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29.おそろい

 ただ座って適当に時間を潰しているかと思ったが、きちんと考えていたようだ。ドレスサロンの店員も、「それはいいですね!」と感嘆の声を上げている。シャルロッテが選んでいるときよりも反応がいい。

 なんだか複雑な気分だ。


「私が選ぶより、全部カタル様にお願いしたほうがいい気がしてきました」


 シャルロッテは逃げるように、展示品を眺める。一着どころか二着、三着と決まっていく中、シャルロッテはスカーフを一枚購入した。

 結局、シャルロッテがどうにか二着を選び、カタルが三着のドレスを追加して買い物を終えた。

 シャルロッテは馬車の中で息を吐き出す。


「一生分の買い物をした気分です」


 結局、今日使った金額はわからなかった。しかし、シャルロッテがベルテ家で買っていたドレスの代金を遥かに凌ぐことはわかっている。

 こういう店は毎月決まった日に請求が来るのだと聞いて、シャルロッテは目を丸くした。


「今日は買い物に付き合っていただき、ありがとうございます」

「これで、『変人令嬢』の噂は払拭できそうか?」

「それは無理ですよ。でも、『変人令嬢』でも貰い手が本当にあったのだとみんな信じてくれたかと思います」


 シャルロッテは満面の笑みをカタルに向けた。

 動物好きの『変人令嬢』というあだ名を嫌だと思ったこともある。動物が好きなことがなぜいけないのか、シャルロッテにはわからなかった。

 人間の生活には動物が密接に関わっている。馬車を引くのは馬だ。その馬の世話をする人だっている。

 毎日のように飲む牛乳は牛の乳だ。動物の肉も食べる。熊の毛皮を絨毯にする人だっているのだ。

 それなのに、どうして動物を可愛がってはいけないのか。


(もしかしたら、昔の皇族は完璧主義だったのかも)


 人間を守るために、獣人はおそろしいということを忘れさせないために、身近な動物を嫌悪させるように仕向けたのかもしれない。

 人間は簡単に痛みを忘れる。自分で負っていない痛みなら尚更だ。


「君は本当に変わっているな」

「そうですか?」


 カタルは窓の外を見ながら小さな声で「ああ」と言った。彼はそれ以上何も言わない。シャルロッテも何も言わず、彼と同じように街並みを見た。





 屋敷に着いてすぐ、シャルロッテは別邸へと向かった。シャルロッテのドレスはこれから制作に入るため、荷物はアッシュの分しかない。


「カタル様も荷物を運ぶのを手伝ってください!」


 シャルロッテがそう言うと、彼は渋々両手に荷物を抱えてシャルロッテの後をついて来た。別邸に入れるのはシャルロッテとカタル、そしてオリバーだけだ。

 もし、カタルが断った場合、シャルロッテが何度も往復することになる。彼はそれを理解して手伝ってくれる気になったのだろう。

 もしかしたら、アッシュと関わる理由が欲しかったのかもしれない。こればかりは、真相は闇の中ではあるが。

 本邸と別邸を隔てる大きな扉を開けると、アッシュがシャルロッテの足に飛びついた。


「ママッ!」


 完璧な人間の姿になっている。

 シャルロッテは荷物を置いて、床に膝をついてアッシュに目線を合わせた。


「あれ!? 私の大好きなお耳がないわ!」


 シャルロッテは目を見開き大袈裟に驚いて見せた。アッシュは少し恥ずかしそうに「えへへ」と笑うのだ。


「すごいね。お耳、隠せるようになったの?」

「うんっ!」


 アッシュは嬉しそうに三角耳があった部分を撫でる。


「一所懸命頑張ったんだね」

「うんっ! ママとおそろい」


 アッシュはシャルロッテの頭を撫でる。耳がないのが一緒だと言いたいのだろう。彼は嬉しそうに笑う。健気な彼の気持ちにギュッと胸が締めつけられた。

 アッシュはまだ、シャルロッテと違うことが気がかりなのだろう。


「そうだ! 今日はとっても頑張ってるアッシュために、パパとお洋服を買ってきたの!」

「ふく?」

「そう、アッシュが着る服だよ」


 シャルロッテはカタルから荷物を受け取ると、服を一着取り出した。


「ほら、これ。パパがアッシュのために選んだんだよ」

「これ、アッシュの?」

「そうだよ~! どうかな?」


 よく見えるように広げると、アッシュは目を輝かせた。洋服とシャルロッテ、そしてカタルを順番に見る。


「気に入った?」


 シャルロッテが問うと、ふくふくと頬を赤く染めて小さく頷く。相当嬉しかったのだろう。その反応が愛らしく、シャルロッテの頬が幸せで落ちてしまいそうだった。

 アッシュはピンクのリボンタイを指差して、嬉しそうに笑う。


「ママと一緒」

「これが?」


 シャルロッテの服にはリボンタイはない。シャルロッテは意味もわからず首を傾げていると、アッシュがシャルロッテの髪を優しく掴んだ。


「あっ! ママの髪の色とお揃いなんだね!」

「うんっ! アッシュ、好き」


 恥ずかしそうに言うアッシュに、シャルロッテの胸はいっぱいだ。アッシュはカタルを見上げた。そして、おずおずといった様子で口を開く。


「パパ、ありがと……」


 緊張しているのか、声が小さい。アッシュにとっては勇気を振り絞ったのだろう。カタルの眉間に薄く皺ができた。


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