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41.過保護な弟

久しぶりの更新です。

よろしくお願いします。

 帝都郊外にあるベルテ伯爵家は、今日も穏やかだ。優しい風がそよぎ、木々を揺らす。

 シャルロッテはベルテ家の一室で、紅茶を飲んだ。


「元気そうでよかったわ」


 向かいに座る母が、嬉しそうに目を細めて言った。父も母の隣で笑顔で頷く。


「便りがないのは元気な証拠というけれど、もう少し連絡がほしいわね」

「お母様、ごめんなさい。本当はすぐ手紙を送ろうと思っていたんだけど」


 シャルロッテは誤魔化すように笑った。

 母は小さくため息をつく。


「あなたは夢中になると一直線になるところがあるものね……」


 すると、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。足音が止まると同時に勢いよく扉が開く。

 シャルロッテと同じ癖のあるストロベリーブロンド乱して現れたノエルに、シャルロッテだけではなく両親も目を丸くした。


「姉さんっ!」

「ノエル、どうしたの? そんなに急いで」

「姉さんが帰ってきたって聞いて、慌てて来たんだよ!」


 シャルロッテの弟――ノエルはゼエゼエと息を切らして言った。


「そんなに焦らなくてもよかったのに」

「そういうわけにはいかないだろ!? それで、あの男にひどい目にあって逃げ帰ってきたとか!? それとも追い出された!?」


 シャルロッテは苦笑した。ノエルはほんの少し、いやとても早とちりをしているからだ。


「ノエル、落ち着いて。カタル様は噂みたいにひどい人じゃないから」


 シャルロッテはノエルを落ち着かせるために、何度もノエルの肩を叩いた。


「カ、カタル様……!? 姉さん、あの男のこと、そんなふうに呼んでるの!?」

「まあ……。一応、婚約者だし」


 ノエルは顔を真っ青し、フラフラと力なくシャルロッテから離れていった。


「突然の求婚を受け入れたと思ったら、誘拐されるみたいに連れて行かれて。連絡すら貰えず三ヶ月……。僕は姉さんをずっと心配してたんだよ?」

「あはは。ごめんね。いろいろあったのよ」


 そう、この三ヶ月、シャルロッテにはいろいろあった。

 それは語り尽くせないほどいろいろと。

 しかし、想像力が豊かすぎるノエルは悪いほうにいろいろ考えてしまったようだ。

 青い顔をさらに青くしてシャルロッテを見つめる。


「皇弟妃になるための花嫁修業なんて、実は嘘なんだろ?」

「え……?」

「姉さんはあの男に、馬車馬のように働かされてたんだろ!?」


 ノエルは目に涙を貯めて言った。

 どこからそんな妄想が降ってくるのか。シャルロッテは苦笑を浮かべる。


「ぜんぜん! そんなことなく楽しく生活してたわ! だから安心して」

「……姉さん、飼いたかったって言ってた……動物は?」


 ノエルが遠慮気味にぎこちなく尋ねた。

 複雑な歴史から、このニカーナ帝国では動物が嫌われている。

 そんな帝国で、シャルロッテはおそらく唯一動物を愛する帝国民と言っても過言ではないだろう。

 両親やノエルも、シャルロッテのちょっと変わった趣味を理解はしていても、賛同しているわけではない。やはり、彼らにとって動物は忌避すべきもののようだ。

「犬や猫を屋敷の中で飼って一緒に暮らしたい」という条件を持って、シャルロッテは皇弟のカタル・アロンソと婚約した。

「その希望が叶えられているのか?」と、ノエルは聞いているのだろう。

 シャルロッテはヘラっと笑った。


「ん〜。まだ飼ってないんだけど、もういいかなって」

「え……!?」


 ノエルは驚きに目を丸くする。

 同時に両親も驚きを隠せなかったのか、目を見開いていた。


「姉さん、ずっと犬とか猫とか飼いたいって言ってたのに!?」

「そうなんだけど、今が幸せだからどうでもよくなっちゃったの」


 シャルロッテはずっと夢見ていた。犬や猫と一緒に生活するという暮らし。

 朝めが覚めたら腕の中にもふもふがいる。そんな豊かな暮らしだ。

 ノエルの顔が見たこともないくらい青くなる。


「ね、ね、姉さんが……。姉さんがあの男のせいでおかしくなった……!」


 ベルテ家にノエルの叫び声が響き渡る。

 ある晴れた日の昼下がりのことだった。


 ◇◆◇


 シャルロッテが動物を飼うという夢が必要なくなったのには、理由がある。

 正確には半分叶ったから。が、正解だろうか。

 シャルロッテは、アロンソ邸の別邸の扉を潜った。


「ママ〜」


 元気よく息子のアッシュが駆け寄ってくる。

 正確には、彼はシャルロッテの継子になる予定だ。無事に結婚準備期間を終えたあとの話になるため、今の関係は正式に何とは言い難い。

 しかし、シャルロッテにとってはもうすでに息子だった。

 シャルロッテは飛びついてきたアッシュを抱き止める。

 サラサラの黒い髪が揺れた。


「アッシュ、ただいま」


 アッシュはシャルロッテを見上げ、大きな目を瞬かせた。

 吸い込まれそうなほど綺麗な青の瞳に、シャルロッテを映す。


「ママ、遠く?」


 彼はそう言うともう一度シャルロッテに抱きつく。


「もしかして、匂いが違ったのかな? 今日はママの実家に行ってきたの」

「じっか?」

「生まれたおうちだよ。ママのパパとママと弟がいるの」

「ママの、パパとママ?」


 アッシュは目を輝かせる。


「あいたい!」

「そうだね。今度は一緒に行こうね」


 シャルロッテはアッシュの頭を撫でる。

 アッシュは嬉しそうに目を細めたあと、子狼に変化した。

『狼皇子の継母になった私の幸せもふもふ家族計画』の1巻が9月13日ごろ発売です。

加筆修正たっぷりさせていただきました!

web版にはないアッシュ視点が追加されていたり、読み応えたっぷりなので書籍もチェックしてみてください♡

保志あかり先生が描いてくれた表紙や挿絵も、とても可愛い&かっこいいのでぜひ見てみてください。

下にamazonのリンクを貼ってあります。

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