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【書籍化】狼皇子の継母になった私の幸せもふもふ家族計画  作者: たちばな立花


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42/60

42.ぜーんぶ好き

 子犬ほどの大きさではあるが、子どもの狼だ。黒のふわふわの毛が愛らしい。

 彼はキラキラした青い目をシャルロッテに向けた。

 シャルロッテは破顔する。


「きゃ〜。アッシュは今日も可愛いね。毛並みも最高!」

「キャンッ」


 元気な返事が返ってきて、シャルロッテは目を細めた。

 これこそ、シャルロッテが動物を飼う必要がなくなった理由だ。

 可愛い息子は狼獣人の血を引いている。

 わざわざ犬や猫を飼う必要はない。

 それどころか、この子を可愛がるので時間がいくらあっても足りないのだ。犬や猫を飼っている暇などないだろう。

 シャルロッテはアッシュの頭から背にかけて撫でる。

 柔らかなふわふわの毛。

 この手触りが最高なのだ。

 アッシュがゴロンと転がり腹を見せる。

 シャルロッテは顔を埋めたい気持ちを抑えて、両手で撫で回した。


「また狼に戻っているのか?」


 落ち着いた声が降ってきて、シャルロッテは顔を上げた。別邸の扉の前に立っていたのは、未来の夫であり、アッシュの父親でもあるカタル・アロンソだ。


「キャンッ」


 アッシュは元気よく返事をすると、立ち上がりカタルの周りをぐるぐる回る。

 カタルが来て嬉しいのだろう。

 カタルはアッシュを抱き上げた。


「またシャルロッテにサービスしていたのか?」

「キャンッ!」


 カタルの問いにアッシュは元気よく答える。

 アッシュはカタルの腕の中で人間に戻った。シャルロッテは慌てて脱げてしまった服を渡す。

 服を着直したアッシュは、頬を染めて嬉しそうに言う。


「ママ、もふもふ、好き」


 アッシュは狼獣人だ。人間と獣人と狼の三つの姿を持っている。

 出会った三ヶ月前は人間の姿になることもできず、部屋の隅でプルプルと震えている子だった。しかし、今では三つの姿を自在に選ぶことができるようにまで成長している。

 ニカーナ帝国では獣人は忌避される存在。皇族が実は狼獣人の血を引いているなどと知られれば、国を揺るがす大問題になりかねない。

 だから、アッシュを含め皇族たちは幼いころから人間の姿でいることを学ぶ。

 そして人間として生きるのだ。


「私はもふもふ以外のアッシュも、ぜーんぶ好きだよ」

「ほんと?」

「もちろん」


 シャルロッテはカタルに抱かれたアッシュの頭を撫でる。

 アッシュは嬉しそうに目を細めた。

 アッシュの狼の姿は特別だ。人として生きる中で、本当は隠しておかなければならない姿。それをわざわざ見せてくれるのは、シャルロッテがアッシュの狼の姿を気に入っていると、知っているからだろう。

 狼の姿は愛らしく、撫でていると幸せになれる。しかし、人間の姿のアッシュと一緒にいるときも同じくらいシャルロッテを幸せにしてくれた。

 シャルロッテはカタルを見上げて頭を下げる。


「カタル様。ただいま帰りました」

「ああ、おかえり。久しぶりの実家はどうだった? 君の弟は怒っていなかった?」

「カンカンでした」


 カタルはアッシュを抱いたまま、別邸の奥へと進んだ。

 シャルロッテもその横を歩く。


「カンカン?」


 不思議そうにアッシュは首を傾げる。

 最近は知らない言葉を耳するたびに興味を示す。彼が少しずつ成長している証拠なのだろう。


「怒っているっていう意味よ」

「おこ。ママ、だいじょーぶ?」

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

「危険なのはシャルロッテよりも私だろう」


 カタルが真面目な顔で言う。

 シャルロッテは苦笑を漏らした。

 たしかに、ノエルの殺意はカタルに向けられているのだろう。ノエルにとってカタルはいまだ『冷酷悪魔』のままだから。

 その誤解を解くのは少し難しい。

 誤解を解くためには、皇族の秘密から話さなければならないからだ。しかし、そうはいかない。


(いつか、ノエルもわかってくれたらいいけど……)


 いくらシャルロッテが「いい人だ」と言っても、彼は聞く耳を持たなかった。シャルロッテのほうが「姉さんは騙されているんだ!」と説得される始末。当分、二人の溝は埋まらないだろう。


「パパ、あぶない?」


 アッシュが心配そうにカタルを見上げる。

 カタルは小さく笑った。


「パパは強い。だから平気だ」

「よかたぁ」


 アッシュは顔を綻ばせ、安堵の表情を見せた。

 こんな風にコロコロと表情が変わる様子を見るのは幸せだ。初めて会った時は、不安そうな顔ばかりだったから。

 カタルは一階のサロンにつくと、ソファに腰かけた。

 ここに来たということは何かしらの話があるということなのだろう。

 シャルロッテは彼の話が聞きやすいように、彼の向かい側に座った。

 アッシュも何かあると感じているのだろう。カタルの膝の上で背筋を伸ばし、カタルを見上げた。


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