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27.ショッピング1

 次の日、シャルロッテとカタルは二人で馬車に乗った。シャルロッテは馭者に行先を告げ、商業地区へと向かう。


(馬車に乗るのは久しぶり)


 揺れに合わせて左右に振られる。向かいに座るカタルは何でもない顔をしていた。こうやって二人で馬車に乗るのは、アロンソ邸に来た時以来だ。

 ずっと彼の顔を眺めていたら、何か言われかねないと思いシャルロッテは窓の外に目をやった。

 変化していく街並み。アロンソ邸は王都の中心部にある。皇族、しかも皇帝の弟という身分なのだから、城の近くに屋敷を構えるのは普通のことだろう。

 綺麗な屋敷を通り過ぎる。それだけでわくわくした。


「アッシュが見たら感動しちゃいますね!」


 シャルロッテはカタルに声を掛ける。窓にへばりつくアッシュの姿は容易に想像できた。カタルはちらりと窓の外を見て、「どうだろうな」と呟く。


「ずっと狭い部屋にいるんです。絶対興奮しますよ」

「君は息子のことになると我を忘れるようだ」

「あんなにかわいい子を前にしたら、誰だって我を忘れますって」


 アッシュはかわいい。誰が見てもそう思うだろう。素直で優しく愛らしいのだ。カタルはアッシュとあまり関わってこなかったから、その愛らしさがわかっていないのだろう。

 狼になったときのふわふわとした毛。全身で愛情を示してくれるのだ。青い瞳はキラキラと輝いている。


(そういえば、カタル様の瞳は黄金なのよね)


 あの青の瞳は母親ゆずりだろうか。黄金の瞳も綺麗だ。なかなかこの色の瞳はお目にかかれない。シャルロッテは誘惑に負けてカタルの瞳をまじまじと見つめた。


「君はこわくないのか?」

「こわい?」


 不意な質問に、シャルロッテはオウムのように繰り返しながら首を傾げた。

 何をこわがる必要があるのだろうか。


「……動物とは違う」


 カタルが低い声で言った。


(ああ、そういうことね)


 カタルは「獣人がこわいとは思わないのか?」と聞きたいのだろう。ニカーナ帝国では獣人は絶対悪として教えられる。動物が好きとは違う次元だと言いたいのだろう。


「アッシュはアッシュだし、カタル様はカタル様でしょう?」

「だが、君とは違う」

「違ってもいいじゃないですか。アッシュもカタル様も、そしてオリバー様も優しいのは知っていますし」


 一緒に暮らして彼らの優しさに触れていれば、こわがるほうが難しい。獣人は凶暴で、人間を虐げてきた。しかし、シャルロッテの知る三人の獣人はみんな、シャルロッテを虐げるようなことはしない。

 カタルもなんだかんだ言って、シャルロッテのことを気遣っているのだ。いつもこわい顔をしているが、優しい心を持っているのがわかる。

 カタルは小さなため息を吐いた。


「君は本当に変わっているな」

「その変わっているは褒め言葉として受け取っていいですか?」


 シャルロッテは「えへへ」と笑った。


「カタル様はもう少しにっこりしたほうが、こわくないと思います」


 シャルロッテは両手で自分の口角を持ち上げる。彼はいつも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。怒っているとか、そういう問題ではない。彼がいるだけで空気が張り詰めるのだ。

 それでは、周りも不安になるだろう。


「こういう顔だ」

「少し笑うだけで印象も変わるのに~」

「……うるさい」


 そうこうしているうちに、馬車は目的地に到着した。

 馬車を降りてカタルは顔を引きつらせる。看板を見て、目的を理解したのだろう。


「どういうことだ?」

「もちろん、今日は二人でアッシュのお洋服を選びに来たのでしょう?」


 シャルロッテは何食わぬ顔で子ども服専門のブティックへと入っていった。

 店内にはたくさんの子ども服が展示されている。ここが一番人気の店だと雑誌で読んだことがあったのだ。


「アロンソ公爵、ベルテ伯爵令嬢もようこそお越しくださいました」


 店主らしい女性が慌てた様子で挨拶をする。カタルの顔を知らない人はいない。なにせ、新聞の一面に何度も載っている顔だ。あまりに載りすぎて、ふだん新聞を買わない貧民でも知っているだろう。

 先日は「あの『冷酷悪魔』が『変人令嬢』と再婚!」という見出しで一面に載っていた。知らないというほうがおかしい。


「実は息子の服を買いに着たのです」

「まあ! アッシュ殿下はどちらに?」

「それが、人見知りをしてしまって。今日は家に。サイズは持って来た服を参考にしていただけると助かります」


 シャルロッテは荷物の中からアッシュの服を一着差し出した。尻尾が出ない数少ない服だ。


「このサイズと同じですと、こちらのカタログが対象ですね。子どもはすぐに成長しますので、もうワンサイズ大きいのを購入するのもよろしいかと思います」

「そうですよね。じゃあ、こっちのカタログも借りますね。カタル様、どれがアッシュに似合うと思いますか?」


 シャルロッテは二つのカタログのうちの一冊をカタルに手渡した。


(こうやって少しずつ、アッシュに関わる時間が増えれば、カタル様もアッシュに自然に接することができるはずよ)


「服のことはよくわからない。君が全部選ぶといい」

「だめですよ! カタル様も選んでください。アッシュもパパが選んだ服だと言ったら喜ぶと思います」

「誰が選んでも一緒だろう」

「そんなことはありません。一着でいいので、ね?」


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