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06.皇族の秘密1

 カタル・アロンソとシャルロッテ・ベルテの婚約は大きく新聞に取り上げられた。あの『冷酷悪魔』と『変人令嬢』の結婚だ。新聞が放っておくわけがない。

 シャルロッテがカタルの求婚を受け入れてから、アロンソ家とベルテ家で何度も話し合った結果、まずは婚約からという運びになった。

 求婚してすぐに嫁入りは外聞が悪すぎる。という話らしい。そして、結婚式の準備にも時間がかかる。一年は準備に時間を掛けたいと両親は主張した。

シャルロッテからすれば、結婚式など簡易的にして今すぐにでも構わないのだが。そして、カタルとしても今すぐ来てほしい様子だった。

 継母が早急にほしい理由があるのだろう。

 互いの希望や都合を話し合った結果、結婚自体は一年後とし、シャルロッテはいわゆる花嫁修業という名目でアロンソ家の屋敷に住むことになったのだ。


 カタルのエスコートで馬車を降りたシャルロッテは、思い出し肩を揺らした。

 彼が不思議そうに黄金の瞳を揺らす。


「どうした?」

「いえ、先日のことを少し思い出して」


 カタルはシャルロッテを早く妻に迎えるため、『こんなにも愛しているのに、一年も待てるわけがない』と真面目な顔で言ってのけたのだ。

 迫真の演技に、シャルロッテのほうが恥ずかしくなった。

 あの日はシャルロッテの人生の中でも一、二を争うほどの恥ずかしさだったのだ。カタルの手を取ったことを後悔しそうになるほどに。


 アロンソ公爵邸は王都の中心部にある。

 鉄製の大きな門。左右には二人の屈強な騎士が無表情で立っていた。何人たりとも入ることは許されない。そんな厳かな雰囲気すら感じる。

 門の奥は美しい庭園が広がっていた。


「今日からここで暮らす。シャルロッテ・ベルテ嬢だ。顔を覚えておくように」


 カタルが言うと、二人の騎士が伸びていた姿勢を更に正し、揃った声で「はっ」と短く返事をした。

 シャルロッテは慌てて頭を下げる。


「どうぞよろしくお願いいたします」


 それから、広い庭園を通り屋敷の中を案内された。

 迎えで現われた数十名の使用人たち。同じお仕着せに包まれ、同じ髪型で並ぶ彼らは人形のようで、見わけがつかない。

 使用人たちは興味深げに、しかしその好奇心を隠すような息遣いでシャルロッテを見た。

 カタルはそんな雰囲気をものともせず、静かに言った。


「シャルロッテ・ベルテ嬢はまだ婚約者という立場だが、一年後にはここの女主人となる。そのことを肝に銘じておけ」


 鋭い目でカタルが使用人たちを睨むように見ると、全員が深々と頭を下げた。

 シャルロッテは虎の威を借る狐のような気分で、笑みを浮かべる。シャルロッテはしがない伯爵家の娘。しかも社交界では『変人令嬢』なんて呼ばれている娘が皇族の一員になる。最悪使用人たちに苛められて涙をのむ展開を想像していたのだが、カタルのお陰で回避できそうだ。

 カタルは使用人の中から二人の女性を呼び出した。


「今日から君の世話を任せている。メイシーとカリンだ」


 細くて背が高く、真面目な顔つきの女性と、小柄で愛想笑いを浮かべる女性がシャルロッテの前で頭を下げる。

 背の高いほうがメイシーで、小さいほうがカリン。メイシーは十代のころからカタルの側に仕えるベテランメイドで、カリンは一年前に入ったばかりの新人らしい。

 年はどちらもシャルロッテと変らないように見える。二十代中盤くらいだろうか。

 他にも重要な役職につく使用人を数名紹介され、脳が爆発しそうだった。記憶力は悪いほうではないが、一気に名前を言われると、社交デビューをするために貴族名簿を何度も暗唱させられた日を思い出す。


「使用人は人数が多いから、まとめ役だけ覚えておけばいい。何かあればまとめ役が対処する」

「なるほど。人が多いと組織設計も大変ですね」

「ベルテ家はそうではないのか?」

「広い屋敷ではありませんから、大抵のことは執事が対応してくれます」


 困ったことがあればみんな執事に相談していた。それでどうにかなるほど、ベルテ家は広くなかったし使用人の数が少なかったのだ。

 この広さの管理となると、人が多く執事一人でまとめるのが難しいのも頷ける。


「そうか。ここでの対応の仕方は少しずつ慣れてくれればいい。君に任せたいのは、使用人の采配ではないからな」


 カタルはシャルロッテを応接室に案内しながら言った。

 応接室の中には既に一人の男が待っていたようだ。カタルとシャルロッテを見つけると、彼はソファから立ち上がり、頭を下げる。

 右側で束ねた長い白銀の髪が尾のように揺れる。


「初めまして。私はオリバー・エレンダと申します」


 オリバーと名乗った男が眼鏡の奥で目を細めて笑う。シャルロッテは頭の中でその名前を反芻したあと、慌てて頭を下げた。

 オリバー・エレンダ。名前だけは聞いたことがある。皇帝の従兄弟であり、帝国屈指の魔法使いだ。


「初めてお目にかかります。シャルロッテ・ベルテです」


 社交場にもほとんど顔を出さない彼は、幻のように扱われる。カタルが男性らしい引き締まった体躯ならば、オリバーは中性的で細身だった。


「今日は魔法契約を結ぶために参りました。よろしくお願いします」


(そういえば、そんなこと言ってたっけ)


 お互いの条件を守るために結ぶ契約だ。普通ならば書面で残しておくだけなのだが、皇族は魔法を使って契約を結ぶ。


「ではカタルもシャルロッテ嬢もおかけになってください。まずは条件の確認からいたしましょう」


 オリバーは人のよさそうな笑みを浮かべ、カタルとシャルロッテをソファに促した。


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