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46.カタルの気遣い

 シャルロッテはオリバーの言葉に目を瞬かせる。

 どういう意味だろうか。


「こんな風に親身になってもらえることはなかなかありません」

「そうなんですか?」

「みんなにフォローはしてもらいましたが、『とにかく慣れろ!』という感じで。私は最初、不安でしかたありませんでした」

「結構スパルタなんですね」


 狼獣人の血を引く皇族たちは、アッシュのように人間の姿が定着するまでの幼少期はほとんど表に出ずに過ごす。

 そこから人間たちの前に出るようになるそうだ。


「だから、安心してください。なんなら、無理に連れ出しても大丈夫ですよ」

「それはちょっと……」

「私なんて、姉に無理やり首根っこつかまれて、大変でした」

「そうなんですか!?」

「はい。それくらいしても、いいんですよ」


 オリバーはカラカラと笑った。

 オリバーの姉にはまだ会ったことがない。オリバーを女性にしたような人を想像していたから驚きだ。

 狼獣人同士だからこその勢いなのだろう。


(さすがにそんな無茶は私にはできないなぁ)


 カタルが落ち着いていたのも、自身の経験があったからなのかもしれない。


「あまり悩んでいると、アッシュが心配しますよ」

「そうですね! ありがとうございます。今日もアッシュのことをお願いします」

「今日は少し注意して見ておきましょう」


 シャルロッテはオリバーに頭を下げた。

 オリバーは大きく頷くと微笑む。シャルロッテは別邸に消えていくオリバーを見送った。


(そうは言っても、何もしないわけにはいかないよね)


 シャルロッテが大きなため息を吐いていると、肩を叩かれた。


「おい」

「ひゃっ!」


 びくりと肩が跳ねる。振り返ると、カタルが険しい顔で立っていた。


「カタル様!? どうしたんですか!?」

「ここは私の屋敷だ。どうしたも何もないだろう?」

「そうなんですけど、いつもはお仕事中だからびっくりしちゃいました」


 シャルロッテは取り繕うように笑顔を見せた。

 まだ心臓が騒がしい。


「少しいいか?」

「はい」


 カタルはそれだけ言うと、シャルロッテに背を向ける。

 ついてこいという意味なのだろう。

 相変わらず言葉数が少なくてわかりにくい。

 シャルロッテは苦笑を浮かべて後ろを追いかけた。


 連れてこられたのは、カタルの執務室だ。

 防音の魔法がかかっていて、外に声が聞こえないため、秘密の話にはもってこいの場所だった。

 カタルがソファに座る。シャルロッテは話を聞くために、向かいに座った。


「昨日のメイドたちは減給処分と、再教育で手を打った」


(なんだ。業務報告か)


 シャルロッテはホッと安堵のため息をついた。実のところ、昨日のことを怒られるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。

 もっとうまく対処できていたのではないか。


「次はもっと気をつけます」

「気をつける? 何をだ?」


 カタルは不思議そうに首を傾げた。

 咎めているという雰囲気は感じられない。心底意味がわからない。そういう表情だ。


「もっと素早くアッシュを守れるように……ですかね?」

「アッシュの耳は誰にも見られてないんだろう?」

「それはもちろんです!」


 あの時、アッシュの表情を見た瞬間、すぐにわかった。このままだと耳が生えてしまうと。

 だからすぐにストールを被せたのだ。


「なら、君の対応は満点じゃないか」

「え?」

「君はアッシュの危機を。いや、大きく言えば皇族の危機を救った。君が毎日アッシュを見ていたからできたことだ」


 シャルロッテはぽかんと口を開けてカタルを見つめる。

 怒られることはあっても、褒められることは想像もしていなかった。

 何も言わないシャルロッテを見かねてか、カタルはゴホンッと咳払いを一つした。


「あの子は皇族の一員だ。安全な道を歩いていても意味はない。だから、あまり思い詰めるな」


 シャルロッテは何度も目を瞬かせる。


「もしかして、慰めてくれているんですか?」

「そういうわけじゃない。だが、君が悩んでいると、アッシュも元気がなくなる。それだけだ」


 シャルロッテは肩を揺らして笑った。


(それを一般的には慰めてるって言うんだけど……)


 そんなことを言ったら、彼の機嫌が悪くなりそうだ。シャルロッテは敢えて黙っていることにした。


「そうだ! カタル様はどうだったんですか?」

「どう、とは?」

「子どものころです。初めて外に出たとき、どうでした?」


 オリバーから詳しく話を聞きたかったが、誰が聞いているのかわからない。だから、きちんの聞けなかったのだ。

 ここは防音されている部屋だ。獣人の話を聞いても問題ないだろう。


「私は母に早く会いたくて必死だった」

「お母様に? ……そっか。耳と尻尾が隠せないとあまり会えないんでしたよね」

「そうだ。君みたいな物好きはそうそういないからな」

「みんな損をしてますよね。あんなにほわほわで可愛いのに」


 アッシュの生まれたてに会えなかったのが残念に思うほどだ。


「オリバー様はお姉様に無理やり連れ出されたと言っていました」

「ああ、そうらしいな」

「想像するとなんだか可愛いですね」


 カタルとオリバーはどんな子どもだったのだろうか。

 興味が湧いてくる。


(きっとアッシュみたいに、ふわふわで可愛かったんだろうなぁ~)


 シャルロッテは想像して頬を緩めた。

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