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07.皇族の秘密2

 オリバーは羊皮紙をテーブルの上に広げた。


「まずはご婚約に際して、いくつかの守っていただきたい項目がございます」

「皇族として、ということですか……」

「はい。これは皇族との結婚の際には皆様が結ぶ条項です。簡単に言うと、『皇族の秘密を外部に漏らしてはいけない』ということが書かれています」


 シャルロッテは羊皮紙に書かれた文字をなぞる。

 オリバーの言うとおり、すべては皇族の秘密を守ることに繋がる内容だ。それは離婚しても同じ。離婚の場合には皇族に関する一部の記憶を消去する場合がある旨も書かれている。

 シャルロッテは苦笑を漏らした。


「なんだか、皇族にはすごい秘密があるように感じるのですが……」

「長い歴史を持つ一族です。秘密の一つや二つ抱えていてもおかしくはないでしょう?」


 秘密が大きければ大きいほど、隠すのに苦労するものだ。そして、そのために魔法契約を結んでいるのかもしれない。そこには絶対にこの秘密を外部に漏らさないぞという強い意思を感じた。


「結婚を取りやめるのであれば今しかありません。一度この契約を結んでしまえば、一生付き纏うことになります」


 オリバーの言葉にカタルの眉が跳ねた。


「おまえはどっちの味方だ?」

「私は公平な立場でここにいますよ。もちろん、アッシュに新しい母親ができることは望んでいますが、無理強いはいけません」


(アッシュ……息子の名前だっけ?)


「そういえば、アッシュ君はここにいないんですね」

「人見知りなので、基本別邸で暮らしています。契約が締結されたらお会いできますよ」


 オリバーは優しい顔でシャルロッテに微笑みかける。カタルとは違い、柔和な雰囲気に流されそうだ。


(うまい話には裏があるって言うけど……)


 シャルロッテはちらりと二人の顔を見た。

 笑顔を崩さないオリバーと、真面目な顔のままのカタル。二人の表情は対照的だ。

 秘密を漏らさない。皇族に関わった以上、その責任が一生付き纏う。その秘密を知ることになるのは、この契約が締結されたあとなのだろう。


(怪しい……とは思うのよね)


 前妻が健在なのに、わざわざ新しい妻を後妻に迎えようとしているのだ。しかも、継母としての役割を重要視している。

 怪しいとは思うのだが。

 シャルロッテはカタルの目をジッと見つめた。


「秘密を守って、アッシュ君の母親をこなせば、私の希望は叶えてくれるんですよね?」

「無論。誰のことも気にせず、犬でも猫でも好きなだけ飼えばいい」

「好きなだけ……」


(女は度胸! よね。こんな好条件な嫁ぎ先、この先見つからないわ!)


 シャルロッテはぐっと両手を握り締めた。

 悩んだって皇族の秘密がどのようなものなのかはわからない。ならば、飛び込んでみるしか、道は開かれないのだ。

 ハイリスクハイリターンと言うではないか。


「契約、結びましょう」

「そんなにあっさり決めてよろしいのですか?」

「はい。一日悩んでも、一年悩んでも変りませんから。私は皇族の秘密を守り、アッシュ君の新しい母親としての役割をこなします」


 シャルロッテがにっこりと笑うと、オリバーはペンで羊皮紙にサラサラと文言を書き銜えた。


「では、カタルは対価に動物を屋敷で飼うことを許可する。これでよろしいですか?」

「ああ」

「それでは、お二人の身体の一部をちょうだいします」


 オリバーがカタルに洒落たハサミを手渡す。銀製の細工が施されたハサミだ。それを使ってカタルは自身の髪の毛を数本切った。

 切った髪を羊皮紙の上にパラパラと撒く。

 カタルは「次はおまえだ」と言わんばかりに、無言でハサミをシャルロッテに手渡す。

 シャルロッテは彼に倣い、毛先をハサミで切った。シャリッと気持ちのいい音を立てて、シャルロッテのストロベリーブロンドが切られる。


「これより魔法契約を結びます。この契約は死を迎えるまで有効であることを肝に銘じてください」


 オリバーが小さな声で呪文を唱えると、テーブルの上に置かれた羊皮紙にメラメラと燃え始めた。カタルとシャルロッテの髪を飲み込んでいく。

 そして、あっと言う間に消えてしまった。

 その瞬間シャルロッテの手の甲に小さな印が現われる。親指大の小さなもので、複雑な模様が描かれていた。


「これは……?」

「契約の証のようなものです。すぐに消えますよ。もし、違反の意志を示した場合、この印が現われ警告します」

「へえ……」


 シャルロッテは手の甲の印を見つめた。最初は色濃く映っていたのに、段々と薄くなっていく。そして、シャルロッテの中に溶けていった。


「これからよろしく頼む。シャルロッテ・ベルテ嬢」

「はい。よろしくお願いします。カタル殿下」

「殿下は余計だ。私たちは婚約したのだから、カタルと」

「さすがにそれは……。カタル様で許してください。私のことはシャルロッテで構いませんので」


 シャルロッテが右手を差し出すと、カタルはその手を握った。弟のノエルよりも大きくゴツゴツとした大人の男の手だ。


「では、さっそくアッシュ君にご挨拶させてください」


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― 新着の感想 ―
普通は、前妻のこととか聞くと思うのは私だけか? 差し支えない範囲で、なんで離婚して子供を引き取ったのか、それにもかかわらず後妻を探しているのか確認しないか・・・?
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