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18.怪我の功名?3

 シャルロッテはアッシュの身体をガウンで包み込むと抱きしめた。


「私はどこにもいかないよ。大丈夫」


 何度も何度もアッシュの頭を撫でる。ふわふわではないけれど、やわらかなアッシュグレーの髪は心地いい。ついでに耳も撫でてしまおう。

 アッシュは大きな青い瞳に大粒の涙を溜めてシャルロッテを見上げた。


「アッシュ、いいこ……なるから……」

「アッシュはもういい子だよ」


 ぽろぽろと涙が流れる。拭っても拭っても涙が零れ続けた。

 彼はシャルロッテの服を握って離さない。シャルロッテは困ったようにカタルを見上げた。

 カタルはずっとシャルロッテの側でアッシュを見つめている。一言も口にはしていない。息子が人間に初めて変化した瞬間だというのに、感動の言葉もないものだろうか。


「カタル様」


 シャルロッテが声を掛けると、彼の肩がびくりと跳ねる。


「あ、ああ。なんだ?」

「今日はこのままアッシュと一緒にいようと思うのですが、いいですか?」


 ちょうどシャルロッテの服は寝間着だ。まだ昼ではあるが、安静にしていろと言われている。

 しかし、ここならば大きなベッドもあるし、問題ないように思えた。

 カタルは眉を寄せ、しばし逡巡したのち頷く。


「安静にしていろ」

「もちろんです! ここで、アッシュと安静にしているので安心してください!」

「……わかった。私は執務が残っている。あとは好きにしろ」


 彼は冷たく言うと、部屋を出ていった。扉が閉まる音がいつになく響く。遠くに聞こえるのは彼の足音だ。

 アッシュが不安そうな顔でシャルロッテを見上げる。


「パパはお仕事ですって。今日はママと一緒にいましょうね」

「いっしょ?」

「うん、一緒。ママね、ちょっと病気になっちゃったの。だから、一緒に眠ってくれる?」

「いっしょ」


 アッシュは頷くとシャルロッテの腕に頭を埋めた、頭をシャルロッテに押しつけるのは狼だったときの癖だ。人間でも狼でも何も変らない。

 シャルロッテは人間用の寝間着を探し出し、アッシュに着せた。以前、オリバーから人間になったときのためにと服が用意されていると聞いていたのだ。

 用意周到で、サイズも多岐にわたっていた。

 中には尻尾が出せるようになった作りのものもある。こういうのは誰が用意しているのだろうか。

 皇族の誰かがせっせと作っていると考えると、少しだけ面白い。

 シャルロッテは大きなベッドの中に入った。もちろんアッシュも一緒だ。


「本当は一緒に遊びたいけど、今日は寝ないといけないの」

「いっしょ、ねる」

「うん、お休み」


 アッシュはシャルロッテの服から手を離さない。

 愛おしさを感じながら、眠りについた。


 ◇◆◇


 いつもよりも暖かくて心地いい。

 腕の中の温もりに、シャルロッテは顔を埋めた。大好きな感触。もふもふでふわふわだ。撫で回していると、もぞもぞと動いた。


(ん? 動いた?)


 シャルロッテは驚きに目を見開く。

 腕の中には小さくてふわふわな子狼が丸まって眠っていた。


(そうだった。一緒に眠ったんだった!)


 昼間に眠ったのに、まだ明るい。そんなに時間は経っていなさそうなのに、やけにすっきりとしている。

 アッシュは目を開くと、ぺろりとシャルロッテの手を舐めた。


(可愛い~)


 寝起きのアッシュは視線を彷徨わせる。それが可愛すぎて、頭をぐりぐりと撫で回す。

 アッシュの部屋のテーブルには食事が並んでいる。一つは大人用。シャルロッテの物だろう。そして、もう一つは空になったアッシュの物だ。

 シャルロッテは首を傾げた。


(私がアッシュの部屋に来たのは昼で、今は多分昼間よね? なんでごはんが?)


 食事は乾いている。アッシュは心配そうにシャルロッテの足元をグルグルと回った。


(もしかして、私、丸一日眠ってた?)


 カタルかオリバーが食事を持って来たのではないか。その時にアッシュは目を覚まして食べたのだろう。

 そういえば、お腹がすいている。着替えもしたいし、風呂にも入りたかった。


「アッシュ、私は一回本邸に行ってくるね」

「キュゥン……」


 アッシュは寂しそうに鳴いた。その声があまりにも苦しそうでシャルロッテは「まだ一緒にいる」といいそうになる。あと三日くらいここでゴロゴロしていてもいいのではないか。邪な考えが頭を過る。


(だめだめ。身支度はちゃんとしないと!)


 シャルロッテは床に座り、アッシュと視線を合わせて言った。


「パパに外に行っていいか聞いてくるから、いいよって言ってもらったら遊びにいこうね」


 アッシュが不思議そうに目を瞬かせた。


(そっか、外も知らないんだ。絶対許可をもらわなくちゃ!)


「いい子で待ってたら、あとでいいところに連れて行ってあげる」


 シャルロッテの言葉にアッシュが嬉しそうに鳴いた。


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