたんだ?」


 子斉の問いに伯朗は片眉を上げる。


「捕まえたとは失礼だな。保護したんだよ」

「保護?」

「ああ。今日は聖都内の警備の方に回っていてな。警備兵とともに西部を中心に回っていたらこの召使どのが、道端に転がってたんだよ。このままほっとくと車や馬車に轢かれるのは目に見えていたからな。慌てて保護したんだ。俺も初めはそいつがなんなのかわからなくてな……警備を終えて将軍院に戻ってから嶷陽殿(ぎようでん)(皇宮内の図書館)に行って調べたんだよ。それで、どうやらそれが精霊さまの召使どのだってことがわかったんだ」

 

 そう言って、伯朗が側仕えの者に再度目配せすると、何やら分厚い本を持って来させる。

 受け取った伯朗がパラパラと本のページをめくり、目的のページを見つけると子斉に差し出した。


「ムゥムゥ?」

「うむ。どうやら召使どのはムゥムゥという存在らしい。昔は星森大陸にもたくさんいたらしいが今はずいぶん数が減っている。それに、本来は我々人間には見えないらしい」

「じゃぁ、なんでこいつは俺たちに見えるんだよ?」

「傷ついて弱っているからじゃないかしら?」


 それまで黙っていた子斉の母が口を開いた。


「旦那さまはこの子が道端で転がっていたのを見つけたのでしょう?動けなくなっていたということは、姿を消すお力も使えないとか……」

「ふーん。で、こいつどうするんだよ。保護したっていうけど、どうやったら元気になるんだ?飯は何を食うんだ?元気になったらどうするんだ?うちで飼うのか?」

 

 矢継ぎ早に子斉が質問すると、伯朗は苦笑いをした。


「まぁ、そう一気に聞くな。本で調べてみたが、その点はよくわからなかった。俺も魔術やら精霊やらは門外漢だからな。本来は、魔術省や精霊さまに詳しい聖星森堂院(せいほしもりどういん)に問い合わせるべきなんだが、いかんせん今年の2月に長官たちが処罰を受けて、機能が停止しちまっててな」

「あー……なんだっけ。第二皇子を襲撃したんだっけ?」


 その辺のことはそれほど詳しくない子斉だが、大人たちの話をかいつまんで聞いてはいた。

 

 なんでも、今年の2月に聖星森堂院の長官や魔術省の長官たちが手を組んで、まだ幼い第二皇子を襲撃したらしい。彼らの襲撃は打ち破られ、将軍院にその身柄を確保されたのち、司法院によって裁かれたと聞いた。

 トップたちが急にいなくなり、未だ聖星森堂院と魔術省は機能が戻っていないらしい。


 大の大人がよってたかって幼い皇子を襲撃したと聞いた時には、子斉は皇宮とは恐ろしいところだなと思った。子斉は武官のそこそこいいところの息子だが、命を狙われるなどと言った経験はない。自分より幼い皇子が大人にその命を狙われて、一体どれほど恐ろしかっただろうかとまだ見ぬ皇子のことを思ったのだった。


 その後、第二皇子が母方の一条源家に臣籍降下したと言うニュースはしばらく聖国で大きな騒ぎとなったのは記憶に新しい。


「そうだ。だから、なかなか聞けるところがなくてな。秀英院の魔術学部か魔術大学院に問い合わせるにも伝手がないので困っとるのだ。とはいえ、放っておくわけにはいくまい。なるべく急いで情報収集するゆえ、今は良いと思うことをこのムゥムゥにしてやろう。子斉も何かアイディアがあったら言ってくれ」

 

 わかった、と頷き子斉は再びムゥムゥに視線をやる。

 

 目が合うと、光の玉は小さな声で「るぅるぅ」と頼りなげに鳴いた。


 とりあえず、思いつく食べられそうなものや水を用意し、虫籠よりも大きな箱を用意して、寝床やらを作ってやった。ムゥムゥは初めは、怯えた様子であったが、日が経つにつれて少しずつ子斉や苞家の人間のことを怯えなくなってきた。


 食べ物はいろいろ与えてはみるものの、食べる様子はみせない。それを皆で心配していたが、その心配をよそに次第に動きも大きくなって、みるからに元気になっている様子だった。

 

 

 そうして数日経つと、緑がかった白だったムゥムゥはまっ黒になった。初めは何かの病かと思ったが、色が変わった以外は特に問題がなく、あれほど元気がなかったのに今では随分元気になったのだった。それを見て、苞家の人間は皆喜んだという。ーーーーいろどりの追憶・第三巻・八十頁


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